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生体分子を人工的材料に融合させ、「バイオものづくり」の新境地を拓く〜伊藤嘉浩・理化学研究所 主任研究員

2017年6月6日 by Top Researchers

バイオナノテクノロジーと呼ばれる研究が注目されている。そんな中、「生体分子と人工的材料の融合」を掲げ、長年研究しているのが、理化学研究所・主任研究員の伊藤嘉浩氏だ。氏の研究テーマには、バイオマテリアル、ドラッグデリバリーやバイオチップなど、実現が望まれている技術が並ぶ。今回はそれらの研究の最前線の立場から、話を伺った。

伊藤嘉浩・理化学研究所 主任研究員

Q:普段最先端の分野を研究なさっていますが、日々進歩がある中で最新の研究の概要にはどんなものがありますか?

もともと、工学を医学に応用する「医工学」の分野を、大学院にいる頃からずっと研究してきました。初めは人工臓器の材料を開発する研究をしていました。一番身近な材料ですと、人工血管や人工心臓の材料などがあります。人工血管は血液が流れるだけのチューブのようなもので、人工心臓は血液を流すポンプですね。これらは普通に一般の材料で作ってもすぐに血栓ができてしまい使えなくなってしまうため、そうならないような材料で作れるように研究をしてきました。このような材料を「バイオマテリアル」と呼んでいます。

この研究を続けていくうち、2000年頃から再生医療が盛んになってきました。その流れを受け、幹細胞のバイオをするための材料を開発したり、幹細胞と一緒に体内に埋め込んで機能するような組織工学も研究しています。

また同じ頃から注目度が上がったナノメディシンの分野では、昔の映画にもあるような薬剤を病変の部分にだけ届ける、「ドラッグデリバリー」のシステムも研究しています。

さらにいま、理研ベンチャーで進めているのは、バイオチップの研究です。DNAチップが1990年代の半ばから出てきて、今ではその応用もできるようになってきました。実際にDNAを使って診断するのは、多項目の遺伝子検出です。現段階では将来何かの病気になるかもしれないと予測するようなものです。しかし、現在の状態の診断をするためには、異常なタンパク質が多いか少ないかを多項目で調べる事が必要です。そのためにはタンパク質チップが必要ですが、これはまだ医療に使えるようなものはできていません。そこで、理研ベンチャーで実用的なシステムとして、このタンパク質チップを開発している最中です。実際の販売は再来年頃になるかと思います。

このように医工学の分野では現在、組織工学、薬剤を効率良く運ぶドラッグデリバリー、多項目を同時に診断するバイオチップの三つを研究している状態です。前の二つは実際に体内に入れるものを作る研究ですからまだ時間がかかります。一方でバイオチップに関しては比較的実用化しやすいため、ベンチャーとして特に進めていきたいと考えています。

Q:特にバイオチップには画期的な新しさがありそうですが、既存の診断方法とは違うものでしょうか?

既存は何か調べたい部分を一つ一つ調べる方法ですが、今回開発した方法は非常に少ない血液で多項目を同時に調べる事ができます。目標には唾液や尿などで調べる方法もありますが、まずは一番安定的に結果が得られる血液を使います。特に進めていきたいのは、最近増えてきている小児のアレルギー診断です。小児から大量の血液を採取する事は難しいですから、少ない血液で診断できるようなシステムを作ろうと研究しています。

Q:同じ分野でも基礎研究と発展させたい部分があると思いますが、先生の中で一貫している部分とチャレンジしたい部分はありますか?

技術としてずっと続けてきているのは、生体分子と人工的な材料を融合させる事ですね。ここを精密に行なったり、様々な工夫をして一番使いやすいものにしていく事が一番の目的です。

融合については単に混ぜるだけでも作れますが、ここを正確に設計できるようにして再現性高く同じように作っていくのはたいへん難しい。そのため、時間をかけて方法を開発しています。

Q:研究の進捗と世の中の技術の進歩は深く関わってくると思いますが、ご自身の研究の方針などが大きく変わった事などはありますか?

やはりバイオものづくりでの精密さの面で言うと、最近になってやっと遺伝子工学の技術と化学の技術が思い通りに融合できるようになってきたかなと思っています。元々の大きな流れは1960~1970年代頃に遺伝子工学ができるようになり、天然にあるものの配列を変える事や、タンパク質を思いどおりに設計する事が人工的にできるようになりました。そして2000年頃からは、人工の分子や人工の材料もその中に精密に入れられるようになりました。今まで天然では存在しなかった、新しい機能を持った分子が作れるようになってきたわけです。バイオテクノロジーとナノテクノロジーを融合したような、新しいナノバイオテクノロジーができ、これを使って展開しています。

Q:この分野では、世界的に見てどの国が進んでいると考えていますか?

アメリカや欧米でも進んでいる所はありますが、日本も盛んだと思っています。元々こういった融合による技術はアメリカで生まれやすいのもありますが、同じ分野の研究者も増えてきていますから日本も展開できている感じがしています。

Q:現場での技術的な課題、また制度や産業的な課題はありますか?

まず技術的な課題については、だんだんと改善されてきていると感じています。例えば、これまでは大腸菌のような生物でしか作れなかったタンパク質を人工的に試験管内で作れるようになっていますし、遺伝子を作る技術も発展してきています。難しいのはこれをどのように使っていくかですね。

基本的なシーズとしてはかなりできていますが、実際にそれを何に使うのかとなるとなかなか難しいわけです。しかし制度的な課題については良くなってきていると思います。日本の企業は基礎研究にあまり力を入れていないかもしれませんが、最近では基礎研究が産業化しやすいアメリカを真似たりしています。アメリカのように、基礎研究が実用化に繋がりやすいシステムや制度が徐々にできてきていると思っています。あとは先ほど産業的なニーズに繋がりにくいとお話ししましたが、ニーズのある研究ももちろんあります。例えば大腸菌を使わずにタンパク質を作る事は、日本だけでなくアメリカでも盛んになってきています。

タンパク質を人工的に作れるようになれば、もっと新しい機能を持ったタンパク質も作る事ができます。現在医薬の1/4を占めている抗体医薬という物がありますが、そこに抗がん剤をつける研究なども盛んに行なわれています。しかし現段階では、なかなか精密に複合させるのは難しい状態です。これが上手くいけばがんの部位に集中して薬剤を運ぶ事ができますから、現在よりももっと治療がしやすくなるわけです。こういった部分はとてもニーズのある研究であると言えますね。他に特徴的なものだと、進化分子工学の分野の研究もしています。突然変異がランダムに起こって、そこから自然淘汰して自然に適合したものだけが生き残るサイクルを分子レベルで研究しています。ランダムに分子を作り、その中からある特定の機能を持った分子だけを選んでいく方法です。

例えば抗体ですが、これは普通には単にくっつくだけの機能しかないものですが、先ほどもお話ししたように進化分子工学と化学的な技術とを融合することにより、診断薬としての利用方法として、くっついた時に光ったり、電気が流れたりするファンクションを導入する事ができるように理研ではしています。ナノバイオテクノロジーを使ってこのような分子を新しく作ろうとしています。

Q:伊藤様のこれまでの経歴についてお願いします。

元々京都大学の工学部、高分子化学の学科にいました。大学の時には高分子化学の様々な材料を作っていまして、大学院時代には生体分子を複合化して新しい材料にする事をしていました。それからは生体材料を作る時に複合化する様々な方法を工夫してきて、現在に至ります。自分がいた大学で助手と助教授を経て、その後はもう少し研究を中心にしたいと思い、理研に移って研究をしています。

元々いた高分子化学はプラスチックを作る学科で、その中で特に生体の高分子に興味を持ちました。そもそも高分子化学では、昔は、蚕が作るタンパク質をまねてナイロンにしたり、ゴムの木から作っていたゴムを石油から合成して作れるようにしていました。それをさらに進めるように石油から作った人工物と生物が作る高分子を融合して、生物が作らないような新しい高分子を作る事をテーマにしてきました。

Q:この分野は近年の発達が目覚ましいと思いますが、最近の若い研究者を見て感じる事はありますか?

みなさん熱心に取り組んでいるなと思っています。しかし工学部の学生は博士課程に進まない人が多いと以前からよく言われています。工学部なのに産業界とはあまり繋がりがわかりにくかったり、研究があまり直接つながりにくい部分がその理由だと思います。大学に残って研究を続けるか、会社に勤めるかの二択になってしまいがちです。ですから学生に期待するよりも、研究をするとこんな社会的な意義があると彼らに見せられるようにしていく事が重要かなと思っています。

Q:産業化に時間がかかるとお話しされていましたが、企業に期待する事はありますか?

まずはベンチャーで作る一度に多項目を診断できるプラットフォームを、医療でいろいろな分野で使えるようにしていきたいです。現在は検査で採血をしても、そこから検査専門の会社に送るため一週間ぐらいかかってやっと結果がわかるような状態です。これをその場で結果が分かるようにして、すぐに治療の計画に使えるシステムを現在開発しています。

実際に理研ベンチャーでは、大手の診断薬を作っている会社と共同で進めていく計画をしています。このような分析システムを、今後は、いろいろな企業と共同して様々な診断分野で応用できるようどんどん広げていきたいですね。

Q:今後はどんな事に活用が広がっていきますか?

現段階ではアレルギーなどの抗体検査や、自己免疫疾患に使うことをベースにしています。今後はがんマーカーを調べたり、アルツハイマーなどの神経症になる可能性があるかを診断する事にも使えるようにしていきたいです。様々な検査が簡潔になる上に、病気の治療や予防の面でも非常に有用であると言えますね。< 了 >

伊藤 嘉浩

いとう・よしひろ

工学博士。特定国立研究開発法人理化学研究所 伊藤ナノ医工学研究室 主任研究員。同研究所 創発物性科学研究センター 創発生体工学材料研究チーム チームリーダー兼務。

1986年、京都大学大学院工学研究科 高分子化学専攻博士課程中退後、工学博士。その後、京都大学助手、同大学大学院助教授、奈良先端科学技術大学院大学助教授、徳島大学教授、神奈川科学技術アカデミー・プロジェクトリーダーを経て、2004年に現職、2013年からチームリーダー兼務。現在、首都大学東京、東京工業大学連携大学院教授、北海道大学、名古屋大学、早稲田大学客員教授、中国科学院長春応用化学研究所客座教授も務める。2017年理研ベンチャーのアール・ナノバイオ株式会社設立。

    Filed Under: Bio/Life Science

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