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GaN結晶の量産技術を確立し、多方面での実用化を推進する〜森勇介・大阪大学教授

2019年6月7日 by Top Researchers

窒化ガリウム(GaN)は青色LEDに用いられるなど、現代の社会や産業において必要不可欠な半導体物質である。主流であるシリコンと比べて電気の変換性能が高いという特性から、電気部品としてさまざまな方面で活躍が期待されているものの、その低コスト化やウエハサイズの大口径化に難しい面があった。こうしたなか、その難問を解決するのが大阪大学工学研究科 電気電子情報工学専攻の森 勇介教授だ。今回は日本がリードするGaN結晶の量産技術や、それがもたらす産業的なインパクト、将来展望について幅広く伺った。

Naフラックス法でGaN結晶を育成する技術を確立

Q:まずは、この研究の社会的なニーズについて教えてください。

研究を川で例えると、「材料」は一番川上に位置するものです。
「材料を制するものが技術を制す」という話もあるように、材料の特性などの良し悪しによって技術も変わってしまうわけです。

そのなかで私は「こういう材料があったらいいな」というニーズに応える研究をしています。
私はこの研究を「バッター型」の研究と呼んでいます。これには、来た球(ニーズ)を打てるかどうかという意味合いを込めています。

これに対し、一般的な理学部の研究は「ピッチャー型」の研究だと思っています。自分の好奇心の赴くままに、自分の投げたい球を好きなところに投げるというイメージですね。

ピッチャー型が気をつけなければならないのは、必ずしも球を投げた先にバッターがいるわけではないということです。ひとり相撲のようになってしまい、誰も研究に興味をもってくれないこともあるわけです。つまり当たればすごいけれど、当たる確率が少ない。

一方のバッター型は工学部的な発想で、これを打てば間違いなくヒーローになれるとわかっているのに誰も打てないような球に挑んでいく。このような研究スタイルだと考えています。

さて、私が研究しているGaN(窒化ガリウム)という材料は、青色LEDの発明でノーベル賞の受賞になった材料でもあります。GaNはいい結晶ができれば、すごくいい特性を発揮することがわかっています。
LEDだけでなく、パワーデバイスという電流の直流・交流を変換したり、電圧を変えたり周波数を変えるなど、電気を自由自在に変換できる材料として優れた可能性を持っています。

GaNがなぜそのような特性を持つのかというと、原子同士の結合が強いということが挙げられます。原子と原子のつながりが強いと、光るときに波長の短い光が出てきます。

少し詳しくいうと、結合が弱いときには赤い光しか出ないものが、結合が強くなっていくと緑や青の光が出るようになるのです。

ただ、結合の強い結晶は組み立てが難しいという特徴があります。プラモデルをつくるときには接着剤を使いますが、このときに瞬間接着剤を使うのは非常に難しいのと同じです。少し間違えても、やり直すことができません。
結晶の結合にもこれと同じようなことがいえるのです。ちゃんとつくることができれば硬くていい結晶になるのですが、つくることが難しい。これが、結合が強い材料の特徴というわけです。

GaNについては、正確につくることができれば青く光るということがわかっていました。でも、誰もつくることができない。まさに夢の材料という感じで、みんなつくることを諦めていました。

Q:現在パワーデバイスの主流であるシリコンにはどんな問題があるのでしょうか。

現在、パワーデバイス用の結晶をつくるためには一般的にシリコンが用いられています。シリコンは結合が弱く、つくるのも簡単なので、完全なものをつくることができるわけです。シリコンは一応パワーデバイスにも使えますが、結合が弱いので電界に弱いという特徴があります。

パワーデバイスに使うときの一番の問題は、抵抗で生じたジュール熱が損失になることです。
半導体は電気を制御するために使います。電気を流すための銅線は抵抗が低いのですが、電気を制御するためには半導体を銅線の間に挟んで電気を通して、そこで、直流を交流に変えたりします。半導体は抵抗が高いので、大きな熱が発生し、それがエネルギーの損失になってしまうのです。

こうした性質から、電気の制御をシリコンでやると、5パーセントから10パーセントが熱になってしまうのです。1回だけならまだいいのですが、太陽電池を発電してパソコンを動かすためには間で4回の変換があります。するとトータルで、発電した電気の4分の1くらいは熱になるんです。これはもったいないですよね。

ではどうするかというと、半導体の抵抗を下げることが必要になります。半導体の抵抗を下げるには、厚さを薄くする必要があります。ただ、薄くすると同じ電圧をかけたときに電界が強くなってしまいます。電圧への耐性は半導体が長いと強くなります。例えるなら重たい荷物を持つときに10人で持つのか1人で持つのかという感じです。10人で持つことができても、1人では持てません。

シリコンは結合が弱いので、薄くしてしまうと電圧をかけたときに壊れてしまいますから、厚くしなければなりません。そのため、抵抗が高くなってしまうのです。

パワーデバイスは、水門にあるゲートのようなものです。門を開けると電気が流れ、閉じると電気の流れを止めることができます。ここでもし、門に穴が空いていたら、そこから電気が漏れ出してしまいます。つまり、門に使う結晶は、薄くできて、かつ穴のない完全なものでなければなりません。

我々はよくLEDとパワーデバイスの違いを「電線とガス管」といったりしますが、電線は少しくらいネズミにかじられていてもそこまで大きな問題は起こりません。一方で、ガス管に穴が空いていたら、大変なことになってしまいます。パワーデバイスに対する要求は、かなり高いものだといえます。

GaNは結合が強く、シリコンの10分の1にまで薄くすることができるので、抵抗も10分の1にすることができます。さらに発熱も10分の1になるので、良いことづくめです。それを踏まえると、GaNでパワーデバイスをつくれば省エネにつながることは確実です。

そうとわかっていても、結晶をつくることができなかった。パワーデバイスにGaNを使おうとすると、完全な結晶が必要なわけです。
いわば「打てばヒーローになれる球」を誰も打てずにいたところ、ようやく我々がその球を打ったという状況です。
現在はこの結晶を国家プロジェクトで、ノーベル賞をとられた天野浩先生と一緒に産学連携で実用化するための取り組みを行なっています。

Q:現在の研究成果に至るまで、どういった経緯がありましたか。

私は、将来ものになる材料はGaNだとはっきり決めていましたので、目標は原子の並びを整えて品質を上げることでした。そのゴールはみんなわかっていたことですが、具体的な方法はわかっていませんでした。

そんなとき我々が注目したのが、「ナトリウムフラックス法」と呼ばれる手法でした。この「ナトリウムフラックス法」は、1996年に東北大学の山根久典先生が、たまたま発見して発表しました。それを初めて聞いたとき、話を聞いていた周りの人たちは実用化できない話だと思っていたそうです。

実は、ナトリウムは半導体の分野において御法度といわれています。シリコンの中にナトリウムが入ると誤動作を引き起こしてしまうため、普通であれば絶対に使うことがないものだからです。

しかし、私はこの話を聞いて面白いと思いました。山根先生に直接やり方を伺い、研究を始めてから22年になります。
そして、7年ほど前に、新しい方法にたどり着きました。

新しい手法は次のようになります。サファイアの上に小さな種(ポイントシード)を残しておき、ナトリウムとガリウムの溶液に浸して窒素を高圧印加すると、種の上にだけ成長していきます。いわば、ナトリウムフラックス法とポイントシードを組み合わせた、世界初の方法です。

いまでは6インチ(15センチ)のものもできるようになっています。パワーデバイス業界ではもともとシリコンが6インチだということもあり、新しい物質でも6インチが必須だとされています。従来の方法では割れてしまうため、2インチが限界でした。しかし、新しい方法なら6インチのものも簡単にできるようになりました。

これによって世の中の意見が、「6インチができるなら、GaNのパワーデバイスはありだよね」という流れに変わってきたのです。

コストの課題もあるのですぐにシリコンから置き換えられるわけではありませんが、まさに導入が始まろうとしているところなのです。

そのためには、GaNウエハの高品質・低コスト化が不可欠なので、我々はNaフラックス法で作製した高品質GaN結晶を種結晶として提供し、GaNウエハメーカーがGaNウェハーをたくさん安く量産できるようにしたいと考えています。

Q:次の課題として、どんなものがありますか。

正直なところ、大きな課題は解決したと思っています。あとは、実用化を進めることですね。
名古屋大学に「トヨタ寄付講座」というものがありまして、私はそこの教授も務めています。寄付講座が中心となって、電気自動車をつくっています。

2019年10月に予定されている東京モーターショーに電気自動車を出そうという話が出ています。「オールGaNビーグル」という、ヘッドライトなども含む全ての半導体をGaNで構成した電気自動車というコンセプトで出そうかと考えています。

例えば、プリウスに搭載されているシリコンの場合はパワーデバイスを水で冷やさなければなりませんでしたが、GaNの場合は空冷で冷やすことができます。水冷設備がいらないとなると、車自体を軽くすることができ、さらに燃費が良くなります。

車以外でも、家電製品などは直流・交流のスイッチを4~5回行なうものが多いので、サーバーなど熱を出したくないものから順に置き換えていけたらと考えています。

例えば、電子レンジ。電子レンジは従来のものだと、マグネトロンという装置でマイクロ波を出して温めていましたが、GaNの半導体で効率よく出せるような電子レンジをつくれば無駄がなくなります。電子レンジ内の温めたいものだけをピンポイントで温められるのです。

また、近い将来「5G」の世代が来るといわれていますが、そのときにマイクロ波を出すのは、GaNを使った高周波デバイスになります。電波をだすときには電子を動かすわけですが、電子の速度が速いGaNはあらゆる周波数の電波を出すことができます。そのため、5G世代ではGaNが非常に重要な役割を担うと考えています。

実はすでに電話の基地局などにはGaNが入っているのですが、今の段階ではまだ品質がいいとはいえない状態です。今後、品質がよくて安いものができたら、より効率的になっていくでしょう。

イノベーションを生み出せる人材育成に取り組む

Q:所属の学生はどのような研究をしているのですか。

現在の所属は「大阪大学大学院 工学研究科 電気電子情報工学専攻」です、電気電子情報工学専攻では、様々なエレクトロニクスに関わる研究をしています。

私の研究室では半導体や光学結晶の研究をしていますが、隣の研究室ではシステムの研究をしていたり、様々な研究テーマがありますね。学生もいれば研究員の人もいますね。各学年で5~6人、大学院にはもちろん行きますし、ドクターも増えてきています。

最近「イノベーションデザインコース」という修士博士一貫で5年生の新しい教育プログラムをつくりました。
私はベンチャーを3社起業していますが、講義で経営学や経済学を習ったかというと習っていません。けれど、研究をしながらビジネスを学ぶことができました。そのポイントはプロジェクトを実施する中で自分の研究テーマのユーザーの方と話すことで、どのような研究がビジネスに必要なのか、という議論をするだけでビジネスが学べるということに気づいたのです。これらの経験を学生教育のプログラムに落とし込んだものが、新しい教育プログラムというわけです。

学生のうちから自分の研究テーマについて企業とディスカッションを重ねれば、ビジネスが学べるということです。
ポイントは産学連携による教育です。私がこのコースを立ち上げる際に難しかったのが、他の教授の先生方に理解して頂くところです。教授の方はビジネスをしたことがない人がほとんどで、なかなか感覚的にわからないようです。そこで、まずは1年間お試し実験をしましょうとなり、そこでパナソニック社に相談したところ、協力してくれることになりましたのでスタートがきれました。

4年生の学生さんには、研究のビジネス化について考えなさいというお題を与えました、例えば自分の研究テーマの事だけ考えていても、その成果の社会実装はできません。

社会実装までもっていくためには、どんなマーケットがあって、どんなお客さんがいて、どんな技術と連携をして、どういう競合に打ち勝っていくのか。これらあらゆることを考えないといけないわけです。

でも大学では自分の技術についてしか知らず、方向性が合っているかもわからないものです。そんなときにお客さんと話すことができれば、何が本当に必要なものかがわかってきます。そういったことを新しいコースで学んでもらえたらと考えたのです。

マーケティングなどについて座学ではなくユーザーとのコミュニケーションで学びつつ、自分の研究をフィードバックしていくということが重要になります。これらは会社にいっても教えてもらえるものではありません。

当コースでは、学生は自分の技術開発がビジネスになるまでを1年間で1周します。期間としては1年かというのは短いかもしれませんが、とりあえず一回やってみる。その後2年目でもまたやってみる。コースは5年制ですから、5回繰り返すことになります。私の経験から、日本の大学に一番欠けていると思う部分を組み込んでつくりました。
最初は明らかに出来が悪いと思いますが、3周目、4周目になるとレベルが上がってくるでしょう。そういったことを学生のうちに経験してから会社に入ると、他の新入社員とは全然レベルが違うことになればと期待しています。

このコースが上手く行けば、視野の広い博士人材をつくれると考えています。日本で初めての試みなので、本当に上手くいくのか不安な部分もありますが、このコースをきっかけにして日本の理系大学の活性化に繋げていけたらと考えています。

Q:企業とはどのような関わり方を進めていきますか。

企業との共同研究は、アメリカの企業も含めてかなり行なっています。企業と組むときは、双方がWin-Winになるかどうかを重視しています。

さて、企業と組むに際して必要なのが、自分の研究成果の意義づけです。技術には2種類あると考えております。
一つ目は「研究成果が進化すればするほど製品の価格が下がっていくもの」。例えば車や電化製品など高機能になっても年々価格が下がっていきますよね。こういう製品は大量生産するしかない、となると大企業でしかできないことになります。それをベンチャーがやったところで、勝てるわけありません。

もう一つの技術は「進化すればするほど価格が上がっていくもの」です。私が起業した技術はいずれもこちらです。もっというと、そうなるようにビジネスモデルを設定しているのです。売上は少ないけれど利益率は大きい。
ここで考えて欲しいのは、自分の研究している技術はどちらかということです。価格が下がっていくものであれば、大企業にライセンスをする。高くなるものなら、自分でベンチャーを起こす、という判断ができるようになります

また、同じ技術でもビジネスモデルを変えることにより、使い分けることができます。最初にお話ししましたように、私はGaN結晶の研究を実施していますが、我々の技術を事業化しようという企業がなかなか現れなかったのでGaNウエハーの量産に使うベンチャーを起業することを考えました。しかしながら、GaNウエハーというのはどっちかというと前者の「価格を下げなければならない方」ですから、どうしても大企業で実施するほうが有利です。
そこで少し考え方を変えて、GaNウエハーメーカーを顧客にするビジネスモデルを考えました。これが、種結晶ビジネスにつながったわけです。

種結晶はかつてないビジネスモデルですが、高品種・少量生産がメインになってきます。どこまでビジネスが続くかはわかりませんが、我々が高品質GaN種結晶の供給に取り組むことで、世界の省エネが実現できればそれで良いと考えています。オールジャパンで省エネ技術の社会実装を進めていきたいですね。(了)

森 勇介

もり・ゆうすけ

大阪大学 工学研究科 電気電子情報工学専攻 教授。

1989年、大阪大学 工学部 電気工学科 卒業。1991年大阪大学 工学研究科 電気工学専攻 修了。

1993年より大阪大学工学部助手となる。その後、大阪大学大学院工学研究科助手、同講師を経て、2000年より大阪大学大学院工学研究科助教授に着任。

その後准教授を経て、2007年から大阪大学大学院工学研究科教授となる。

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