ロケットやドローンなど、空気力学をもとにした設計・シミュレーションの研究ニーズが年々高まっている。こうした中、航空宇宙工学を軸として、空気力学を中心とする様々な流体現象を研究しているのが、横浜国立大学 大学院工学研究院 システムの創生部門(理工学府 機械・材料・海洋工学系専攻 航空宇宙工学教育分野,機械工学教育分野 併任)(理工学部 機械・材料・海洋系学科 機械工学教育プログラム 併任)の北村 圭一准教授だ。JAXAとの共同研究なども多く手掛ける北村准教授に、「ものを飛ばす」学問領域の面白さについて話を伺った。
ロケットやドローンの空気抵抗を研究
Q:まずは、研究の概要について教えてください。
空気の力を使って物を浮かせる、飛ばせるという研究は、かれこれ100年ぐらい前の、ライト兄弟まで遡ります。
翼の形を上手に設計することで、上を流れる空気よりも下を流れる空気の方が高い圧力を持ち、これによって相対的に下から上に浮かび上がらせる力が発生するという理論です。
その後、航空機が発展して、宇宙船やロケットが生まれてきました。
地球上の空気の力が生じているところでは、「空気抵抗」が発生します。空気抵抗に打ち勝ちながらも安全にロケットを飛ばす方法は、従来から活発に研究されてきました。
我々も、まずはこうしたロケットの研究に取り組んでいます。
さらには最近ですと、ドローンの研究にも取り組みはじめました。
空気の力を上手く使って乗り物を浮かすという意味では、すべて共通しているといえます。
この空気抵抗には、物体が大きいか小さいかということも関係してきます。たとえば蟻は、どんなに高いところから落としてもどうにか無事に着地できると言われます。小さいものというのは、小さいなりに空気抵抗が十分に働いて、これが重力に打ち勝つくらいに支配的になるのです。これは空気力学というよりはもう少し広い、流体力学ですね。
さらに抵抗以外にも、違う方向に働く力もあります。例えばロケットの進行方向は抵抗ですが、横の方向に変に力を受けることもあります。そういったことが起こらないように設計をしないといけません。
やはりロケットはコストがかかりますから、少しでも軽く飛ばしたい。そういった意味でも抵抗を減らしたいということになります。
もう一つは、地球に帰ってくるときの「加熱」の問題です。2003年に、スペースシャトルが空中分解する事故がありました。これは、左の翼にとてつもない熱が入って分解してしまったというものでした。これも、設計に関わる点では、知っておかなければならない課題といえます。
ドローンの抵抗に関して言えば、機体が空中で静止できなければいけません。横風が吹いても、その場で安定していられるようにする必要があります。
ドローンは、4枚タイプなら4枚の羽根が時計回り・反時計回り交互に回転をしてバランスを保っています。もし全部が時計回りですと、作用・反作用の法則から本体がくるくる回ってしまうことになります。こうした問題が起こらないよう、全体のバランスを取っているということです。
回転方向以外でも、横風で落ちないようにするには片側から風が来たら反対側で出力をあげるなどの工夫が必要です。それはモーターの制御の話でもありますし、どれくらいの空気力を加えるのかという空気力学的な部分もありますね。
Q:実際の研究体制はどうなっていますか。
現在は、JAXAと共同研究で、これから日本で飛ばそうとしているロケットに関する研究をしています。例えばJAXAがやりたいロケットがあるとすると、我々は大学の立場からロケットの開発にも役立つような基礎研究を行います。設計の部分は行ないません。
「こんな形の空気力学特性を知りたい」ということがJAXA側から要望としてくれば、その基礎的な部分をこちらで調べる、という役割分担になります。
ニーズに応え、流体シミュレーションを進化させる
Q:技術的な課題としてどういったものがありますか。
私自身は、流体のシミュレーションの手法、すなわち「シミュレーションでコンピューターに流体の方程式を解かせるためには、どんな方法がいいか」ということを研究しています。
コンピューターのパワーが年々増すにつれて、それに合った計算方法も可能になります。
「コンピューターがこれだけ発展をして、流体のシミュレーションもいろんなことができるのだから、こんなこともできるよね」という研究ニーズの高まりもあります。
昨今は社会的ニーズが高まっているのですが、一方、現場でシミュレーションに取り組んでいる側からすると、うまくいく場合もあればそうじゃない課題もあります。
コンピューターの性能もそうですし、解かせる方程式も変わる。そうなると、両方がより進歩していく。そうして、より良いシミュレーションの方法や、効率的な計算方法が編み出されていくものです。
これについては、アカデミアが行なわなければ進まないところはあります。日々研究していく上で効率化していきたいというのは、学問上での課題になりますね。
また、この分野をどうやって役立てていくかについても考えなくてはいけません。
Q:ドローンに関する社会的な法整備はどうなっていますか。
ドローンは10年ほど前には全く飛行していなかったのに、気がついたら当たり前のように飛ぶようになりました。これは大きな進歩だといえます。
ただ、他の国がドローンに関するルールを先に作ってしまったことで、日本もそれに従わざるを得ないというのが現状です。ドローンの技術に取り組んでいる身としては、他の国に負けないよう、技術を作り上げていきたいと考えています。
例えば数年前に、200 gを超えるドローンを無断で飛ばしていけない、というルールができました。ドローンについても、このようにルールが整備されつつあります。
「ドローンや車は危ないから飛ばさないでほしい」という声もあるでしょうが、そういう反対派の方々も説得できるよう、安心して飛ばせるようになればいいなと思っております。
ドローンや空飛ぶ車は、災害時の救援物資の運搬に期待が寄せられています。ヘリコプターで救援物資を運ぼうとすると、どうしても降りられる地形が限られてしまいます。ドローンや空飛ぶ車だと運べる量は限られてしまうものの、救援物資、救急車両という面から役に立てたらいいなとは思っています。
Q:この分野を志す学生にはどんなことが必要でしょうか。
非常に面白い質問ですね。この分野にくる子達は少し変わっていると言いますか、どちらかといえば、チャレンジ精神が旺盛な子が多いです。既存の枠にとらわれず、新しいことをやりたいという意欲的な学生が多くいます。それがうまく働くと、面白い研究成果になるなと感じています。
今は私の研究室に15人ほどの学生がいます。学部4年生、修士の1、2年生が主ですが、さらには学部3年生が1人と、社会人の博士の方が1人です。
研究テーマはそれぞれ別で、流体力学という意味では共通ですが、その中でロケットに取り組む人、航空機に取り組む人、空飛ぶ車を研究する人もいます。シミュレーションの方法に取り組んでいる人もいますね。
航空宇宙関係を学びたいという学生さんは多いです。航空宇宙工学に取り組める学科は日本の大学の中でも限られており、全国的に見ても研究できるところはそれほど多くはありません。
Q:民間企業とはどういった関わり方をしていきたいですか。
学会には企業側からの参加者の方も多いですし、民間企業に就職した私の大学時代の先輩・後輩とのつながりもあります。こちらとしては、企業側として空気力学の何に困っているかという課題をどんどん出していただきたいです。対象に応じて独自のテーマがあるはずですから、こちらとしてもご協力できることはあると思います。
Q:今後の目標を聞かせてください。
1、2年以内では難しいかもしれませんが、「車を飛ばす」ことにチャレンジしていきたいですね。車を飛ばすことはこれまで、空想の世界と言われてきていましたが、少しずつ実現に近づいています。現実味が出るところまで、伸ばしていきたいですね。(了)
北村 圭一
きたむら・けいいち
横浜国立大学大学院工学研究院 システムの創生部門 准教授。
2002年、東京工業大学工学部機械宇宙学科卒業。2004年、名古屋大学工学研究科 航空宇宙工学専攻 修士課程(博士前期課程) 修了。2007年、ミシガン大学工学研究科 航空宇宙工学専攻を経て、2008年、名古屋大学工学研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。
2008年より、宇宙航空研究開発機構(JAXA)情報・計算工学センター プロジェクト研究員を務めたのち、宇宙航空研究開発機構(JAXA) 情報・計算工学センター 日本学術振興会特別研究員PD、NASAグレン研究所 客員研究員を経て、2012年より、名古屋大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻助教。
2014年より現職。