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ナノマシンの開発で、ドラッグデリバリーシステムの実用性を高める〜宮田完二郎・東京大学准教授

2019年2月26日 by Top Researchers

近年、がん治療などで注目を集めている技術「ドラッグデリバリーシステム」においては、さらなる成果のため、より正確な開発が求められている。そこで有効なのが、生体高分子を用いてサイズをコントロールした「ナノマシン」だ。ナノマシンにさまざまな機能を搭載することで、これまで入れなかった血管や細胞に薬を届けることができるなど、従来以上の治療を可能にすることができる。こうしたナノマシンを研究しているのが、東京大学大学院大学院 工学系研究科 マテリアル工学専攻の宮田完二郎准教授。今回は宮田准教授に、ドラッグデリバリーシステムにおけるナノマシンの可能性についてお話を伺った。

ドラッグデリバリーシステムをさらに強化するナノマシン

Q:まずは、研究の概要について教えてください。

まず、「ドラッグデリバリーシステム」とは、基本的に身体の中で薬の動きをコントロールするという技術です。
そもそもどうしてこのような技術が必要なのかご説明しましょう。例えば、抗がん剤は、副作用が強いため、使用すると髪が抜けることがあります。抗がん剤はがん細胞に働くために細胞を殺せるわけですが、がん細胞だけでなく毛根細胞などにも働きかけてしまうために、髪の毛が抜けてしまうのです。

つまり、がん細胞のみに働きかける抗がん剤をつくることが可能になれば副作用はなくなるわけです。
これを実現するための技術が、ドラッグデリバリーシステムです。がん治療の場合は、できるだけがん細胞に薬を届けて、正常な細胞には行かせないようにします。

具体的な技術としては、「カプセル」のようなイメージになります。目に見えないくらいのナノメートルスケールの非常に小さいカプセルをつくり、そのカプセルにがん細胞に入りやすい性質を加えるのです。
現在は次々に新しい薬が出ていて、良い薬もたくさんあります。ただ、良い薬であっても、薬価が高かったり、効く患者が限定されるなどの課題があります。

こうした課題も、ドラッグデリバリーシステムの技術で改善できると期待されています。新しい薬に対して我々の技術を上手く作用させれば、もっといいものができるのです。

そのなかで、我々は「薬を包むための技術」を開発しているかたちです。良い薬とそれを包む技術をうまく合わせることで、相乗的に良いものができるというわけです。

Q:この研究室の特色である、高分子材料とは何でしょうか。

通常の分子が点のようなものだとしたら、高分子は点が連なった紐のような分子のことを指します。
紐のようなものの何がいいかというと、まずそれだけで「大きい」ということがあります。さらにその大きさや長さを上手く調整してあげることで、様々な機能を組み込むことができるようになります。

例えば紐の先端にはがんにくっつきやすい分子をつけるとか、紐のお尻の部分には薬をくっつける、などですね。これが、ドラッグデリバリーシステムに必要な機能を搭載できるということを意味します。
さらに、紐同士が自動的に寄り集まった球状のカプセルをつくることもできます。その時に紐の長さを調節してあげれば、カプセルのサイズもナノメートルピッチで調整することができます。これを専門的な言葉では「自己組織化」と呼んでいます。

Q:薬そのものではなく、包み方やサイズに注目するやり方は、独自のものなのでしょうか。

従来、サイズについてはそれほど重要視されていませんでした。逆に言われてみれば当たり前だけど、あまり考えられてこなかった。その意味ではコロンブスの卵かもしれません。
ただし我々も、サイズについて最初から調節しようと思ってやっていたわけではありません。当初、様々な高分子材料をつくってドラッグデリバリーシステムをつくっているうち、ポリマーの長さによってできてくるサイズが違うことがわかってきたのです。そこから、「サイズの調節ができるのではないか」という発想に行き着きました。

最初は扱いやすいがんのモデルをつくって、100ナノメートルくらいのドラッグデリバリーシステムをつくって、それをマウスに投与したらすごく効果がありました。その時は「このくらいのものをつくればいいのか」と、皆さんそれでやってきたわけです。

しかし実際に様々ながんに試してみると、100ナノメートルだと大きいようだということがわかってきました。100ナノメートルも目に見えないくらいの非常に小さいサイズですが、がんの中を奥深くまで進んでいくには大きいかもしれないということが、ここ何年かでわかってきたのです。

また、がんにも様々な種類があります。様々ながんのモデルに効くような、汎用性の高いシステムをつくれないかと考えています。

がんは胃がんや大腸がんなど、身体の様々なところにできるわけですが、組織の構造などはそれぞれ違うものです。そういった場合でも、薬を効果的に届けられる技術をつくろうとしています。
そのなかで、重要視しているのはサイズです。先ほどカプセルのお話をしましたが、私たちはそれを進化させたものを「ナノマシン」と呼んでいます。

サイズはナノメートルスケールで、それこそ10、12、14ナノメートルというように、数ナノメートルピッチで調節しています。ただ、小さくしすぎたら単なる薬と同じになってしまって、腎臓などに溜まってしまうと副作用が出る可能性もあります。がんに届きやすいサイズに調節する必要があるということです。我々は、様々ながんを叩くためのサイズ調節に取り組んでいるところです。

いわれてみれば最適値があるのは当たり前なのですが、当初は技術が追いついていませんでした。例えば、100ナノと10ナノはつくれるけれど、その間の30ナノや40ナノはつくれるかわからないという感じでしたね。
現在では高分子材料の技術を使うことによって、数ナノメートルのピッチでサイズを変えることが可能になってきています。

さて、この「ナノマシン」という表現については、分野ごとに様々な表現があるかと思います。
私たちは特に、様々な機能を搭載させています。サイズ以外では、機能面でも特徴があります。がんの場合であれば、「隙間に潜る」ことができます。がん組織の血管などには数十ナノメートルほどの小さな隙間があると考えられていて、それよりも小さいサイズのナノマシンや粒子であれば潜っていくことができます。

特にターゲットとしているのは、すい臓がんや脳腫瘍など、治療が難しいといわれている病気です。すい臓がんは、発見時はすでに手遅れになっている場合が多く、5年生存率がもっとも低いとされています。既存の治療法で治せるならわざわざ新しい方法を探す必要もないのですが、難しいがんに対して我々の技術が使えるようになれば、世の中の役に立てると考えています。

しかし、場所によってはそもそも隙間がない場合もあります。代表的なものを挙げると、脳です。
脳は血液-脳関門といって、ナノメートルサイズの粒子などが血管から脳の組織にアクセスできない構造になっています。これはウイルスなどが勝手に入ってしまってはよくないために、血管に隙間がほとんどない構造になっているのですが、こうした理由でドラッグデリバリーシステムも脳にアクセスすることが難しいといえます。

では、脳に届けるにはどうしたらいいか。その答えは「栄養のふりをする」ことです。脳にはグルコースのような栄養が必要です。その特徴を利用し、カプセルの表面にグルコースをつけてあげれば、脳も「栄養がきた」と勘違いしてカプセルを取り入れてくれる、というわけです。

このように栄養のふりをさせたりすることで、サイズの調節だけではたどり着くことが難しい組織にも薬を届けることができるようになるのです。

ヒト応用の評価方法確立に課題

Q:研究室の体制はどうなっていますか。

基本的にはマテリアル工学科ということで、高分子材料などをつくることを中心にしています。
ただ、当分野は「融合分野」でもあります。そのため、材料をつくるだけでは、どういうがんが難しいのか、何が問題になっているかがわかりません。

ここでは、医工連携が重要になってきます。私自身、元々工学部のマテリアル工学科卒業なのですが、その後一度医学部で研究を行い、それから再び工学部のマテリアル工学科に戻ってきたという経歴があります。そのため医学部時代に培った人脈を生かし、医学系の先生方と頻繁にディスカッションを行っています。

「いま何が問題になっているのか」「どんなことができたら医学的に意味があるのか」といったテーマを話し合いながら研究を進めています。

Q:ナノマシンの実用化に向けて、研究ではどんな課題があるでしょうか。

まず、私たちの技術は実験室でつくったモデルのマウスに対しては大変よく効くということがわかっています。
ただし、実際のヒトに使う場合では、必ずしも同じような結果にはならないということがわかってきました。マウスとヒトは必ずしも同じではないということですね。

これは技術面の課題というよりも、評価方法が確立されていないということが考えられます。実用化に向けて、評価面でのギャップをどのように埋めていくかが課題であるといえます。
モデルが確立されなければ、私たちの技術が本当に使えるかが分かりません。評価系を確立するべく、より適切な評価系となる動物の疾患モデルを持っている先生方と情報交換をし、私たちの技術が本当に使えそうかどうかを模索しているところです。

ただ、がんの研究は他の人もたくさん行なっていますので、次のステップとして「がん以外の病気に使えないか」ということも考えています。
私たちとしてはがんだけではなく、様々な病気の治療に使えることをめざしています。
これから高齢化社会になると白内障や緑内障、もしくはアルツハイマーなどの患者さんが増えていくと予想されています。これら病気の患者にも使える技術をつくっていくために、技術を評価する、もしくはコラボレーションしてくれる先生方・チームが必要です。

私が参画している国のプロジェクトでCOI(センターオブイノベーション)というプロジェクトがあります。これは大学などの技術を社会に還元し、実装していくことを推進するプロジェクトです。
プロジェクトでは、私たちの技術を社会実装するためのベンチャー企業をつくっています。その企業がメガファーマ(大手製薬会社)と私たちの間に入って、技術の紹介や仲介をしてくれています。その意味では、比較的恵まれた環境だと感じています。

Q:研究室には、どんな学生が多いですか。

学生は4年生からです。今は学生が9名、私を含めて15名体制です。
薬に興味があるだけでなく、もっと工学的な技術や新しい医療技術などに興味がある学生さんがうちのラボに来てくれています。

例えばある学生は、4年生の間に材料をつくって、薬を入れて、細胞レベルで効くか効かないかを見る研究を行ないます。さらに大学院の修士に進学すると、実際にそれを動物に投与して、本当に効くか効かないかを検証します。
このように、当研究室では「つくる、物性評価、細胞実験や動物実験」というステップを一通り経験してもらいます。そのため、学生は勉強しなければいけないことや学ばなければいけないスキルが多く、大変だと思います。しかし広い範囲を勉強しておけば、違う分野に就職した時でも柔軟に対応できるのではないかと思います。

進路についていえば、ほとんど全員が大学院の修士課程に進学し、その後は博士課程に進学する学生や製薬会社などに就職する学生に分かれます。
この研究分野は、なかなか思いどおりにはいきません。偉い先生の話を聞いて憧れた研究と、現場で体験する研究の「ギャップ」が大きく、「こんなはずじゃなかったんだけどな」という気持ちになるかもしれません。しかし、そこは乗り越えてほしいですね。

簡単に「抗がん剤」などの良い薬がつくれたら、誰も苦労しませんよね。これだけ研究が進んでいる現代なら、がんの死因は当然下がっていなければならないはずですが、現実はほとんど下がっていません。そう簡単に上手くいくわけではないということですから、課題を乗り越える忍耐力を持って、めげずにいてほしいです。

何でもかんでも我慢すればいいわけではありませんが、上手くいかない時があれば「なぜ上手くいかないのか」「どうすれば上手くいくのか」に向き合う。そうすれば、必ずうまくいく時が来るのではないかと思います。

Q:今後の目標を教えてください。

何よりもまず、「人に使えるかどうか」を確立することですね。マウスによく効くということは、すでにたくさんの人が認めている事実です。それが本当に人に使えるように証明していきたいと思っています。

そして、主にがんに対して行なわれてきた研究でもあるので、今後はこれから増えるであろう加齢に伴って発症するような病に対して使えるように実証していきたいと思います。(了)

宮田 完二郎

みやた・かんじろう

東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 准教授

2006年、東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 博士課程修了。博士(工学)取得。

2005年より、東京大学 大学院工学系研究科・日本学術振興会特別研究員(DC2)を務めたのち、2006年に東京大学 大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 特任助手に着任。同 特任助教を経て、2009年より東京大学 大学院医学系研究科 附属疾患生命工学センター 助教。

2013年より、東京大学 大学院医学系研究科 附属疾患生命工学センター 准教授となったのち、2016年より現職。

    Filed Under: Bio/Life Science, Nano Technology/Materials

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