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生殖細胞学の観点から、不妊のメカニズムを解明する〜林克彦・九州大学医学研究院教授

2020年5月15日 by Top Researchers編集部

不妊症は社会問題のひとつであり、その治療と原因究明が望まれている。生殖細胞の発生過程を体外培養系で再構築するべく、哺乳類の生殖細胞の発生・分化について、分子生物学や細胞生物学的な手法を用いて研究に取り組んでいるのが、九州大学医学研究院の林 克彦 教授だ。
今回は林教授に、体外培養系の特徴と改善すべき課題について話を伺った。

老化しない生殖細胞の謎を解き明かす

Q:研究の概要を教えてください。

生殖細胞は次の世代に子孫を残すために身体の中でつくられる細胞で、他の体細胞にはない特殊な分化過程を経るものです。他の細胞は基本的に老化していくものですが、生殖細胞はずっとそのままです。それは生物の種を維持することはもちろんですが、生物学的には「老化しない細胞」といえるでしょう。

ではなぜ、生殖細胞は特殊で老化しないのかということは、誰にも知られていません。老化といっても様々な謎があるため、生殖細胞の分化過程を一つ一つ紐解いていって、その知識を合わせていくことで解明できると考えています。
この学問を、私たちは「生殖細胞学」と呼んでいます。生殖細胞は、当然ですがオスとメスで形が違っています。その違いも進化の過程でできてきたものですから、それを踏まえて研究をしています。研究自体は私一人ではできませんので、生殖細胞の研究をしている人たちが集まって謎を解いていくということが、この業界のバックグラウンドとなっています。
具体的には何に注目していますか?
哺乳類の卵母細胞がどのようにできあがってくるかに注目しています。卵母細胞は卵子のもとのようなイメージの細胞です。

卵子は受精可能なできあがった状態の配偶子で、できあがる前の段階にある細胞が卵母細胞です。興味の対象はいくつかあって、まず卵母細胞は個体の誕生とともに約3分の2は死んでしまいます。これは、人間でも同じです。
一方で卵母細胞を使い切って不妊になってしまう人がいます。では、なぜその大事な卵母細胞を、生まれるときに大量に殺してしまうのか。それはまだよくわかっていません。

また、生き残った3分の1くらいの細胞は卵巣の中に残るわけですが、それを今度はすごく「節約」した使い方をすることがわかっています。しかし、どういうメカニズムで少しずつ節約して使うのかはわかっていません。

さらに、使われるものは最初は小さいのですが、それが直径にして約5倍の大きさになります。そこまで大きくなるのは生物学的に見ても珍しい細胞だといえます。サイズだけではなく、機能的にも大きくならなければ発生はできませんが、なぜ大きくなるのかということはわかっていません。観察される事実はあるものの、ではなぜそのようなことが起こるのかという部分がわかっていないわけです。
これらが、研究の基本的なバックグラウンドです。

このように、卵母細胞の発生にはよくわからない過程があるため、我々が基礎研究においてその分化過程を明らかにすることで、不妊の理由が明らかになり、ひいては治療につながっていくといえます。

Q:実際の研究ではどのような進め方をしていますか。

マウスの卵母細胞に働いている遺伝子をあらゆる方法でスクリーニングして選び、遺伝子の機能を解析するという流れをとっています。マウスは様々な遺伝子改変や、生体面の材料などが比較的手に入りやすいといえます。
私たちの研究の大きな特長は、卵母細胞の発生過程をすべて培養条件下で再構築できることです。これが最近の成果でもあります。
もともとは多能性幹細胞である ES 細胞や iPS 細胞、これらは身体中のすべての細胞になれるものですが、理論的には細胞に必要な刺激さえ与えてあげれば、体内での発生を踏襲して、体外でも同じように様々な細胞に育つことができます。
生殖細胞も同じだろうということが発端となって、生殖細胞の元の細胞の分化誘導から始まって、現在は卵母細胞まで培養できるようになりました。

Q:卵巣移植の研究について教えてください。

卵巣の中はかなり特殊な環境です。生殖細胞の分化過程は大きく2つに分けることができます。
まずは「始原生殖細胞」といいまして、精子や卵子のもとになるもので胚発生の早い時期に出来上がります。
2つ目は、それらが精巣や卵巣に入ったのち、性に合わせた分化が起こります。始原生殖細胞は性によってさほど違いはないのですが、それが精巣や卵巣に入ることによって性の違いを獲得できるのです。

10年ほど前に、体外培養において始原生殖細胞はできていましたが、卵子をつくるという2段階目の性特異的な分化過程については生体への移植が必要でした。移植はある意味で便利なことですが、身体の中では様々なことが起きるため、卵子がどうやって出来上がるかについて不明なところも多くありました。それを身体の中に戻さずに体外で培養してやると、移植では見えなかったようなことが見えてくるわけです。

ここが不思議なところで、体外培養でできた卵子は体内のものよりやや質が悪いという特徴があります。つまり、体内では何らかの体外では再現できないメカニズムを使って、質の良い卵子をつくっていると考えられるのです。

体外培養をしていて、細胞の形が卵子に近づいた=できたと思っても、実際にはそんな甘い話ではありませんでした。そのギャップを埋める作業がポイントになっています。

Q:研究はさまざななところ協力しながら行なっているのですか?

マウスは哺乳類の中でも一番研究が進んでいるところなので、人間またはそれに近い動物に応用していくのがひとつの大きな目的です。マウス以外にも、それぞれの動物で様々な機関と協力をしています。
最近ではドイツのグループと絶滅危惧種の細胞についての研究もしました。絶滅危惧種で「キタシロサイ」という、世界で2頭しかいないサイの種がいるのですが、面白いことにES細胞やiPS細胞が他の動物に比べて安定的に採取できるという特長を持っています。これは共同研究をしていたドイツのグループが発見したのですが、もしこれらの細胞から卵子がつくれたら、動物を絶滅の危機から救うことができますよね。我々は、そういった研究も行なっています。

Q:実際の研究体制はどうなっていますか。

当研究室にある細胞としてはマウスとサル、あとはサイもいます。観察には一般的な顕微鏡を使っていますが、あるトリックがあります。細胞が生殖細胞になると蛍光タンパクが光るような遺伝子を入れています。通常のES細胞では光らないのですが、様々な薬剤をかけて生殖細胞になったら光るわけです。そのため、蛍光顕微鏡ですとか、フローサイトメトリという細胞の蛍光を検出する機械もあります。

卵母細胞が育つ体内の環境をつくる

Q:研究の課題として、どんな課題がありますか。

技術的課題として、卵子の質を上げる部分が大きな課題といえます。
また、他の動物に応用するというところで技術的な壁がたくさんあります。最も大きな壁は、卵母細胞が育つ体内の環境をつくることですね。
これまで成功したのは生殖細胞の分化を誘導することなのですが、生殖細胞は放っておけば自然に卵子になるわけではなく、周りの細胞の助けを借りることではじめて卵子になるわけです。その助けというのは、従来であればマウスの胎児の卵巣から取ってきた組織を体外培養下で混ぜていました。これは、「胎児が必要」ということを意味します。現在の倫理的な観点では、マウスの胎児を使うことはある程度許されてはいるものの、他の動物はそう簡単に使うことができません。そのため、人やサルの胎児を使って研究をすることは、非常に難しいといえます。

倫理的課題をカバーしながら、生殖細胞ができる環境をどのようにしてつくるかという部分が、現在の技術的な課題になっています。

さらなる倫理的な課題としては、「自然ではない配偶子から子供をつくって良いのか」という根本的な問題もあります。人工的な配偶子を実際のリプロダクションに使っていいのかという話です。私一人の努力では越えられないので、人々が議論すべきことだと思います。

一方で私たちにもできることはまだまだあります。技術的な正確性を上げることや、もしくは胎児を使わないような環境をつくるなどです。これらの面が向上することで、例えば卵子の質を普通に生体内から出てくる卵子と全く変わらないものにできたら、それを使いますか使いませんかということがまた倫理的な議論の前提になってくると思います。

現状では体外でつくったもののほうが明らかに劣っているので、明らかな倫理的な問題が出てくるわけですが、もし仮に卵子の質を引き上げることができたら、また違うレベルの倫理的な議論が出てくると思います。卵子の質を引き上げるところは、私たちの研究者としての倫理的な議論に対する役目かなと思っています。

Q:研究室には、どんな学生がいますか。

現在は、院生も含めて16人が在籍しています。再生医療には様々なゴールがありますので、それに向かって基礎を学んでいるといった感じでしょうか。
研究室では一人に一つテーマを与えていて、テーマづくりに関しては話しながら決めていきますし、一人で責任を持って取り組んでもらいます。ほとんどの人がマウスで研究をしていますが、サルやサイで研究をしている人もいますね。

研究に取り組む学生には、忍耐力が必要ですね。あとは失敗にめげないことも大切で、ダメならダメで切り替えが必要なこともたくさんあります。あとは、研究者としては発想力も大事ですね。いかに自分独自の考えを持って、研究を進めていけるかどうか。その発想を得るためには一人で座禅を組んでいてもわからないので、様々な人と喋って、意見を交換して議論をしていくコミュニケーション能力も必要ですね。

Q:国ごとに分野の違いはあるのでしょうか。

この分野は各国で発達していますが、国ごとのモチベーションには違いがありますね。例えば中国では、基礎研究からの応用がどんどん増えています。

我々の行く学会には、大きく分けて不妊系の医学会と動物系の学会があります。不妊系の学会の方々にも興味を持って頂けることが多く、我々の話も聞いてもらっていますが、日本は比較的不妊治療には保守的な国なので、技術的な進歩はあるもののそれを使うのは様子を見ながらといった感じですね。

一つ言えることは、日本の若者には元気がない人が多い気がします。海外などでは学生を含めた若い研究者はみんな元気で、アクティブに議論をしてきますし、中国には学びたいというモチベーションを持った学生がすごく多いです。日本の若者にももう少し元気を出して、いろいろなことに取り組んでもらいたいなと思います。

Q:民間企業との関わりはどの程度あるのでしょうか。

ごく稀にですが、企業とやりとりをすることもあります。不妊治療や創薬についてもそうですが、できた卵子や精子を使って動物をつくるとか、そういった話もありますね。

今後も企業と話す機会はなくはないと思いますが、我々は基礎研究の世界にいるので、企業さんが投資したからといってすぐにリターンがあるわけではありません。そこはちゃんと最初に説明しなければならない部分です。長い目で見てくれる企業さんにはより深い話もするかもしれませんが、すぐにリターンを求められるのは難しいところがあります。

Q:最後に、今後の目標について教えてください。

先ほどお話しした卵巣内の環境をつくる問題点については打破していきたいですし、生体内の細胞などを使わずに生殖細胞ができるということを達成したいと思っています。(了)

林 克彦

はやし・かつひこ

九州大学医学研究院教授。

1996年、明治大学農学研究科修士課程修了。2004年に博士(理学)取得。

1996年より、東京理科大学生命科学研究所助手。2002年より、大阪府立母子保健総合医療センター常勤研究員となる。

2005年から4年間、ケンブリッジ大学ガードン研究所博士研究員を経たのち、2009年より京都大学医学研究科講師。

2012年から京都大学医学研究科准教授に就任後、2014年より現職。

    Filed Under: Bio/Life Science

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