自由な校風と学生の若い発想を生かす環境により、近年注目が集まっている慶應義塾大学のSFC(湘南藤沢キャンパス)。授業での問題発見ワークからそのまま製品開発、地域連携まで包含し、デザイン賞まで受賞する成果を挙げているのが、環境情報学部の小川克彦教授だ。 民間企業に30年近く勤務したのち、その経験を生かして若者の指導にあたっている小川教授が標榜するのが「ヒューマンセンタードデザイン」。今回はその思想と実践について、現場の様子を伺った。
ネットとリアルの両方をフィールドに
Q:はじめに、教授が提唱する「場所メディア」とは何でしょうか?
まず学部の成り立ちとして、慶應大学のSFC(湘南藤沢キャンパス)には、総合政策学部と環境情報学部があります。SFCはもともと、問題発見解決型をテーマにして始まった大学です。過去の経験を学生に知ってもらうだけでは未来に起こる問題になかなか対処できないかもしれない。そうではなくて、未来には何が起こるか分からないけれども、いち早く問題を見つける能力や、専門的分野にとらわれない様々な知識を取り入れて、新しい解決の仕方を考える能力を身につける。これがSFCの特長です。
例えば学生に新しい問題を見つけてもらうときに、最初から先生がこれをやりなさいと指示してしまうと問題を発見する能力がなかなか身につきません。「場所メディア」と少し変わった名前が付いていますが、リアルを意味する「場所」とネットを意味する「メディア」を組み合わせています。つまり、「ネットとリアルをフィールドにして、それに対する問題と解決策を自分で考える」、これが私の研究室で行なっていることです。
そのため、学生がどんなことでもできるような環境を整えてあげたいと思っています。何でもできるのが私の研究室の特徴ですが、問題を発見するやり方や解決するやり方の方法論として、ヒューマンセンタードデザインという名前で活動をしています。
人間中心のデザインを追い求める
私自身、もともとNTTの研究所に29年間勤めていました。そこを終えて10年前にこちらに来ましたが、NTTの時にヒューマンインタフェース研究所を立ち上げて、自分でヒューマンファクターグループというものを作り、研究所の名前は変わりましたが、最後は研究所の所長をやってました。
NTTでは、通信ネットワークを間違えず安全に操作するオペレーションを大切にしています。オペレーションを効率的に行ない、ミスをなくすことは地味な活動かもしれませんが、とても大切なことです。それはヒューマンエラーと呼ばれたりもしますが、例えば飛行機が落ちれば人間のせいにされてしまうこともあります。しかし実際には計器のデザインがとても悪く、ある事故では、パイロットが計器をパッと見た時に高度と傾斜角を見間違えてしまったことが原因と言われたこともありました。このようなミスの防止は、社会や世の中にとって重要であり、研究の必要性を感じてきました。
この考え方の基本は、人間中心のモノやコトのデザインなんです。これをヒューマンセンタードデザインと呼んでいて、その方法論を元にして学生たちが考えた問題について一緒に考えています。
機械のデザインが悪くてミスが多くなると、人間が疲れてしまいます。最近では機械と人間だけではなくてソーシャルメディアのように人間がスマートフォンの向こう側にいることもあり、そうなると人間対人間の付き合いになってきます。つまり、ソフトウェアがろくでもないと、人間同士が疲れてしまうわけです。
例えばLINEには既読機能があって、自分がメッセージを送ったのに相手が見ていないとなるとイライラする人がいますよね。また、既読になったとしても今度は返事が来ないとイライラする人もいます。つまり、そういった機能をつける事で悪くなる人間関係もあるわけです。もともとLINEは連絡網に使うのがいいと思うのですが、それを人間同士の会話に使ってしまうとトラブルの元になったりもします。既読機能がなければ、避けられるトラブルもあると思います。つまりソフトでもハードでも人間中心でないデザインだと、ミスをするかだけではなくストレスを溜める原因にもなり得るのです。そうならないようなシステムやソフト、あるいは社会のルールのようなものをどのようにして作るかを研究していくべきだと思っています。
私自身、1996年頃に腕時計電話を作った事がありまして、その当時NTTはまだ一つの会社でした。そんな時、JRのように分割しようと話が持ち上がり、私のいた研究所はどこへ行くべきかと迷いました。そこで、持ち株会社を作ってそこに属して、その下に属している事業会社に研究所の成果を全て使えるようにすればいいのではないかと考えたわけです。そのために研究所の成果をもっと世の中にアピールしようとなり、たまたま作ったのがこの腕時計電話でした。
この時計は音声認識ができて、例えば「天気予報」と呼びかけると177に繋がります。なぜ腕時計型かと言うと、昔好きだった漫画に出てくるアイテムと同じようなものを作ってみたかったからです。その当時はたまたまそれができる役職にいましたので、実際に作ってしまいました。
これを1998年の長野オリンピックの時に100台作り、記者の方々に配って宣伝しました。全部で5億円かかったので、1台が500万円になるでしょうか。CNNにも出ましたし、世界に向けてかなりのアピールになったと思っています。ところが、すぐに売れる見通しがないのもあってなかなか実用化してもらえませんでした。実用化できたのは2003年にdocomoが作ったWRISTOMO (写真下)で、1996年に試作機を作ってから7年もかかりました。最近ではAppleWatchやGoogleWatchも出てきましたが実際にはそれほど売れていないようですし、私たちの作った腕時計電話に関しても正直あまり売れませんでした。
▲WRISTOMO
スマートフォンのような一般的なものと違って、少し個性的なものを売るのはなかなか難しい面があります。自分たちの技術をアピールするために世の中に出した物は、反響は大きくても買ってもらえるかは別の話なのだと思いました。やはり技術が中心だと売れない、ユーザー中心、人間中心である事は非常に重要である、とあらためて気づいたわけです。
これは少し違う言い方をすれば、マーケティングといえるかもしれません。建築業界で例えるなら、有名な人の中には芸術品のような建物を作っている人がいますよね。普通の家は住む人のために作られていますが、アートの建築はそうではありません。重要なのは、建物と住む人のどちらを中心に考えてデザインするのかです。ヒューマンセンタードデザインでは、学生や研究者に「一体何のためにモノを作るのか」を考えてほしいと思っています。
学生のアイデアが受賞するまで
去年たまたま私たちの作った卵型のお弁当箱がグッドデザイン賞をとりました。桜木町駅にある専門店街のメディア作りのために始めた研究で、5人ずつくらいで8つのグループを作ってたくさんの案を出し、その中の一つがこのお弁当のアイデアでした。学生たちは、専門店街でどんな人がどんな行動をしているのかを観察しに行ったのですが、お弁当やお惣菜を売っている専門店がたくさんあって、どのお弁当を買うのか迷っている人、そして買ったお弁当をみなとみらいの芝生のどこで食べようかと迷っている人など、いろんな人がいたんです。そのなかで自分の好きなおかずを選んで詰められたらもっと楽しいよね、というアイデアが出てきました。さらに、それを詰めるお弁当箱が可愛かったらもっといいよね、となってできたのが新しいお弁当箱のデザインです。
しかし実際の専門店街はお店ごとに売っている物が違いますから、会計もパッケージもバラバラです。これを統一してしまう事は、学生ならではのアイデアだと思います。
次にこのアイデアを会社に提案してみると、「面白そうだね」と話が進み、「デリ・サプリ」というサービス名で実験してみることになりました。まずパッケージを作って、それぞれのお店にお惣菜を作ってもらって、4種類まで詰められるようにしました。
▲DELICIOUS SUPPLEMENT(デリ・サプリ)
お弁当箱も色が4種類あって、その日の気分で選べます。可愛いお弁当箱を選んで、おかずも選んで、外で食べられる。このような「お弁当文化」を提案したわけです。
これは全て学生からの提案で、1年間くらい試行錯誤を繰り返していくうちにJR東日本や広告会社も加わって、実験ができるまでになりました。最初はお客さんの観察から始まり、自分たちでも食べたり使ったりしてデザインを試行錯誤しながら作った物です。つまりお客さんの立場からの発想が中心で、そこには高度な技術はあまり必要ありませんでした。最初は私たちだけで考えたものですが、少しずつ様々な人たちの協力を得てかたちができあがり、デザイン賞にも選ばれて海外の広告賞をたくさん取るまでになりました。
このように、観察して、何かを作ってみて、改善してまた作っていく。これがヒューマンセンタードデザインです。正直お弁当作りまでできてしまうのかと、私もちょっと驚いています。これはSFCの学生ならではだと思いますね。
「日本の未来は暗い」など、未来の事をネガティブに言う人もいますが、私はあまりそう思っていません。若い人たちを締め付けているのは、私たちと同じ世代かそれ以上の世代だと思っていて、若い人たちにもっと自由に発想させれば良い物ができると思っています。若い人たちの発想を邪魔しないことが大切ですね。
無論、一方ではしっかりプログラムを書ける知識のある人も必要ですから、柔軟な発想とそれを実行する技術を持つ人たちみんなでチームを組めたら良いのではと思っています。私は学生に発想の仕方を教えていますが、その内容については学生自身に任せています。発想の邪魔をしないで伸ばしてあげたい、この考えがヒューマンセンタードデザインでは一番大切だと考えています。
1000億円市場を狙うような技術を核にしたバイオベンチャーとは違いますが、私たちの社会生活を豊かにする意味では若い人たちの発想を大事にしてあげれば、良い物ができると思っています。論理的でないとか信頼性がないからダメだとか、もちろんそういった指導も大事です。しかし、そればかりを優先してしまっては社会の役に立つモノやコトの入り口をふさいでしまうかもしれません。
今の大学にはランキングがあり、予備校は偏差値を重要視しています。それによって順列ができてしまい、みんな良い所へ行きたがってしまいます。冒頭にも話したんですが、過去の問題を解くことに秀でている人は未来の問題を見つけたり解いたりすることが苦手かもしれません。未来にふさわしい人は、大学の偏差値で測れない人じゃないかと思うのです。世間で言われているような頭の良い悪いで測れないような事を、次の世代の人たちにやっていってほしいなというのが私の望みです。
具合的には、ヒューマンセンタードデザインのような事を一緒に取り組んで、実際に様々なことに挑戦をしてみる。失敗したらやり直せばいい。一人でやることもあるかもしれませんが、グループでやっても良いですし、必要なら周りの人も巻き込んでしまえばいい。そういった意味では大学の研究室というよりも、社会に開かれた一つの発想拠点のような場所を作りたいと思っています。
民間企業で続けた、ヒューマンエラー撲滅の研究
Q:これまでのご経歴をお聞かせください。
大学卒業後はそのまま大学院に進み、修士課程を経てNTTの研究所に入りました。そこでは画像処理のソフトウェアを作っていました。自分でOSも開発していて、様々なCGのソフトも作っていました。ちゃんと実用化して社会保険庁など様々な場所で使われていましたが、そのソフトの出来があまりにも悪く、お客さんからは使いにくいとよく言われていました。それもあって自分で使い易いソフトを作るための研究やミスをしないシステムを作るための研究を始めました。
元々大学は人間工学とか認知科学の研究室でしたので、基礎知識はあったものの実際の社会にどのように応用すればいいのかはよく分かっておらず、具体的なテーマを見つけて研究グループを立ち上げました。
最初にしたのは、TV映像の伝送システムのヒューマンエラーをなくす取り組みでした。もともとTVの地上波は地域限定なので、例えば長崎と東京の生中継をする時には、途中のTV映像の伝送にはNTTのネットワークが使われていました。いろんな放送局で共有の専用線ですから、いつでも使えるわけではなく、前もって予約が必要でしたが、予約の際に間違える事が年に数回あったわけです。間違えてしまうと例えばNHKの番組が民間放送で流れてしまったりして、社会問題にもなってしまいます。それをどうにかしろと言われ、現場の人たちと一緒にヒューマンエラーゼロ化の取り組みを一年間続けました。
その結果、翌年はヒューマンエラーが全くなくなり、ヒューマンエラーやヒューマンインタフェースが大事だと会社に知ってもらう事ができました。そこから予算もたくさん来るようになり、最後は研究所の大きなテーマにもなりました。
ヒューマンインタフェースの研究が軌道に乗り、その次に取組んだのが当時のマルチメディアサービス、今でいうとインターネットのいろんなサービスでした。なかでもNTTのgooの検索エンジンがあり、最初はGoogleがなかったため、わりと強かったのですが、Googleが出てきてからは完全に負けてしまいましたね。その後は端末のプロジェクトを立ち上げて、先ほどの腕時計電話や光ネットワークのホームゲートウェイなどの開発を始めました。90年代後半からずっとマネージャーでしたので、自分で作るよりもいかに自分の仲間に良い物を作ってもらうか、またそのための環境を整えるマネジメントをしていました。お金をとったり成果を売り込んだりするのも大事なマネジャーの仕事です。
その延長で2007年には慶應大学にきて、ネットメディアを中心にモノやサービスのデザインをすることになりました。画像処理とかソフトウェアとかを専門的にやるわけではなくて、そういった道具を上手く使って実際の社会の役に立ち、ユーザーにとって使いやすいモノやサービスを開発する事が今の私の研究になっています。
Q:研究室の学生に対して、どのような方針をとっていますか。
早い人で2年生から研究室に入るのですが、まずは率直に「何をやりたい?」と声をかけます。あとは「どんな授業が楽しかった?」などの話をして、面談をします。一般的な大学生は何をしたいのかが決まっていない人が多いのですが、たとえ迷っていても何か一つこれがやりたいと思えることがあればいいのです。私の研究室は「何でもできる」ということが知られているため人気がありますが、そうなると学生を選ばなければなりません。さらに発想力豊かな女子が多く来るため、そのままにしておくと女子ばかりになってしまいます。ここは意識して男子も選ぶようにしていますね。 あとは、ただ単に何をしてもいいとなると逆に大変ですから、フィールドの用意をしてあげる事もあります。ただ、狭いフィールドにはしません。例えば先ほどのお弁当の話は、元々私が桜木町の専門店街の人と親しかったことから始まりました。こんな話があるよと提案して、その先の内容は学生に任せるような感じですね。
例えば「街を歩いていて不便だと感じたこと」をテーマにして授業した事もあります。レポートを書いてきてもらいましたが、中には化粧品についてのレポートもありました。16色も付いているアイシャドウなのに付属のチップが4つしか付いていないから不便だ、しかも失くしやすくて困るという内容でした。別のレポートでは「雨の日に電車に乗った時、閉じた傘を引っ掛けるにはどの鉄道の手すりが適しているか」を調べてきた人もいました。ある電車は手すりの形状が他の路線のものとは少し違っていて、傘を引っ掛けても足にぶつかりにくいそうです。一見小さな問題のようですが、これを発見できるのは大事な事ですし、問題発見の始まりはこういった事なのではないかなと思います。
先ほどの私たちが作った腕時計電話の話ではありませんが、当時世界一と言われたものでも役に立たない物よりは、小さな問題でも傘の発想のほうが良いなと考えたりもします。というのも、例えば世界一といわれる物は10人しか使わないけど、小さな問題でも解決したら10万人に役に立つほうが社会が少し良くなるのではと思うからです。
このような小さな問題を発見して、解決できる人をたくさん作りたいですね。
また私の研究室には一学年10~15人くらいの学生がいますが、その中から数人はすごい学生が出てきます。
例えばある女子学生が研究していたのが、「テイスト検索」です。彼女はクックパッドにあるレシピで、お気に入りの料理と味が同じだけど違う料理がないかといつも探していました。もともとお菓子作りが好きなのもあってか調味料などの計量をかなり厳密にしていて、いわゆる男の料理のような大雑把な味付けや調味料の計り方は好まなかったわけです。そこで彼女は、レシピごとに味噌や醤油など6種類ほどの調味料に対して主成分分析やクラスタ分析を行い、簡単な料理まで作ってみんなに食べてもらい、ある料理の味と他の料理の味の距離が本当に正しいのかを実践的に調べてテイスト検索を作りました。これは素晴らしいと思いましたね。自分の生活からの発想で、誰もやっていないことをするのはすごいことです。人間中心の考え方と日頃の問題発見、できればプログラムを書いてWEBサービスを作ったりして、実際に他人に試してもらって改良していく。ここまでできたら素晴らしいですね。
SFCの入学試験には小論文やAO入試がありますが、あれは発想力を試しているようなもので、なるべく予想できない事を問題として出したりします。同時に英語や数学の基礎学力、プログラムなどの言語力、そして発想力、この3つは欲しいですね。よくコミュニケーション能力が大事と言ったりもしますが、この3つはコミュニケーション能力以前の問題ですし、これがあれば誰とでも話す自信もつくのではないかと思っています。そういった意味では、社会に開かれた発想拠点はコミュニケーション能力の高い人を養成しているようなものかもしれませんね。
最近では成田エクスプレスの車掌さんたちが英語を話せるように勉強しているそうですが、多くの旅行者は中国人が多いですし、英語圏ではない人も日本に来ています。そのために車掌さんたちはタブレットも持っていて、自動翻訳ができるようになっているそうです。ただ最近ではGoogle翻訳も良くなってきていますし、たとえ喋れなくても調べた画面を見せるだけでもいいと思います。でも大事なのはそこではなくて、「なんとかして助けてあげたい」という心なのではと思っています。東京駅などで、外国から来た方が切符売り場で困っているのをよく見かけます。切符の買い方や目的地までの行き方が分からないからですが、そんな時こそ助けてあげたいという心を持ってほしいです。助けるにはある程度の言語能力も必要ですし、目的地まで案内するには知識も必要です。
先ほどお話しした3つの要素から生まれるコミュニケーション能力だと言えますが、もう一つ大事なのは、やはり心ではないかなと思うわけです。心があるだけでコミュニケーション能力はますます上がっていくのではないでしょうか。
Q:民間と大学両方の視点から、企業に何を期待されますか?
現在私は地方創生の研究をしています。地方創生の戦略を国が出していまして、地方版もたくさん出てきています。実際に地方に出向いてインタビューもしていますが、皆さん人口が減っていることで本当に困っています。この問題を解決する取り組みとしては、移住を促進する社会増と結婚や子育てを支援する自然増があります。自然増については行政も出会いサービスや街コンのような事を行なっていますが、ここで私が思うのは大学や会社を地方に作ってほしいということです。私の研究室を卒業した人の中にも何組か結婚した人がいますが、学校や会社はまさに出会いの場。若いうちから付き合って、そのまま結婚する人もたくさんいます。学校や会社のように何年か一緒に過ごせる場を作らない限り、イベントのような事ばかりやっているだけでは難しいと思います。お試し期間の場所が必要なんです。
例えば、優秀な研究者のいる東京の大学が地方にキャンパスや研究所を作り、そこで先進的な研究をやると同時に、先進的なベンチャー会社を起業する。それをサポートすることを行政に支援して欲しいと思っています。東京にある企業も大学と共同で研究するために地方に移転することはできないでしょうか。
慶應には山形県に鶴岡キャンパスがあり、 そこでは先進的なバイオ研究をしていて、 いくつかの研究が結実して5つのベンチャー会社が誕生しています。田舎は研究の場として優れています。私がいたNTTの研究所も横須賀の田舎にありましたが、朝から晩まで研究できるとても良い環境だったと思っています。ぜひ国は地方の大学にお金を回して、人材も地方に回るような仕組みを作ってほしいですね。
極端な話かもしれませんが、大学のインテリジェンスが分散し、先進的な企業が地方にできたり、共同研究のために東京の会社が移転すれば、仕事も増えますし移住も増えてそこで出会った人との結婚にも繋がるかもしれませんね(了)
小川 克彦
おがわ・かつひこ
慶應義塾大学 環境情報学部教授。1978年に慶應義塾大学工学部修士課程を修了し、同年NTTに入社。画像通信システムの実用化、インタフェースデザインの研究、ブロードバンドサービスや端末の開発に従事。NTTサイバーソリューション研究所所長を経て、2007年より現職。研究連携推進本部本部長を兼任。工学博士。専門は、ヒューマンセンタードデザイン、コミュニケーションサービス、ネット社会論。主な著書に『つながり進化論』(中央公論新社)、『デジタルな生活』(NTT出版)がある。