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人工細胞を活用して、生物の進化を解き明かす〜市橋 伯一・東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系 先進科学研究機構 教授

2023年4月18日 by Top Researchers編集部

人類に残された最大の未解決テーマである「どうやって物質から生命が誕生したのか?」───この問題に取り組んできたのが東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系 先進科学研究機構の市橋 伯一教授である。「自然選択」や「人工細胞」によって、遺伝情報を持った、進化する分子複製システムを世界で初めて構築した。今回市橋教授に、研究の概要や、今後新たに取り組むテーマについて話を伺った。

自己複製する単純な分子が、複雑化する進化過程を解明した

Q:研究の概要についてお聞かせください。

私たち研究室が目指すのは、「どうやって物質から生命が誕生しうるのか」、その問題を解き明かすことです。そのために、最低限進化に必要な能力を持つシンプルな化学反応を自分たちでつくり、それを実験室内で進化させ、生物のような特徴が生まれるかどうかを検証しています。

生物の凄さや不思議さのほとんどは、進化の産物だと思います。いま現存する生物は、みんな機能を持っていて、しかも非生物にはない複雑さがあります。しかし、それらは数十億年前の地球には存在しておらず、それこそ化合物しかなかったと言われています。その化合物から、RNAや短いタンパク質などの分子が集まって自己複製をし進化を始めた結果、今いる生物たちが生まれてきました。こうした複雑なものが自発的に発生する現象は生物以外では観察されていません。そのメカニズムを理解したいというのが一番の目的です。

進化の再現実験としては、1967年にアメリカのソル・シュピーゲルマン博士らのグループにより、初めて試験管内で自己複製RNAが発表されました。進化するシステムには、2種類あります。1つは「人為選択」といわれ、人が手を加えて選択して、人が望むように継代していく方法です。もう1つが「自然選択」で、環境に適したものが生き残っていく自然界と同じ適応進化の仕組みです。

シュピーゲルマン博士の研究は、「自然選択」の初めての例で、これによって生物でなくても進化を起こせることが明らかになりました。しかし、結果はRNAの長さがどんどん短く単純化するだけで、単純な自己複製分子を複雑化するまでは至りませんでした。これは、単純なRNAのほうが少ない材料で、速く複製することができるためです。それによって遺伝情報も失われていきました。

生命の進化では、このように遺伝子の情報が失われることは起こりません。DNAに記録されている遺伝子の情報を失えば、増えることができないばかりか、エネルギーも作れなくなり、死んでしまうからです。なぜ、シュピーゲルマンの実験では、遺伝子の情報が失われてしまったのか。それは、彼らの実験には遺伝子情報を翻訳する仕組みが入っていなかったからです。

そこで、私たちの研究では、一段階生物に近づけるために、シュピーゲルマンの実験で外から加えていたRNA複製酵素を、遺伝子としてRNA自身に記録させ、さらに遺伝子からRNA複製酵素を作る仕組み(翻訳システム)も入れました。これによって、RNAの持っている情報から複製酵素を作り、それによって自分が増えるやり方で、いわゆる自己複製で、複製することができるようになりました。

ただ、だからといって、この翻訳システムの導入により、必ずしも生命が複雑化して進化していくわけではありません。その過程においても必要とされるモノがあります。その1つが、細胞のような区画構造です。これがなければ、ランダム変異の蓄積により、複製が持続できなくなり、最終的には全滅してしまいます。細胞のような容れ物を1つずつ作り、自分で良質なタンパク質を作らないといけない状態になって、はじめて生き残れるようになります。

また、パラサイト(寄生体)の存在も進化には大きな影響を及ぼします。複製を繰り返すと、自身で複製酵素を作らずに、他のRNAを作った複製酵素に依存して増える、パラサイトのRNAが生まれてきます。

この寄生体にとっては、一番多くの複製を行っているホスト(宿主)が対象になります。パラサイトは短時間でコピー数を増やすため、そのホストの順位が下がります。しかし不思議なことに、しばらくするとパラサイトが寄生されにくいホスト(宿主)が必ず生まれて、パラサイトの増殖を抑えます。そして、進化が加速します。パラサイトが出現しない状態だと進化が遅くなり、途中で頭打ちになってしまいます。このように、ホストとパラサイトで共進性が起こります。

Q:社会的ニーズは、どんな点にありますか?

今役立っている分野としては進化工学があります。現段階では、タンパク質や核酸などの高分子の改良は、狙ってもうまくいきません。そこで、酵素をさらに良くするために、進化工学的手法を用います。

一番高い能力を持つ酵素をピックアップして、ランダムに変異を加えることを繰り返すと、より良い酵素に進化していきます。進化工学でメジャーな手法では、既存の生物(微生物)を活用します。その点、私たちのやり方では、生物を使わずに、人工細胞システムで行えます。

生物を使った場合、活性が高くなるような遺伝子を入れると、その能力によって、周りが耐えきれずに死んでしまうことがあります。生物にとって毒性のあるタンパク質や、その生物内にないようなものを進化させたい時には、私たちが行っている人工細胞システムが適しています。人工細胞システムをつかうことで、今までの進化工学では作り出せなかったような酵素を作り出すことができるのです。

Q:研究の独自性はどんなところにありますか?

無生物による進化システムが、その独自性にあたると思います。材料は生物で作っていますが、タンパク質と核酸だけにして、他は全く生きていない実験系で研究を行っています。海外の研究グループでは、大腸菌やバクテリアなどを抽出し、その液をそのまま使うという事例がありますが、私たちのように、1つひとつ精製して進化まで実現しているのは、他にはありません。

また、先ほど話したように、ほとんどの研究が「人為選択」を活用しており、「自然選択」で、かつ翻訳を介して起きる進化システムを開発できているのは、世界でも私たちの研究室だけです。

Q:この研究に至るまでの経緯を教えてください。

私は薬学部の出身で、博士課程までは黄色ブドウ球菌の研究をしていました。しかし、その研究にあまり興味を持てなかったため、昔から関心のあった生命の進化という本質的なテーマに方向転換を決断しました。そしてポスドクになった時に、RNAの進化を研究されている大阪大学の四方(よも)先生の研究室に入りました。そこで1つの成果を出せたので、当時の研究テーマを延長させて、今も続けています。

進化の「予測」や「制御」の解析に挑む

Q:現在、新たに取り組んでいる研究はありますか?

今やっているのは、進化実験で起きていることの解析です。従来の生物進化の研究と違って、今では進化過程が全て保存されています。しかも次世代シーケンサーを使うと、集団の中の組成まで全てわかるので、何が、いつ、どこで生まれて、どのぐらいのスピードで増え始めたのかといった、詳細なプロセスが把握できます。

このような解析をしていくと、段階的な進化が全て分かるため、将来的には進化の「予測」や「制御」ができるのではないかと考えています。

一般的には「進化はランダムに起きる」と思われていますが、実際はそうではありません。最初の変移導入は確かにランダムな点が多いですが、変異が入るパターンはだいたい決まっていて、偏りがあります。そのルールさえつかめれば、進化の傾向を解き明かすことができると考えています。

また、この進化の予測が実現できれば、コロナウイルスなどのパンデミックの対策など、社会課題の解決にも活用できるようになります。例えば、新型コロナウイルスの進化は、誰一人予想できなかったと思います。オミクロンの変異株が出てきて、急速に広まり驚きましたが、あそこにもきっとパターンがあって、それを理解できるようになれば、次はどのあたりに変異が入りそうなのかも分かってくるはずです。そういう傾向を把握するために、さまざまな解析を行っています。

Q:この研究における課題はありますか?

今で600回(ラウンド)植え継いでいて、時間にすると3000時間です。かなり時間になりますが、今まで起きなかった現象を見たいと思うと、経験上これまでの2倍以上の継代回数を行う必要があります。人力では許容できないレベルになりつつあるため、自動継代システム(ロボット)を導入しようと考えています。企業に注文し、1年くらいかけてオーダーメイドで開発しています。そのため、非常に高額です。これが課題の1つになっています。

もう1つの課題は、今後研究を進めていこうとしている「進化予測」です。「予測」するため、大量のデータを元に解析を行っていく必要があります。それゆえ、ネットワーク解析や機械学習(AI)など、IT領域の知見が必要になってきます。

もちろん、まだそれが使えるどうかは分かりませんが、トライしてみないと、その判断もできません。まずは、その可能性を探るために、自分でやるしかないと思っています。そのため、作業量と時間が今課題(ネック)になっています。

 Q:この分野を志す学生に何かメッセージはありますか?

私たちの研究領域は生物系に括られていますが、生物を使っていないため、生物系とも言いがたく、化学系の研究者から見ても、RNAやタンパク質しか扱っていないので、化学系でもない。それらの境界領域にあたるため、私たちが研究していることに近い授業も行われていません。

既存の分野であれば、従来のやり方を踏襲しながら、新たなことにチャレンジすれば、フロンティアを目指せると思いますが、私たちの分野は、すべてが新しいことなので、トライ&エラーで、大胆に飛び込む勇気が必要です。

私たちの所属する生命環境科学系は、他大学の学生からすれば、東京大学の研究科の中でも、一番入りやすい学科ではないでしょうか。実際内部生(東大生)の定員よりも、外部生枠が2倍以上多く、他大学生にとっては広き門になっています。

また生命環境科学系には生物系の他に、物理系と化学系が入っていて、異分野融合が可能です。横断で、さまざまな学問に取り組んでみたい人に向いている大学院でもあります。ぜひ興味のある方は、チャレンジしてみてください。

Q: 企業に伝えたいことはありますか?

最近、自己増殖するような人工細胞の開発を検討しています。どういうものかというと、細胞ではありませんが、アミノ酸や核酸などの栄養だけを与えると、タンパク質やRNA、DNAが作られる一種の細胞のようなシステムです。

これができれば、今まで微生物に頼っていた物質生産がすべて、この人工物に代替できます。生き物を殺さなくても、栄養あるものを摂ることが可能になるわけです。無殺生で生きることもできます。まだ構想段階ですが、私たちは無細胞系から細胞を作り出す研究を長年やってきたので、あと1個ブレイクスルーを乗り越えれば、実現できるという感覚があります。もし、人工細胞に興味のある企業さんがいらっしゃれば、ぜひお声がけください。

Q:今後の抱負を教えてください。

最初にお話しましたが、まずは細胞進化の過程の理解です。どうやって物質から生命が誕生したのか。その過程で何が起きているのかを知りたいですね。そして、進化の予測と制御ができるように、解析のシステムも実現していきたいと考えています。そうすれば、さまざまなウイルスなどの解明にもつながり、社会にも貢献できるようになるはずですから。(了)

市橋 伯一

(いちはし・のりかず)

東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻生命環境科学系 先進科学研究機構 教授

2006年3月 東京大学 大学院博士課程修了(薬学)。JST ERATO 研究員、大阪大学 大学院情報科学研究科 准教授を経て、2019年1月より現職。著書には『協力と裏切りの生命進化史』(光文社新書)、『増えるものたちの進化生物学』(ちくまプリマー新書)がある。

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