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分子からマルチスケールな視点で材料を開発して、熱エネルギーを有効利用する~塩見淳一郎・東京大学工学系研究科総合研究機構/機械工学専攻 教授

2023年4月25日 by Top Researchers編集部

持続的社会の実現に向けて、熱エネルギーの有効利用が求められている。ナノスケールで熱を操作し、「伝える」「蓄える」「変換する」などのさまざまな熱機能を革新させ、熱エネルギーを有効利用した新材料を開発しているのが、東京大学工学系研究科総合研究機構/機械工学専攻の塩見淳一郎教授である。今回は、熱の第一人者である塩見教授に、熱エネルギー利用における最先端事例について伺った。

フォノンエンジニアリングにマテリアルズ・インフォマティクスを組み合わせて新素材を開発

Q:研究の概要についてお聞かせください。

われわれはミクロの世界から熱伝導を紐解き、熱機能を革新させ、熱エネルギーを有効利用した新材料の開発を行っています。

熱工学は、いかにしてモノを効率よく温めたり、冷やしたり、その熱を蓄えたり、他のエネルギーに変換したりする研究分野で、従来は既存の材料をどのように組み合わせて設計するかが勝負でした。しかし、20年程前にカーボンナノチューブをはじめとする分子スケールの構造に特徴のある新素材が出てきたことで、システム設計のコンセプト自体が大きく変わり、材料もシステムもトータルで考える必要が出てきました。それによって、ミクロな分子の世界に携わるようになり、フォノンエンジニアリングの研究をスタートしたのです。フォノンとは「原子の振動(格子振動)」のこと。この振動エネルギーを伝えることで、熱輸送(伝導)を起こします。これはミクロ(分子)のスケールの世界の話ですが、スケールを大きくすると、マクロな力学の「ばねマス系」に似ているため、私がそれまで取り組んでいた機械工学の分野とも親和性があったのです。

熱には「冷やす」「伝える」「蓄える」「(エネルギーを)変換する」など、さまざまな機能があり、それらの機能に着目して、熱エネルギーを効率的に活用することが重要です。「エネルギーを電気に変換する」機能でいえば、「熱電変換」というのがあります。これは、熱を直接電気に変える技術で、半導体材料を用いて、温度差を利用し電圧をつくり出します。温度差を維持して熱を電気に変換し続けるために、熱伝導率を低くする必要があり、それを実現するために、異なる材料をナノスケールの間隔で積み重ねる多層膜を開発しました。この際、膨大な候補構造の中から最適な素材と間隔を導き出す必要があったため、「材料科学」と「機械学習」を組み合わせた「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」という技術を用いました。

Q:研究の独自性はどんなところにありますか?

理論計算で材料を設計して作製し、物性を評価する。その際、機械学習を適宜用いて材料の構造と性能の相関関係あるいは因果関係を明らかにしながら、新材料の開発を行っています。このように様々な要素技術を開発して組みあせて、原子、材料、物性、システムを跨いでメカニズムを解明しながらモノづくりをしていく。この総合力こそが、われわれの独自性だと思います。

もちろん、MI(マテリアルズ・インフォマティクス)のような、われわれのラボが得意としている先駆的な要素技術もあります。最近のMIの研究では、計算データと実験データも合わせて用い、それぞれの長所を活かしながら統合的な機械学習を行っています。

Q:最近取り組んでいるユニークな研究事例があれば、教えていただけますか?

事例としては2つあります。

1つは、SDGsにつながる放熱技術を活かした新たな材料開発です。熱の放射率が高い表面構造をつくり、太陽光を反射させます。そうすると、周囲の気温よりもその表面温度が10℃ほど低くなるので、それによって空気中の水分を凝縮させて水を生成することができるのです。

この発想にたどり着いた背景には、「スカイラジエータ」という概念があります。これは太陽熱を反射しながら熱放射で宇宙に熱を逃がす技術です。太陽の表面温度は約5500℃と非常に高温で、太陽光の波長は非常に短いのが特徴です。それに比べて、地球の表面温度は30℃程度で、そこから出てくる放射熱(赤外線)は波長が長いため、大気で一部が吸収されてしまうのです。これは地球温暖化の要因とも言われている現象です。この赤外線を宇宙空間にもっと放出できれば、表面の温度を下げることができます。そのためには大気を透過する8〜13μmの波長域の光(赤外線)をつくらなければならず、その光を生み出す新たな材料を開発しています。

この熱放射材料と表面のミクロ構造を上手く工夫して組み合させることによって、表面温度を下げ、水の凝縮を促し、液滴を成長させ、水として採取することを効率的にできるようになりました。

もう1つは、2022年に発表した、セルロースナノファイバー(CNF)を用いた熱伝導の材料開発です。CNFは鋼鉄よりも強く、耐久性に秀でていて、すぐれた素材として、これまでも広く認められていました。われわれの研究では、流体プロセスを活用してCNFを分子スケールで配向させ、酸を用いて固めて作製したCNF糸材が、紙など従来の木質バイオマスの100倍以上の高熱伝導性を示すことを発見しました。木質のバイオマスは熱伝導率の低さから、従来は断熱材が用いられてきましたが、今回熱伝導率の高いCNFを開発できたことで、放熱性能を要求される高分子材料の代替え材としての応用が期待できるようになりました。

CNFは分散する段階で、コストがかかるため、社会実装を考えると製造プロセスが課題になっています。しかし、製造プロセスを見直してコストを抑えるよりも、より高い付加価値のあるCNFを開発するほうが、社会実装の可能性が高いと考えており、そうした新素材を研究している段階です。

専門の壁がなくなった今、オンリーワンになれるチャンス

Q:この分野を志す学生に伝えたいことはありますか?

以前であれば機械工学、電気工学、化学工学などの領域がはっきりと分かれていて、学生たちは1つの専門領域だけを勉強すればよかったのですが、今は専門の壁がなくなり学問領域も多様化して、学ぶべきことが確実に増えてきています。それだけ研究負荷が高くなってきていますが、裏を返せば、活躍できるフィールドが広がってきているといえるのではないでしょうか。自由度が高くなり、以前よりもオンリーワンを目指しやすい環境になっていると思います。研究室の学生には、まず「これならできる!」という自分の軸を一つ持ち、狭くてもよいので、徐々にオンリーワンになってほしいと、伝えています。

いろんな学生を見ていると、こちらからアドバイスしたことよりも、学生本人の興味・関心から始めたことが一番長続きしますし、それが最終的には自分のオリジナリティに結びついているように思います。時間をかけていいので、まずは自分の興味が持てるテーマを探してみることです。興味がある分野であれば研究にも集中できるので、自然と自分の得意なジャンルが明確になっていきます。

もう1つは、オンラインだけでなく、実際に海外に出て、もまれてみることです。現在私は、東京大学工学部の学生の留学コーディネートを担当していますが、向こうに行って、他国の留学生と共に学ぶ経験をすると、たった1年間でも見違えるくらい成長して帰ってきます。本人は全く気づいていませんが、われわれからすると、オーラが全く違って別人のようです。

なお、留学しても日本人の学生同士で集まっているだけでは何も変わりません。やはり研究室に入って、海外の研究を体験することです。そのような環境を用意できるように、私たち留学コーディネーターが行っているのは、海外の大学の研究室とのマッチングです。研究室に所属して、そこで家族の一員として、バックグラウンドの異なる先生や学生たちと議論を交わしながら、研究に取り組むことで、日本の大学ではなかなか得られない研究者としての多様な視点や考え方が身に付いてきます。

Q:企業とはどのような関わり方をされているのでしょうか?

今は約7社の企業と共同研究をしています。共同研究では、産業に役立つテーマはもちろんですが、学生たちのモチベーションにつながるようにアカデミックにも面白い課題を、最初に企業と話し合って設定するようにしています。そのために、大手企業との共同研究では、企業側の決裁者とディスカッションを行う場を持つようにしています。最初に決裁権を持つ企業の役員や部長クラスの人たちと合意がとれれば、一緒に大きな絵が描けると同時に、現場の研究者が動きやすくなり、研究は成功につながります。今後もアカデミックなバリューとインダストリーなバリューを追求できる共同研究をもっと増やしていきたいと考えています。

Q:最後に、今後の抱負を教えてください。

「熱」は非常に取り扱いの難しいエネルギーです。熱を宇宙空間に放出したり、熱を電気に変換したりできる新素材の開発。あるいは電子デバイスの革新的な放熱や省エネ技術の開発。また、濡れない、凍らない素材をデザインできれば、室外機への着霜が防止できるのでエアコンの効率が向上したり、アイスや雪が付着しない飛行機の両翼などにも活用できるので燃費の向上や墜落事故の防止にもつながります。こうした1つひとつの可能性を追求し、サステナビリティへ貢献していきたいと考えています。(了)

塩見 淳一郎

(しおみ・じゅんいちろう)

東京大学 工学系研究科 総合研究機構/機械工学専攻 教授

1999年 東北大学 工学部 機械知能工学科卒業。2004年 スウェーデン王立工科大学Ph.D. (in Mechanics)。2004年より日本学術振興会 特別研究員、2007年より東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 助教を経て、2008年同大学大学院 同学科 同専攻 講師、2010年同大学大学院 同学科 同専攻 准教授。マサチューセッツ工科大学 客員研究員(2010〜2011年 )、科学技術振興機構さきがけ研究員(2012〜2015年)、理化学研究所 革新知能統合研究センター 客員研究員(2017年〜)などを兼務。2017年より現職。

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