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高い送達効率・安全性などを持つDCBで再狭窄を抑制する~赤木 友紀・東京農工大学 工学研究院 先端物理工学部門  准教授 

2023年10月31日 by Top Researchers編集部

足の動脈が詰まり、血液の流れが悪くなることで発症する「末梢動脈疾患」。患者数は増加傾向にあり、現在だけでも350万人以上が報告されている。この治療には、「バルーン拡張術」が用いられるのが一般的だが、「再狭窄」の課題があり、それを解消するためにバルーンの表面に再狭窄を防止する薬剤が塗布されたドラッグコーティングバルーン(Drug Coated Balloon、以下DCB)が導入されている。しかし、患部に到達する前に大半の薬剤が流出するなど、従来のDCBは到達効率の低さが問題になっていた。そこで、安全で高い送達効率をもつ新型DCBを開発したのが、東京農工大学 工学研究院 先端物理工学部門の赤木 友紀准教授である。この技術は、バルーン拡張で認可が下りている低分子医薬だけでなく、中・高分子医薬品などにも適用でき、特許も取得している。今回は、赤木准教授に新たなDCBのメカニズムや特徴、今後の可能性についてお話を伺った。

遠隔操作で、光照射により、疾患部位に薬剤をリリース

Q: 研究概要や社会的ニーズについて教えてください。

私たちのラボでは、医療現場が抱えるアンメット・メディカル・ニーズ(いまだ満たされない医療ニーズ)に応えるために、化学・材料工学を基盤にして新規診断や治療システムなどの研究を行っています。新規治療システムの研究領域では、腹腔鏡下手術や、ロボット手術、血管内治療などメディカルプロシージャ(医療処置)におけるスマートマテリアルの開発に取り組んでいます。

その中でも、今注力している研究の1つが、ドラッグコーティングバルーン(以下、DCB)と呼ばれる治療法の新規開発です。DCBは、バルーンなどで一度拡張した血管の病変部が再狭窄しないよう予防するために、バルーン表面に薬剤を塗布しています。

この新規DCBの研究の話をする前に、まず一般的な血管内狭窄症の外科的治療について、簡単にご説明しておきます。外科的治療は、大きく2つの方法があります。1つは、バルーンで狭くなった血管を内側から押し広げる「バルーン拡張術」。もう1つは、網状の金属筒を留置して動脈を拡張させる「ステント留置術」といわれる方法です。「ステント留置術」は、股関節など設置できない箇所があったり、足のような荷重がかかる箇所では壊れやすいという問題もあります。また、血管内では異物として残り続けるので、血栓をつくってしまう可能性があります。下肢での狭窄症の治療は、「バルーン拡張術」が理想です。

ただし、この「バルーン拡張術」にも課題はあります。それは、先ほども少し触れましたが、バルーンだと狭くなった血管を押し広げるだけの治療であるため、数ヶ月〜数年後に再狭窄してしまうことです、そこで求められるのが「DCB」です。しかし、従来の「DCB」にも問題があり、それはバルーン表面に塗布している薬剤の到達効率が非常に低いことです。血液中に入ると、薬剤が患部に到達する途中で流れ出てしまい、患部で機能するのは、大体5.5%といわれています。薬剤は非常に高額でもあるため、途中で剥離してほとんど機能しないのは、患者さんにとっては大きな経済的負担にもなります。

この課題を解決するために、私たちが開発したのは、簡単にいうと、バルーンの表面に薬剤を結合させて、患部に到達した時に、遠隔操作で薬剤に光を照射して、リリースする仕組みです。

この研究の対象にしているのは、足の動脈がつまって、病気を引き起こす「末梢動脈疾患」です。患者数が増加傾向にあり、現在350万人以上が報告されています。まずは、この「末梢動脈疾患」での治療に適応させて、それができれば、将来的には、身体中で起こっているさまざまな狭窄による疾患にも、使えるような治療システムにしていくのが、私たちの目標です。

また、もう1つの大きなビジョンとしては、このDCBを中・高分子医薬など幅広い医薬品に搭載できるようにすることです。現在国内外問わずDCBが搭載できるのは、低分子医薬品に限られています。しかし、今盛んに研究され、医薬業界で注目されているのは、抗体医薬や核酸医薬、遺伝子医薬などの中・高分子医薬品です。私たちが研究開発しているDCBは、バルーンの表層に高分子集合体を導入できるので、中分子医薬や高分子医薬も、バルーン内に封入して患部でリリースすることが可能です。このように多種多様な薬剤を送達できるため、特許も取得しました。

他の狭窄症治療や、胃腸などの治療へDCBを応用

Q: 独自性はどんなところにありますか?

先日、日本心血管インターベーション治療学会(Japanese Association of Cardiovascular Intervention and Therapeutics:CVIT) が主催するピッチコンテストに参加して、最優秀賞をいただきました。DCBの研究開発は、薬剤を脱落させない技術や緩やかに薬剤を放出する仕組み作りがメインであり、私のように新しいストラテジーを構築している人はほとんどいないため、その点を評価して頂けたのかなと思います。特に、日本のアカデミアでDCBに着目している人は皆無で、現在はステントに関する研究が主流になっています。

また、全身投与型のドラックデリバリーシステムでは、高分子集合体を研究している人が多数いますが、私のように局所的なドラッグデリバリーシステムとして研究している人もほぼいません。これらが独自性にあたると考えています。

Q: この研究における課題は何ですか?

いま一番課題として感じているのは、アメリカだとスタートアップ企業が扱うような技術ですが、日本では、まだまだそうした考え方が広まっておらず、環境も整っていないところです。そんな中では、自分が大学教員をしながら、スタートアップを運営していくのは、現実的にハードルが高いです。もし、自らスタートアップ企業を立ち上げられたとしても、人材の確保や自分のキャパが大きな課題になると思います。

また、共同研究を通じて支援してくれる企業を募るには、できる限り早く動物実験などの研究成果を上げていくことが必要でしょう。そのためには、予算をもっと獲得していかなければなりませんし、PRをして認知してもらうことも大事になってきます。

Q: 企業に対して伝えたいことはありますか?

先日のピッチコンテストでの優勝やその他の発表を機に、医療機器メーカーや医薬品メーカーから、お声がけをいただくようになりました。今後、どのように進めていくかはまだ決まっていませんが、同じような問題意識を持っている企業がいることに非常に手応えを感じており、今後の研究の励みになっています。

これまで、この研究の発表の場は多くはなかったのですが、これからは色々な分野の方に知って頂くためにも積極的に研究成果を発表していこうと考えています。それによって、周りからも意見やアドバイスもいただけると思うので、加速度的に研究を進めていくことも可能になっていくでしょう。

さらに、この研究では、大きく分けて2つのニーズがあると考えています。1つは「薬剤送達バルーン」です。これは、現在の研究の主目的として進めていますが、血管内に限らず、バルーンが送達できるところであれば対応できます。薬剤に合わせて開裂する仕組みを変えられるため、さまざまな薬剤への対応が可能です。「こういう薬剤があるが、患部へのデリバリーの方法がなく困っている」など、課題を抱えている医薬品メーカーの方であればぜひ探索段階でもいいので、ご相談いただきたいと思います。

もう1つは「コーディング」です。私たちのコーティング技術は、バルーンに限らず様々な医療機器に施すことができます。このコーティング技術に関してはほぼ実証が済んでいますので、即座に共同研究等を始めることも可能です。遠隔操作で確実に薬剤を届けたい医療機器やデバイスがあれば、お声がけいただきたいと考えています。

Q: この分野を志す学生に大切なことは何でしょうか?

私たちの専攻が「生体用工学システム」ということもあり、医療に興味のある学生が多いですね。だから、今研究している「DCBの開発をしたい」という志を持って入ってくる学生も少なくありません。

そんな中、研究に取り組む上で、大切になってくるのは、「失敗を恐れない」気持ちです。学生実験では正解ありきですが、研究になってくると、これまで経験がないことにチャレンジするので、正解はありませんし、基本うまくいかないことがほとんどです。

そうした環境だと分かっているはずではありますが、1〜2回うまくいかないと、絶望してやる気を失ってしまう学生は多いです。そういうふうに捉えてしまう人たちにまず認識してほしいのは、「研究は、最初からうまくいくものではない」ということです。

私も学生の時は、日頃からそういうスタンスで研究していたので、うまくいかない結果が出ても、それほど落ち込むことはありませんでした。それに膨大な数の研究をこなすこと自体にも、それほど苦にはならなかったタイプだったので、研究結果が仮説通りにいかなくても、一喜一憂しませんでした。

このように、研究は普段の地道な取り組みと、失敗を恐れず、常に学び、次の研究につなげるポジティブさが必要だと思います。それに加えて、担当の指導教員や先輩、仲間らと普段から気軽に相談できる関係をつくることも重要だと感じています。一人で考えることはもちろん大切ですが、何事も一人で抱えてしまうと、研究でうまくいかないことが続いた時に、ネガティブな考えから脱却できないことも考えられるからです。

そんな時でも、相談できる人が身近にいれば、気持ちを切り替えたり、そこからの抜け出し方や対処方法などについてアドバイスをもらえたりすることができます。私自身も、指導教員として学生たちとの関係性は常に意識しています。元々話が好きなこともありますが、学生の考え方や興味があることを知りたいなと考えているので、時間があれば話しかけるようにしています。

Q: 最後に、今後の抱負を教えてください。

現在、私たちのラボでは、基礎から応用まで幅広い研究テーマをいくつか抱えていますが、その中でも、今回紹介した研究が、一番社会実装に近いと思います。乗り越えなければならないハードルがいくつもありますが、それらの課題をクリアして、まず「末梢動脈疾患」に苦しむ患者さんの力になれる新規DCBを開発できればと考えています。

そして将来的には、血管内の他の狭窄症治療だけでなく、いずれは胃や腸などでの活用も考えています。バルーンが通る空洞があれば薬剤の送達が可能ですので、さまざまな部位での利活用も視野に入れています。(了)

赤木 友紀

(あかぎ・ゆき)

東京農工大学 工学研究院 先端物理工学部門 准教授

2008年 奈良女子大学 理学部 化学科卒業。2010年 東京大学大学院 工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 修士課程修了。2013年 東京大学大学院 工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 博士課程修了。日本学術振興会  特別研究員(DC2)、(PD)を経て、2016年より東京大学大学院 工学系研究科 講師。2021年より現職。

    Filed Under: Nano Technology/Materials

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