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生態発生学の観点から、多様な動物の進化を解明する〜三浦 徹・東京大学大学院理学系研究科 附属臨海実験所 教授

2020年4月3日 by Top Researchers編集部

動物の革新的な進化は、いかにして起こるのか。これら発生過程を解明するべく、さまざまな種類の動物の生活史や発生機構について研究を行なう学問が、生態発生学と呼ばれる学問である。この生態発生学の第一人者として知られるのが、東京大学 大学院理学系研究科 附属臨海実験所の三浦 徹教授。今回は三浦教授に、環境変動に応じて表現型を自在に変化させる「表現型可塑性」を中心に、研究の概要について話を伺った。

表現型の可塑性に着目

Q:まずは、生態発生学という学問のなりたちについて教えてください。

もともと「発生学」というのは、卵の中でどうやって生き物の体が作られていくかというところ、生まれる前のところに特にフォーカスした分野でした。

従来の実験というのは実験室内で規則正しく、揺らぎやノイズがない状況でどうやって体ができてくるのかということを調べていました。いわば「試験管の中の学問」だったといえます。

それが動物を始めとする生き物の進化に興味がいってくると、その発生過程が動物によって違う、その発生過程が違うことによって「なぜそれぞれ、生き物の形は違うのか」というところが理解されるようになってきました。これが「進化発生学」という分野となります。もちろんその中では異なる遺伝子の使われ方がされており、人は人の形になり、魚は魚の形になり、昆虫は昆虫の形になると説明されてきました。

ところが同じ一種の動物においても、発生は必ずしも1パターンではなく、それが予測せずに不都合で揺らいでしまうことがあります。あるパターンを持って揺らぐ、変化していくわけです。これを、表現型可塑性と呼びます。

遺伝子のタイプ、これを遺伝子型と言いますが、その遺伝子型のタイプに対して形質・性質として現れる特徴を「表現型」と呼びます。しばしば遺伝子型と表現型との対応で比較されますが、表現型も環境によって揺さぶられ可塑的に変化することも多々あります。環境に適した形で、発生のプロセスが、遺伝ではなく環境によって左右される。それが逆に遺伝的なものに置き換わっていって、種が分かれることにも繋がっていく。

こうして、環境によって発生過程がどう変わっていくかにフォーカスを当てたのが、従来の発生学とは異なる、生態発生学です。2001年ごろから言われるようになりました。初期の論文では「Developmental biology meets the real world」といって、実際の世界で環境が揺らいでいるところでどうやって発生が起こるのかを見ていくような分野とされます。

典型的な例が、私も研究しているシロアリです。シロアリは社会性昆虫といわれ、一生の中で発生の経路が分かれ、女王や兵隊というような異なる表現型(カースト)へと分化していきます。しかし、環境によって形が変わるのは社会性昆虫に限りません。

我々が次に研究してきたのが、密度が高くなると羽が生えて別の場所に飛んでいくアブラムシ。外敵がいるときにだけツノを生やして食べられにくくなるミジンコ。こうした、環境要因に応じて形を変える現象というのは数多く観察されます。

人間に近い脊椎動物でいうと、ライチョウがあります。ライチョウは山にいる鳥ですけれども、夏と冬で毛の色が違います。しかも、この場合は同じ個体であっても季節により表現型を変えることができると言うわけです。

Q:その中で特に注目して研究している種はなにでしょうか。

オオシロアリ、シリス、アブラムシなどです。
シリスというのは海の生き物で、ゴカイの仲間(環形動物)です。非常に変わった生活のパターン、生活史を持っており、体の一部が別の1個体として形成され分離します。人間でたとえると膝から下のあたりに頭が出来てもう1個体でき、ちぎれて歩き出すような感じです。

シリスは尻尾の方に卵巣や精巣が発達し、その部位が新たな1個体として遊離し、遊泳を行い、繁殖(放精または放卵)をします。元の親個体は泳いでいかず繰り返し尾部に新たな個体を産生して無性的に繁殖します。
これは、シリスという仲間だけで進化させた特殊な発生様式です。この発生パターンとその進化を解き明かしたいと考えています。

続いてアブラムシ。この場合は密度という環境状況に応じて翅が生えてくるんですが、ご存知の通り農業害虫です。アブラナなどの芽に大量についているのを見たことがある人がいると思うのですが、アブラムシは自分のお尻からクローン個体を大量に生むのです。これを胎生単為生殖と言います。母親のお腹の中にはたくさん子どもが詰まっているのですが、それらはすべて自分のクローン。ねずみ算どころではなく、指数関数的に個体数が増えていくんですね。

すると、1つの植物にあっという間にアブラムシが充満してしまい、植物が枯れてしまいます。植物の液を吸って育っているアブラムシはそのままでは共倒れになってしまうため、一定の密度を超えると、翅が生えた個体が出現し、別の寄主植物を求めて飛翔します。
翅が生えた個体は違う植物にたどり着くと、すぐに子供を生みはじめます。ここでは、「密度」という環境状況によって翅が生える点がユニークです。

Q:臨海実験所が位置する三浦半島という地域では、どういった研究を進めているのでしょうか。

昆虫に加え、海という環境には、実に多様な動物がいることが特長です。海から離れた研究室では採集・飼育がなかなか難しいものでも、当臨海実験所はフィールドと研究所が隣接していますので、海産動物を研究するのには最適な場所です。

現在、研究室には10名ほどの学生がいますが、それぞれ様々な動物を研究しています。
研究を開始するときには、自分でフィールドに出て対象を自らの目で観察をすることが重要。また文献で関連する情報を集めることも一つでしょう。その中で興味深い現象があったとき、必ずしも過去の論文で記載されている種が手に入るとは限らないですから、自分の行けるフィールドで採集が可能であるものを選ぶことも必要です。

ただ、採集できても、その生き物が実験室に持って帰って来て飼えるかどうか分からないですし、繁殖させられるかどうかもわからないですね。そのときだけ生きていてもすぐに死んでしまったり、どうにか捕まえることはできるけれども非常にレアなものだと、研究は成立しません。

そのため、大まかに分類群を決めておき、その分類群で採集できるものをたくさん研究室に持ち帰り、①飼育できるもの、②可能であれば繁殖できるもの、③採集できるシーズンが分かっていて、そのときに大量の個体が採集できるものに分けます。シーズンがいつかを把握できればそれなりに研究のプランは立てられるかと思います。
研究室での飼育・繁殖が可能か、そして表現型が変化するものではその変化が誘導できるかと言う部分を、いかにして確立するかが研究の基礎を築く上でかなり重要です。

個々の生物の知見を人間に応用

Q:技術的な研究課題として感じていらっしゃるところはありますか。

DNAの配列情報が比較的安価に大量の情報を解読することができる、いわゆるゲノムをいろんな種の生物から解読できるようになり、情報が非常に豊富になっています。未だゲノム情報のないマニアックな動物についても、ゲノム配列や発現している遺伝子のトランスクリプトームも、ある程度のお金を払えば比較的簡単に分かるようになってきました。
ただそれをどうやってうまく使うのかは、難しい面があります。飼育や繁殖が可能になった個体でも、その遺伝子の機能解析がどこまで行えるのかは、それぞれの種類で開発せねばなりません。

ショウジョウハエなどのモデル実験生物であるように、ある遺伝子の機能を潰してその生き物がどうなるかという機能解析は、限られた動物しかできません。そこは今後の課題といえます。

さて、この生態発生学の研究は、表現型可塑性という意味では人間の社会に応用できる部分もあるのではないのかと思っています。私も本を書いたり、他の研究者と交流するなかで、表現型可塑性は他の多くの分野にわたって考えることができる、また、考えていかなくてはならない分野だと感じています。

例えば心理学でもスポーツ科学でも教育学においても、勉強やトレーニングの量に対して、どれだけ学習効果や身体能力が上がるか。これはまさに表現型可塑性の問題ということができます。他の分野の研究者の方々との交流を通じ、お互いに見聞を広げ合えたら、お互いにメリットもあるのではないのかなと思っています。

Q:研究室には、どんな学生がいますか。

研究室には、10人ほど学生がいます。学部生の4年生から卒業研究で配属になります。
学生がどの動物を対象にやるかを考えるとき、まずは好きな動物について、先ほど言ったような実験系にあてはめて研究ができるかどうかを検討してもらいます。

ただし「どうしてもこの生物種、動物種をやりたい」という学生に対しては自己責任で、情熱を優先します。実際に何名かはそのような形で、独自の材料で研究を行っています。例えば、イカ(頭足類)の吸盤の発生についての研究を行っている学生の例があります。10本あるイカの足にどうやって吸盤ができるのか、その形成過程に着目した研究を行っています。

吸盤は陰圧で吸い付いて体をホールドするのに役立つわけですが、吸盤はさまざまな動物の系統で独自に獲得されており、体を固定したり移動したりする他、餌を捕るためにも吸盤を利用します。しかし、それらがどういう仕組みで各系統で独立に獲得しているのかを我々はまだ知りません。このようなテーマは、これまでほぼ誰も研究しておらず、あえてそこに着眼した研究を今まさにやろうとしています。

Q:企業とお話をされる機会はありますか。

シロアリの研究から、シロアリ駆除関係の業者さんとかとは色々お話することはあります。
また最近では、企業がさまざまな自然現象に興味を持ってくれることもあります。例えばクワガタムシとかに興味を持ってくれたり、あるいはお医者さんにも昆虫マニアの方がいたりして、そういう方と意見交換をしたりもします。

東日本大震災後、東北で家屋が放置された場所にスズメバチの巣が大量にできてしまって、除染業者が被害に遭うということが起きていました。「震災後の復興フェイズにスズメバチの被害が多い」というテーマで、医者の方と一緒に論文を書いたこともあります。

Q:今後の展開を教えてください。

今後はロボット技術など、応用についての研究の発展も見据えています。海の動物の未知なところから、動物が作っている遺伝子産物や構造を応用した形で、何か産業に役立てるということも可能なのではないかと考えています。

例えば、社会性昆虫からヒントを得たものとして、複数の個体でチームワークで作業をする群ロボットというものもあり、かつて工学の先生と共同研究した経験もあります。社会性昆虫をモデルにして共同作業を行うレスキューロボットなどへの応用も可能となることが期待されます。
そういうものの研究の一環として、コラボレーションをできたらいいですね。(了)

三浦 徹

みうら・とおる

東京大学 大学院理学系研究科 附属臨海実験所 教授。

1999年、東京大学・大学院理学系研究科・生物科学専攻・博士課程修了・博士(理学)。

1999年、学術振興会特別研究員を経て、2000年より東京大学 大学院総合文化研究科 助手となる。

その後、2004年に北海道大学・大学院地球環境科学研究科 助教授、2007年に准教授となったのち、2017年より現職。

    Filed Under: Bio/Life Science

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