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新たな電解反応技術の可能性を模索〜稲木 信介・東京工業大学 物質理工学院 教授

2023年3月7日 by Top Researchers編集部

近年、エネルギー・環境問題の解決に向けた取り組みとして、従来の化学反応技術に代わって、電気化学を活用した電解反応技術の開発が注目を集めている。しかし、電極に給電するための電源装置の導入や配線のわずらしさが課題となっていた。こうした中、2022年に、給電せずに電解反応を起こせる技術を開発したのが東京工業大学 物質理工学院の稲木 信介教授である。今回、稲木教授に本研究の内容と、電解反応技術の可能性について話を伺った。

流動電位を電解反応に活用

Q:研究の概要についてお聞かせください。

一般的に物質の合成では、熱をかけたり、反応性の高い試薬を入れたりして化学反応を起こします。こうしたやり方ではなく、私たちが取り組んでいるのは、電気化学の力を使ったクリーンなエネルギーによる化学反応(電解反応)です。従来の化学反応では、危険性のある試薬を用いたり、熱エネルギーを併用したりするだけでなく、反応後には、これら試薬が廃棄物として残ってしまう課題もありました。

その点、私たちが研究している電解反応は、反応容器に挿入した電極に電気を流すことで電極に触れた物質との電子授受によって反応を起こすことができ、試薬の種類や量を軽減することが可能です。また電気エネルギーを使うため、加熱(熱エネルギー)を必要とせずに常温常圧で行える利点もあります。電気エネルギーは分子にエネルギーを与える大きさを電位で制御できるので、エネルギーを与えすぎて副反応が起こる課題も解消でき、選択的な反応が可能になります。一方で、大きなエネルギーを分子に与えることで、従来の化学反応プロセスでは実現できない物質合成が可能となることもあります。

私たちの研究室では、この電解反応技術をさらに進め、給電せずに、電解反応を起こす手法を開発し、2022年に発表しました。これは、電解反応にもかかわらず、電極への給電を必要としないという一見矛盾した挑戦的な課題でした。

先ほどお話ししたように、通常の電解反応では電気エネルギーが必要なため、電気をコンセントから取りますが、私たちが開発した手法では、送液する(液体を管に流す)際に微量に生じる電気エネルギーを利用して駆動し、電解反応を起こします。マイクロ流路に電解質濃度の低い溶液を送液した場合、流路の上流と下流で電位差が生じます。これを「流動電位」といい、この外部電場を利用しました。ただ、これまでの流動電位は、分析機器で数十mV程度用いられただけで、電解反応に利用する研究は皆無でした。私たちの研究では、流路の改善、有機溶媒や電解質の組合せや濃度の検討を行い、電解反応の駆動に必要な3V程度を発現させることに成功したのです。具体的にはマイクロ流路の上流と下流に電極を設置して、外部から電流計を接続しました。原理検証としては、ベンゼンのような芳香族化合物の電解反応による高分子合成(電解重合)を行ったところ、上流側の電極表面で酸化反応が起こり、高分子が析出しました。

Q:研究における独自性はどんなところにありますか?

電解反応は安全かつ温和な条件で行えるので、今は物質合成においてもトレンドになっています。また流動電位については、古くから研究され確立された物理化学現象です。しかし、この流動電位を電解反応に結びつける人は皆無に等しく、そういう意味では、この研究の発想(コンセプト)自体が独自性につながると思います。

電解反応は、電解重合だけでなく幅広い応用先がある

Q:研究において課題と感じている点はありますか?

現状2Vの電圧を出力するのに、10MPa程の圧力をかけて送液しています。つまり100気圧相当のエネルギーを使っているわけです。社会実装に向けては、この圧力を抑え、いかに反応効率を上げていくかが技術的な課題になっています。そのために、装置の改良を検討しており、現在のところ約10分の1まで圧力を下げることができているので、さらに工夫次第で改善できるのではないかと考えています。

Q:今後、企業とどのように連携していこうと考えていますか?

これまでの共同研究は化学メーカーが中心で、従来のツールだと反応しないため、「電解反応技術を使えませんか」という相談をよくいただきました。しかし、今回私たちが取り組んでいる、給電せずに電解反応を起こせる研究は、異業種分野でもニーズがあるのではないかと考えています。

電気が物理的に届かないような極限環境、例えば深海での利用です。液の流れや圧力差により駆動する本電解反応系は、このような極限環境での動力源や電解反応装置として可能性があるのではないかと期待しています。深海では、ミネラルが海底から噴出して貴金属やレアメタルなどを含む鉱床となる場所があります。電解反応は特定の金属のみを析出させる精錬も可能なので、海底で自発的に駆動する電解精錬装置として、資源問題にも貢献できる可能性を夢見ています。

Q:この分野を志す学生にメッセージはありますか?

私の学生時代を振り返ると、優秀な先輩が身近にいて、その先輩のように自分もなりたいと考えるうちに、同じ研究者の道を目指すようになりました。また、自分で研究テーマを自由に選べて、新たなことにどんどんチャレンジでき、失敗しても最後は責任を持ってくださる—–懐の大きな教授に出会えたのも大きかったと思います。

私たちの研究室も新しいプロダクトを生み出すことに力を入れているので、レールが敷かれた研究を行うよりも、新たなことに取り組みたいという志を持った学生にぜひ入ってきてほしいですね。社会人になると、なかなか簡単に失敗できませんが、学生のうちは、ほとんどの研究が失敗からのスタートです。だからといって考えすぎて、1つひとつの結果に落ち込まないことが大切です。

最初はこちらからテーマを与えることもありますが、どういう結果になるかはやってみないと分かりません。だからこそ、その人ならではの発想が生まれてくると思いますので、初めての経験をぜひ楽しんでほしいと思います。そんなモチベーションで臨めれば、多くの学びが得られます。もちろん、最後は私が責任をとるので、安心してください。

Q:最後に、今後の展望をお聞かせください。

今は原理検証の段階なので、今後は、これをどのような領域に展開できるのかを模索していく予定です。もちろん芳香族化合物の電解重合も1つの目標ではありますが、医薬品や農薬、有機EL材料などのファインケミカルの電解合成にも活用できる技術を開発していきたいと考えています。

さらにスケールのある話でいえば、工場の反応釜〜反応釜に移していく工程をつなぐパイプラインで、この送液の電解反応を駆動させることができれば、効率も高まり、工程の短縮化にも貢献できると考えています。もちろん社会実装するには、さまざまな課題を克服していく必要がありますが、目指したい所ではあります。

また電解反応は、電解重合のように新たな化合物を生み出すだけでなく、有害物質の分解や除去なども行えます。さらに、物質を光らせて検出したりする分析ツールとしても活用できるので、そうした方面にも応用して、社会実装の可能性を広げていきたいと思います。(了)

稲木 信介

(いなぎ・しんすけ)

東京工業大学 物質理工学院 教授

2002年 京都大学大学工学部 工業化学科卒業。2007年 京都大学大学院工学研究科博士課程後期課程修了。2007年 東京工業大学大学院 総合理工学研究科 助教に着任。2011年 東京工業大学大学院 総合理工学研究科 講師を務めた後、2015年 東京工業大学大学院 総合理工学研究科 准教授。2016年 東京工業大学 物質理工学院 准教授を経て、2022年4月より現職。

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