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無機粒子の界面反応メカニズムを解明し、社会に還元する〜藤 正督・名古屋工業大学 先進セラミックス研究センター 教授

2022年5月31日 by Top Researchers編集部

予測できない物性が現れやすい界面化学領域。こうした界面の特殊性を活用して、「無焼成セラミックス」や「中空粒子」の新技術を生み出し、これまでにない新たな材料の開発に取り組んでいるのが名古屋工業大学 先進セラミックス研究センターの藤 正督教授である。今回は藤教授に「無焼成セラミックス」や「中空粒子」の原理や可能性などについて詳しく伺った。

界面の特殊性を応用し、新たな素材を生成する

Q:まずは、研究の概要についてお聞かせください。

セラミックスなどの固体表面に関する研究を行っています。表面を研究するにあたっては、表面積が広い素材を分析することが大切なので、粉を扱うことが非常に多く、そこから「粉体工学」や「界面化学」を専門としています。

研究の柱は、大きく3つに分かれます。1つ目は粒子自身の表面をつくったり、分析したりして、水の中に粒子をきれいに分散させる研究です。目的やニーズに合った化粧品やペンキ、スラリー(セラミックスを生成する元の液体)などの界面を制御して開発します。なお、界面とは「液体や固体のうち、性質の異なる相と相の間にできる境界」のこと。理論的に予測できない物性が現れやすく、我々が取り組んでいる3つの研究では、その界面の特殊性や異常性を活用しているのが特長です。

2つ目は「中空粒子」の研究です。この製造工程では、小さな粒子の周りに1枚膜をコーティングして、中にある小さな粒子を抜き出します。中の粒子と、周りをコーティングする物質との界面を制御することで、ユニークな性質をもった中空粒子をつくり出すことができます。

3つ目は「無焼成」といわれる「焼かないセラミックス」の研究です。通常、粒子を焼いてつなげることでセラミックスになりますが、私の研究では、焼かずに「セラミックス」を生成する方法を見出しました。粉と粉の表面の化学反応を応用したのです。この研究にも「界面化学」の考え方が活きています。

この中で、私が特に力を入れているのは「中空粒子」と「無焼成セラミックス」です。「中空粒子」は、中の粒子を抜くと、その空いた場所には通常空気が有ります。すると服の重ね着のように、中に空気層を形成するので暖かさを保ちます。さらにサイズが小さく、人間の目で見える波長範囲の「可視光」の1/4程の大きさなので、透明になります。つまり、透明で断熱効果のある粒子をつくることができるのです。

常温常圧での空気の平均自由行程は約70nmですが、私たちの研究している中空粒子は、それよりも狭い空間となるため、分子同士が衝突前にシェルに衝突します。シェルは固体ですので空気分子に働く力が非常に強いです。その影響によって、空気がシェル内の膜の近くによどみ、擬似的に真空状態をつくり、真空断熱に近い材料になります。さらに、内包された空気の影響により電気伝導率が低くなるため、この中空粒子を塗料に入れ、鋼材などに塗布すると防食性や防錆性を高められます。

また、中空粒子は誘電率が低いのも特長です。つまりプラスマイナスの反転が起こりにくく、熱が出にくくなります。従来、電子回路の基盤に流れている交流回路は、信号が出るたびにプラスマイナスが反転して、熱を発生させるため、信号の品質の劣化が問題になっていました。この中空粒子を使って低誘電率の回路をつくれば、信号の劣化を防ぎ、非常に高品質の信号を送ることが可能になります。

次世代通信技術として知られるBeyond5Gは「超高速・大容量」「超低遅延」「同時多数接続」を実現させるために、周波数が高くなります。すると双極子間に熱が発生しやすくなるので、低誘電率の回線が必要になってきます。このように、現在さまざまな領域で中空粒子のニーズが増えているので、私としては、これらの研究成果を社会に還元したいと思っています。

「無焼成セラミックス」も、同じように社会貢献につながる研究として生まれました。私はいつも岐阜県多治見市にある「名古屋工業大学 先進セラミックス研究センター」で研究を行っており、この地は陶磁器産地でもあり、地域の人たちとの結びつきが非常に強いエリアです。

セラミックスの製造工程では、基本的に粉末を固めて焼く「焼結」という方法を用いるため、電気で行うにしろ、ガスで行うにしろ化石燃料が必要となります。リーマンショックの際には原油の乱高下があり、生産を受託した会社が見積もりを出した時と、実際に生産を行う時で大きく価格が異なり、事業を継続できずに倒産に追い込まれる中小セラミックス関連企業が多数ありました。

やはり原油というのは、非常にポリティカルな要因で価格が左右されてしまうので、そうした影響を受けないモノづくりを行わなければならないという思いで、この研究に取り組み始めました。その後、京都議定書やパリ協定を通じて、脱炭素社会が世界的なテーマになってきて、今は研究としてもかなり追い風になってきています。

では「焼かずにセラミックスをつくる」には、どうすればいいのか。その発想の着眼点になったのが、修士課程で学んだ「粉砕」の授業です。当時教わったのは、粉は割れると新しい面ができ、結合が切れているので、非常に活性である。化学反応や吸着などいろいろな作用が起こりやすいということです。セラミックスも粉と粉をくっつけなければいけないため、この「粉砕」の原理を応用しました。「粉砕」は粉を割りますが、「無焼成」は割る必要がなく、表面をこすり続けて活性させ、粉と粉を付着・接着させます。ただし、大気中に取り出すと活性が少し落ちるので、水やアルカリなどの溶媒と混合することで、反応性を補うようにしました。

当時いた研究員が、タイル原料を使ってこの研究をやってみると、その日は固まらなかったのですが、次の日にはカチカチに固まりました。この実験は、粒子(粉)を焼かずに表面だけを活性化すればいいので、エネルギーが非常に抑えられる点が大きいと思います。

コミュニティをつくり、連携して研究を加速していきたい

Q:これらの研究の課題は何でしょうか?

「無焼成」の研究でいえば、CO2 を排出せずに低コストでできる反面、製造工程が一部変わるため、設備投資が必要になります。中小企業が取り組もうとすると、コスト面で少しハードルがあるのが課題の1つです。

また技術的な課題でいえば、どんな材料でも固められるわけではない点です。今は焼かなくても固められる材料を探している段階ですので、企業から「自社でいつも使っている材料で固めてほしい」という依頼に対しては、試行錯誤をして、その材料で固まる方法を見出していく必要があり、必ずしも要望に応えられないところがあります。まだ全ての材料を研究していないため、必ずとは言い切れませんが、基本的には酸化物の材料なら「無焼成は可能だ」と思っています。それと炭化ケイ素です。

従来の「焼成セラミックス」の歴史は何百年とあるなか、「無焼成のセラミックス」は、ここ10年ぐらいの歴史しかありません。これまでは、少人数の研究者によって無焼成の研究は行われていましたが、それではなかなか新しい理論も構築できません。最近になって、ようやくいろんな研究者が、それぞれのテーマをもって無焼成に取り組むようになってきて、研究に少し厚みが増してきました。もっと分野が活性化すれば、さらなる進化につなげられると思います。

そのためにも、私としてはコミュニティをつくりたいと考えています。学会までいかなくとも、コミュニテイがあれば大学連携や産学連携ができ、もっと研究が加速度的に進められます。私にとっての大きなテーマです。

Q:この分野を志す学生に必要なことは何でしょうか? 

「思考力」と「好奇心」ですね。この2つを持ち合わせている人は向いていると思います。学力ももちろん必要ですが、興味を持ったことにどうやってアプローチしていくのかが、技術や化学の進歩につながると思うので、この2つは、ぜひ身に付けてほしいですね。

私も子どもの頃は、どのようにして時計の針が動くのか、あるいは火がつく瞬間はどうなっているのか。それらの興味から離れられず、親が時計を隠すぐらい時計を分解しましたし、自宅がボヤになるんじゃないかと言われるくらい、何千本ものマッチをすったりしていました。興味を持てば、没頭するので、そこで必要になる知識は否が応でも学ぶようになります。

我々の研究室の学生によくいうのは「10 回言って 9 回までは『そんなことありえない』と、私は返すかもしれないけど、そのうちの1 回は OK になるかもしれないよ」ということです。つまり興味を持てば、自分で考えて意見を発信するようになってきます。学生はまだまだ知識が少ないため、間違っていることが多いかもしれませんが、それでも10 回のうち 1 回 は真実を発することがあります。こうした成功体験をもつと、そこから大化けしていきます。ぜひ「思考力」と「好奇心」を大切に、新たなことにも臆せずチャレンジしてもらいたいと思います。

Q:「社会貢献」というミッションのもと、研究されている藤先生だと企業との関わりも多いと思いますが、どのような依頼がくるのでしょうか?

普段私がいる先進セラミックス研究センターには研究設備が揃っていますので、社内にラボ(研究室)のない中小企業などが活用しています。高度技術研修という制度を利用すれば、例えば電子顕微鏡の講習後に活用できますし、技術相談などは無償で行えます。学術指導や共同研究などであれば、有償となりますが我々に直接ご依頼いただけます。

例えば、今まで「A」という企業の原料から製品をつくっていましたが、取れなくなったので、「B」という原料に変更したい。「成分組成はほとんど変わらないものの、同じように焼けないのはどうしてだろうか」。そんなご相談などをいただきます。現在、このセンターを活用されているのは多治見地区の企業が多いですが、全国から依頼を受け付けています。

Q:今後の目標を教えてください。

「無焼成」や「中空粒子」の技術が、本当にそこに展開できるかどうか分からないですが、今興味があるのは「海ゴミ」問題です。

大量のプラスチックが海岸に打ち上げられている光景をご覧になったこともあると思いますが、あの「漂着ごみ」です。あれを、地底に埋蔵する油田を発掘する「海洋油田」のように、ごみを利用して資源を生み出せないか。私が考えた造語ですが、「海洋油田」にもじって「沿岸油田」のようなことを目指しています。ただ現在いろいろと調べていますが、まだ具体的な方針は決まっていません。それでも、今のうちから考え始めれば、これからの脱炭素社会においては、一石を投じることができるのではないかと考えています。

他の人から見たら、「中空粒子」も「無焼成」も全然違う領域に見えるようですが、私の中では、「界面」と「粒子」はつながっています。それに、私のアドバンテージは「界面化学」や「粉体工学」になるので、この技術を応用していくことになると思います。今後、原子力も積極的には使えないでしょうし、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで全てのエネルギーを賄うことまでは難しいと思います。そうなると、エネルギーリソースが足りなくなるので、私が貢献できる技術があるのではないかと思っています。どのくらいの時間を要するのか分からないですが、定年までには一つの道をつくっていきたいですね。(了)

藤 正督

(ふじ・まさよし)
名古屋工業大学 先進セラミックス研究センター 教授
1989年 東京都立大学工学工業科卒業。1991年 東京都立大学 工学研究科 工業化学専攻修士課程 修了。1991年 東京都立大学 工学部 助手。1999年 博士(工学)東京都立大学。2002年 名古屋工業 セラミックス基盤工学研究センター 助教授を経て、2007年から工学研究科教授(現職)。教育は生命・応用化学専攻、研究は先進セラミックス研究センターで行っている。

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