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世界の収量データベースから、穀物の収量変動を予測する〜飯泉 仁之直・農研機構 農業環境変動研究センター主任研究員

2019年12月12日 by Top Researchers

世界レベルでの食料需給の安定化と飢餓対策のためには、グローバルな食料生産変動の予測・監視に基づく食料輸入国での備蓄や国際機関による緊急援助などの対策が重要である。しかしながら従来、入手できる作物収量データには制約があり、予測できる地域が限定されるという課題があった。
こうしたなか、主要穀物の生産地域を網羅するグローバルな収量データベースを構築し、気温と土壌水分量の季節予測データと組み合わせ、全世界の収穫面積の約20%にあたる地域の米・小麦の収量変動を収穫3か月前に予測できるモデルを発表したのが、農研機構 農業環境変動研究センターの飯泉 仁之直 主任研究員だ。
今回は飯泉氏に、作物の収量予測に関する研究について概要を伺った。

世界をメッシュ状に区切り、主要穀物を予測する

Q:まずは、研究のニーズについて教えてください。

研究を始めたきっかけは、農業生産に対して気候変動(地球温暖化)がどのような影響を与えるかを調べるためでした。

一度就職したあとに気象学を学び始めたのですが、気候変動についての社会的な認知度が高くなってきていたことを感じながら、食料生産における気候変動のリスクを評価する研究を行っていました。日本は米以外の穀物は輸入していることから、国内の生産だけではなく、世界全体、特に主要輸出国を見たほうが日本の食料事情を考える上では妥当ではないかと考えました。

2050年には、世界平均気温が現在よりも2℃上がると言われていますが、平年と比べて今年は2℃暑いという年は現在でもあります。こうした「異常高温」が、例えば、この夏に起こると予測されている場合に、それに対応できて高温の悪影響を抑えられるならば、2050年の気候変動を心配する必要はないわけです。

そのため、収穫の数ヶ月前に予測される今年の作況情報を利用することを考えています。予測情報のユーザーの方には日々の業務の中で調節が可能な部分を洗い出し、対応を進めていくことを提案しています。この積み重ねで、2050年に訪れるであろう気候変動にも適応できるはずです。現在はこうした方針で研究しています。

Q:研究対象のエリアはどの範囲になりますか。

基本的には全球研究で、世界全体をメッシュ状に区切ってデータ解析やモデル化を行っています。主要4穀物(米・小麦・大豆・トウモロコシ)が現在の対象です。
数年前までは約120km四方のメッシュを使用していたので空間解像度が粗かったのですが、最近では約55km四方のメッシュになりました。

作物についての予測も、天気予報のように毎月きちんと情報が出てこなければユーザーに使ってもらえないのですが、研究所でそうした継続的なサービスを運用することは難しい面があります。

そこで、APEC気候センターという気象の長期予報を行っている機関と協力して、2019年の6月から主要四穀物についての収量変動予測を出せるようにしました。この試験運用中のサービスについてあちこちで宣伝しているところで、日本なら農林水産省の「食料安全保障室」などに提供しています。

それと並行して、AMIS(農業市場情報システム)という国連食糧農業機関(FAO)が事務局になって世界の農業市場をモニタリングしている機関から予測を使いたいという要望があり、良い機会なので、AMISに予測情報を提供する準備を進めています。

現在は試験運用中なので、限られたユーザーに使って頂いていますが、2020年はもう少し広げていきたいと思っています。食品関係の企業の方にご紹介すると、使いたいという声が多くありますが、ネットに載せていくには様々な問題があるので、それを一つ一つ乗り越えているところです。

Q:実際の予測マップはどのようなかたちなのでしょうか。

地球全体がメッシュ状に区切られていて、この地域のこの作物では去年の収量に比べて今年は上がる、下がるというような定性的な情報を示しています。それを国ごとに集計して、国平均収量の変動についても予測を出しています。
ユーザーは予測情報をその年の行動計画を立てる際に材料として使うことができるわけです。

Q:研究のどんなところに、独自性がありますか。

現業的な全球収量変動予測に取り組んでいるのは、おそらく当機構だけだと思います。
収量を予測するモデル自体は、多くの国で研究されていますし、モデル間に大きな違いはありません。ただ、世界のグリッド収量データをつくっているところは現在のところ米国のミネソタ大学と当機構のみです。

米国は各国の収量統計データを収集してグリッド収量データを作っているので更新の労力がかかり、データも一般には公開されていません。一方、当機構では衛星データを主たる情報源に使っているため更新も比較的、負担が少ないという利点があり、数年に1回更新版が公表されています。当機構の収量データは推定値なので精度面での限界はありますが、多くの研究者の方にご利用頂いています。

多くの収量予測は、「うちの農場では来月の出荷にトラックが何台必要か」というように農場スケールの作業計画に役立てようというものです。一方で、貿易のようなことを考えると、自分の国のデータは比較的簡単に得られても、輸出国のデータを得るには意外と労力がかかります。また、農業分野の統計データは国によって信頼性が大きく異なります。ある程度、均質な客観データで、自分の国も輸出国も同時に見るために全球で見ていくことが有効だと考えています。

実用化に向け、ユーザーコミュニケーションを図る

Q:今後の課題としてどんなものがありますか。

3ヶ月前予測については、2019年がサービスの試験運用1年目で、2020年には2年目を迎えます。幅広く使っていただいて、科学的・技術的な課題を整理したうえで次の計画を立てる予定です。
課題としては先ほども紹介したような、いつ、どこで、何がどのように栽培されているという情報を正確に集められるほど、予測精度は良くなっていくと思います。そういったデータセットがないからこそ、自分でつくろうというのがここ数年の研究内容で、全球作物データセットの整備はこれからも続いていきます。

灌漑分布のデータはあるのですが、使っている品種の分布など栽培管理についての情報は、試験場などの地点データしかありません。今後はそのデータを活かして、広域のデータをつくれないかと考えています。
今のところ、かなりの数の論文を読んで、そこからデータを一つ一つとることをしています。さすがに気の遠くなるような作業なので、この作業をテキストマイニングなどで自動化できないかと考えています。

産業的な課題として、実はユーザーが彼らの日々の業務にどのように生育監視や収量予測を使っているのかわかっていない部分があるということが挙げられます。ユーザーとのコミュニケーションを通じてそのあたりのことがもう少し分かってくるといいなと思います。

予測の話になると「商社」が興味を持ちそうですねと言われることがよくあるのですが、商社の方と話してみると「うちは豊作でも不作でも儲かるようになっているので」と言われました。そういう契約の仕方をしているのでしょう。また、商社の場合は直接現地に人を派遣したり、駐在員がいたりします。一応天候相場というものはあるので、その時期の客観情報の一つとして予測情報は使えるかもしれません。

現時点では3ヶ月~6ヶ月先の気温と降水量の季節予報を使っているので、精度が高いとは言えないかもしれません。そのため「仮に今期は収量が下がるとしたらどうしますか?」というような、シナリオを考えてもらう程度のことしかできないわけです。
今後、季節予報の精度が上がってくれば、実際に生産現場の作業計画を立てるような、正確な話ができるかもしれません。

Q:今後、どういった研究体制が必要になりますか。

研究所で学生を受け入れるなど、大学と連携して人材育成をする必要があると思っています。
当研究室にはアルバイトの学生はいるものの、連携大学院で来ている学生はいません。プロジェクトベースの予算が多く、長期的に人を雇用して育てることが難しい状況です。

そもそも農学部で全球の研究をしている先生は少ないので、グローバルな収量予測に関心を持ってくれる学生さんは稀です。気象学の分野のようにスパコンを使って研究に取り組むような人材が継続的に必要なのですが、なかなか見つからないのが難しいところです。

アルバイトに来てくれているのも気象学分野の学生なのですが、海洋のことを勉強していた学生さんに「ちょっと作物のことも見てみない?」とすすめたりしています。
農業生産においては気象条件だけでなく、農業政策や栽培技術も重要です。一人で全てを網羅できる人はいませんが、それでも相当に広い範囲を扱える学際的な人材が欲しいですね。

Q:この分野を志す研究者には、どんな心構えが必要でしょうか。

自分が研究者として大事にしている3つのポイントを紹介します。

一つ目は、自分が研究した成果が他の人に使ってもらえるものかどうか。農学は実学なので、自分の知的興味が満たせればよいというわけにはいきません。応用科学ですので、他の人たちから役に立つと言ってもらえなければ、この分野では価値がないと思っています。自分がいいと思っているものでも、自己評価だけでは確実とはいえません。他の人たちに「使いたい」といってもらわなくてはならないのです。

そうは言っても、研究者なので自分が興味のないことはあまりやりません。そこで、二つ目としては、自分の興味と需要がある研究テーマとのすり合わせが大切です。

三つ目はテクニカルの話ですが、同じ研究テーマについて、少しだけ対象地域やデータを変えて研究をしていることがよくあるのですが、それはあまり意味がありません。解析手法も日々、進歩しているので、最新の手法やデータで同じ研究テーマにも「新しさ」を与えなければいけないと考えています。

Q:最後に、今後の目標について教えてください。

日本は世界有数の食料輸入国です。そこで使える生育監視・収量予測システムができれば、他の発展途上国にも使えるようになります。日本発の世界をリードするようなシステムをつくっていきたいと思います。(了)

飯泉 仁之直

いいずみ・としちか

農研機構 農業環境変動研究センター 主任研究員。

2001年、筑波大学 生物資源学類卒業。2003年、筑波大学 バイオシステム研究科 修了。2007年、筑波大学生命環境科学研究科 地球環境科学専攻修了。

2011年、農業環境技術研究所 任期付研究員。マギル大学 地理学部、ブリティシュコロンビア大学リュー・グローバル問題研究所に客員研究員として滞在。2016年4月より現職。

※農研機構は、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネームです。

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