世界のある地域で起こった気候現象が遠く離れた国の天候を左右することがある。それは異常気象の予測に利用できる可能性がある。たとえばエルニーニョ現象は、一度発生すると1 年ほど続き、世界中に異常気象をもたらす。日本も例外ではなく、エルニーニョ現象が起こると、冬は暖冬に、その次の夏は冷夏になりやすいといわれている。これらの相関関係が解明され、また予測することができれば、あらかじめ適切な対策が打てるようになる。こうした中、世界中の膨大な気象観測データを蓄積・解析し、法則化をめざしているのが、東京大学先端科学技術研究センターの小坂 優准教授だ。今回は気候変動の種類、気候変動におけるデータ分析の基本的な考え方、アジア地域特有の研究課題などについて伺った。

気候観測データを解析し、シミュレートする
Q: 研究の概要についてお話ください。
まず大きな枠の部分からお話しすると、気候変動と聞くと多くの方は温暖化などを想像すると思います。そもそも日本語では「気候変動」と言いますが、英語では「climate change」と「climatevariability」という二つの単語があります。この「climate change」が日本語では「気候変動」と訳されており、「climate variability」に対する訳語はありません。しかし、私はどちらかというとvariability のほうを気候変動の意味として使っています。
「Climate change」のほうはすごく平たく言うと、温室効果ガスの濃度が増えて、気候が一方的に暖かくなっていくことだと言えます。IPCC は「IntergovernmentalPanel on Climate Change」であって、Variability ではありません。私はvariability のメカニズムを研究したり、variability とchangeの相互作用を研究しています。
Climate variability は基本的に、自然に起こる現象のことです。Climate change のように温室効果ガスが増えたからなどという問題ではなく、数週間~ 数十年くらいのスケールで気候が自然のメカニズムによって揺らぐことを指します。この揺らぎが異常気象などを引き起こすわけですから、そのメカニズムを調べてどのような影響をもたらすのかを理解したい、もっと言うなら予測したいと考えて研究を行っています。数週間と十年では起こることも全く違いますが、このあたりが私の研究の守備範囲といえますね。
例えば天気予報などは一週間程度までの時間スケールの話になり、私はそれよりも長い数ヶ月から数十年くらいの時間スケールで起こる変動の研究を主に行なっています。ちなみに気象庁でも通常の天気予報より長い「季節予報」というものを出しています。一ヶ月予報や三ヶ月予報などがあり、これらも私の研究と同じような原理で成り立っています。こういったことを予測するにはまず理解が必要ですから、その研究を進めているというわけです。
Q: 実際の研究の進め方は、どうなっていますか?
大まかに言うと、観測データの解析とシミュレーションになります。観測データというものは、地球全体を三次元の格子状に区切り、温度や風、気圧、水蒸気量など、あるいは二次元でも地表面の温度や気圧、降水量など変数のあるものを解析しています。
私が使っているようなデータですと、地球の大気と海洋を数十万〜数百万個くらいに分割して、各地点で様々な変数がそれぞれあって、それが一斉に時間変化していくものです。分割した各地点の各変数がすべて独立であると考えると、ある瞬間の気候状態はこの数百万の物理量の組み合わせ、言い換えれば数百万次元空間の1 点で表されます。気候状態は時々刻々と変化していくわけですから、私の研究はこの超高次元空間の中での点の振る舞いを見ているといえます。
これは人間の脳の中では描ききれないというか、理解できないものです。例えば、ボールを投げた時に放物線を描きながら落ちてくるというような、空間二次元、あるいは空間三次元と時間一次元の中の点の軌跡を追いかけることであればまだ理解はできると思いますが、数十万とか数百万次元となると、その全容は到底把握できません。
そのため私たちは、なんとかしてその次元を落として、エッセンスを取り出して、理解できる形にしようと研究をしています。データが膨大すぎるため、解析するのも大変なことです。大きなデータサーバーにデータを蓄積して、そのデータを使って日々解析をするという感じですね。観測ステーションは世界中の様々な場所にありますし、また船舶や海上のブイ、さらに人工衛星でも観測を行なっています。とは言っても、大気や海洋全体のあらゆる変数を同時に観測するには到底足りません。
そこで、「データ同化」という技術を使ってモデルと観測を融合して作ったデータも使います。気候科学業界では、こういったデータセットの多くが世界中に公開されています。誰でも、は言い過ぎかもしれませんが、多くの人は自分でデータを取ってきて解析や研究ができるのです。ですから、それを使って自分の解析スキルとアイデアで何を描き出すか、で勝負する世界です。
Q: 気候研究に用いるデータは公共のものなのでしょうか。
共有されているデータは非常に多く、それだけを使って研究することが可能です。モデルシミュレーションに関しては、全て公開すると莫大なデータサイズになりますし、公開用のウェブサイトの維持コストもかかりますから、限られたものだけになります。しかし、やはりデータを作った側にとってはより多くの人に利用してもらいたいと考えるのが普通ではないでしょうか。そうすることで、作った人の仕事の価値が上がるわけですから。
ここでもう少し具体的な話をすると、気候変動といっても例えば東京と横浜の気温の揺らぎ方は同じくらいになりますよね。先ほどもお話ししたように、地球全体を数百万個に区切ったとき、隣合う地点同士は全く違った変動をするわけではなく、ある程度の範囲で揺らぎ方は似通っているはずです。東京が平年より暑ければ、その近くの横浜も平年より同じくらい暑いというようなイメージです。
言い方を変えると、変動は空間的に組織化されて起こります。こういった空間規模の大きさというのは、時間スケールと相関しています。つまり、時間スケールが長いものほど、空間スケールも大きくなる傾向にあります。例えばゲリラ豪雨のようなものは、数十分~ 数時間、数キロメートルの範囲で起こる現象です。東京と横浜間でも違う天気になるかもしれません。これが台風くらいになると数日の間存在しますし、範囲も数百~ 千キロメートルくらいになるでしょう。さらに私が扱っているような数週間以上のものであれば、数千~ 数万キロメートルくらいになります。
一口に変動といっても、このように組織化されて、現れやすいものがあるのです。膨大なデータの中からそういったものを探し出して、なぜそのようなものが存在して、その場所やその季節にあって、どのような影響を与えるのか。さらに、その現象は予測できるだろうか、できるとしたらその前兆は何なのか、ということを研究しています。
例えば、エルニーニョ現象。エルニーニョ現象は、数年に一度太平洋の赤道域で起こる現象で、東西幅1 万キロメートルを超える巨大なものです。これは一度発生すると1 年ほど続き、世界中に異常気象をもたらします。私はエルニーニョ現象が日本に異常気象をもたらすメカニズムや、それを予測できるかどうかも研究しています。あんなに遠い場所で起こっているのだから関係ないというわけではなく、日本にも影響を与えることがわかっています。エルニーニョ現象が起こると、その次の夏は沖縄・奄美を除く日本で冷夏になりやすいことが知られています。そのメカニズムは私の研究テーマの一つですが、これについても科学として説明や予測ができるようになってきています。説明ができれば予測も信頼できるし、さらに言えばメカニズムがわかればどのあたりのどんな量を監視すれば予測の役に立つのかがわかるようになるのです。モデルは気候をシミュレートするもので、初期値を与えて時間を先に進めていけば予測はできます。
しかし、先ほどもお話ししたように初期値となる観測には限界があって、完璧な初期値は得られませんし、またモデルも厳密に正しいわけではありません。ですから、モデルの予測は現実とはだんだん離れていってしまいます。では、どういう過程をうまく表現すればモデルの予測はよくなるのか、あるいはどのあたりの観測データを今よりも増やせば予測がよくなるのかなど、手がかりを得るためにはやはりメカニズムを知りたいのです。統計や経験でも予測はできますが、過去のデータに見られる統計関係が偶然によることもありますし、またその統計関係が長期的な温暖化やゆっくりとした変動によって変わっていくこともあります。ですから、しっかりメカニズムをわかった上で予測できるほうがいいですよね。
東アジアの気候研究は、まだまだ開拓の余地あり
Q: 日本の異常気象についての研究は海外と比べて進んでいるのでしょうか?
気象学や海洋物理学の基礎理論は普遍的ですが、実際に起こる異常気象や気候変動は地域によって大きく異なります。自然と、ヨーロッパの気候はヨーロッパの研究者が、北米の気候は北米の研究者が多く研究するようになります。日本を含む東アジアの気候についても、東アジアの研究者が主に取り組んでいますが、まだまだ発展の余地があるという印象です。これは必ずしも日本の気候研究のレベルが低いのではなくて、アジアの気候が非常に難しいのです。ですから、日本に関連するような異常気象の研究の余地はまだまだたくさんあります。難しくて大変ではありますが、私は逆に面白い研究テーマがあるとアピールして、欧米の研究者も東アジアの研究をしてくれるようになればと思っています。
私は、大学院生の頃、日本の夏に異常気象をもたらすような大気循環変動についての研究を行なっていました。特に、フィリピンで雨がたくさん降る夏は日本で暑夏になりやすい、という関係についての研究でした。
この現象のように、遠く離れた地点の天候に関係性があることを「テレコネクション」と呼んでいます。夏のフィリピンと日本の間のテレコネクションは「PJ パターン」と呼ばれています。日本で夏の気温が高いということは、言い換えれば雨が少ない、つまり梅雨前線が日本の上空に留まりにくいということです。
梅雨前線が日本に停滞すると、じめじめして気温はそこまで高くなりにくいのですが、前線が北に抜けていった後は、熱帯の空気に覆われて温度が上がるのです。PJ パターン以外にも世界中でいくつかのテレコネクションパターンが知られていて、フィリピンと日本のケースも比較的よく知られてはいますが、そのメカニズムについてはまだよくわかっておらず、私も研究してきました。
まだすべてがわかったわけではありませんが、PJ パターンはエルニーニョ現象の翌夏にあらわれていることが発見されました。エルニーニョ現象は熱帯の大気循環を変えてインド洋に影響を及ぼし、そのインド洋が今度はPJ パターンを駆動するということがなんとなくわかってきたのです。この説を提示した私のアメリカ時代の上司は、私がPJ パターンの研究をしていると知り、うちにきてやらないかと声をかけてくれたことをきっかけに、私はハワイ大学に移りました。PJ パターンはエルニーニョ現象の翌夏にくるわけですから、1 年ほど前から予測できることになります。
このようにハワイ大学では、エルニーニョが東南アジアや東アジアに影響を及ぼすような、持続する異常気象についての研究をしていました。私たちの業界は先ほどもお話ししたとおり、データを皆で共有できる環境にありますので、やろうと思えばわりとどこでもできてしまうわけです。
ただ、モデルに関しては一昔前までは自分たちでモデルを開発しているような研究所しか使えないのが普通でしたが、最近ではモデルも公開されているものがあります。
私がアメリカにいた頃、そちらの研究プロジェクトに関わっていたこともあってアメリカの地球流体力学研究所のモデルを使わせてもらうことができました。今でもそのモデルを使い続けています。観測データが公開されており、モデルもある程度共有されているのですから、材料や道具がどうこうというより、それを使って何をするかで研究の独自性が出てくるといえるかもしれませんね。
私は実際にエルニーニョが日本の夏に及ぼす影響を調べるため、少し特殊なモデルの使い方をしてみました。エルニーニョ現象のようなものは自然変動ですから、一度始まればその後に発達していくことはわかっていますが、エルニーニョが始まる何年も前に「〇〇年後にエルニーニョが来ますよ」という予測は今のところはまだできない状態です。そのため、モデルの中でも勝手に起こるようなエルニーニョのタイミングは、現実とはどんなに頑張ってもせいぜい1、2 年しか一致しません。これがエルニーニョの本質でもあるのですが、それでは観測と直接比較することができません。
そこで、モデルの中でエルニーニョのタイミングを無理矢理観測と合わせるような数値実験を考え、それがもたらす影響を観測と比較しながら見ていくというアプローチをとりました。そのようなモデルの使い方が新しかったわけですが、実際にやってみたところ、それがなんと温暖化の研究にも使えることが後になってわかったのです。
道具であるモデルは自分で開発している人たちに限らず、多くの人が使えるような時代になってきています。その使い方を工夫して、新しい道を切り開きたいと思っています。新しいモデルを作るよりも、今あるモデルで今までにはない使い方をしてみるという感じですね。
Q: 現時点での研究環境について感じていらっしゃることはありますか?
もちろんコンピューターが今よりもさらによくなっていくことは理想ですね。私が使っているモデルだと地球大気を200~250 キロメートルくらいに分割しています。日本なら東京と大阪はなんとか区別できるくらいのスケールです。
例えば温暖化予測をする時は、100~200 年分くらい計算しなくてはならないですし、海洋も一緒に計算しますので、非常に時間がかかります。温暖化シミュレーションは世界中で行なわれていますが、もっと解像度が高いものでも50 キロメートルがやっとです。大気だけなら20 キロくらいまでできますが、海も含めるとなると、やっと100 キロメートルを切るという感じです。
私のように大きな空間スケールを研究しているのであればいいのですが、例えば自治体レベルなどで温暖化対策としてインフラ整備とか、熱波や洪水などのリスクを考慮して都市計画をしたいというような場合は、空間スケールがあまりにも大きすぎるのが現状です。やはりコンピューター性能は、一つの大きな壁になっていると思います。さらに、高速なコンピューターを使いこなすだけのモデルを作っていかなければならないですし、それをやるだけの人材も日本ではなかなか足りない状態です。このあたりが課題といえますね。
Q: この分野を志す学生に伝えたいことはありますか?
まず自分がやってみて面白いと思えるかどうかが一番大事なことだと思います。世の中の役に立ちたいと思う人もいるかもしれませんが、実際に研究をしてみないと、何が役に立つかなんて結局はよくわからないものです。
例えば私のやっている温暖化についての研究で言うなら、要因を分析することで過去に起こった気温変動のうちこの部分は自然現象、この部分は人間が原因になっていますよと要因がわかると、今後の産業活動によって気候がどうなっていくかも推定することができ、その後の対策を考えることができます。これは社会への貢献になると思いますが、私は研究を始めた時点ではそういう形での貢献を目的としてはいませんでした。最初は全く違う目的で始めたことが、結果として社会の役に立つということもあるのです。
ですから、まずは自分が面白いと感じることを追求するべきだと思います。研究に興味があるならば、少なくとも学生の間は思いきり研究に没頭して、本当に自分が好きなことかを見極めていけば、その先に多少辛いことがあっても乗り越えていけるのではないかなと思います。
Q: 企業について期待することはありますか?
普段企業の方とお話しする機会がほとんどないのですが、期待することといえばまず一つ、気象庁が出している季節予報についてです。これは数ヶ月先、半年先などの平均的な天候を予測しているものです。季節予報には私たちの研究の成果も反映されていくのですが、こういった情報があまり使われていないのは残念に思います。正確なところは把握していませんが、欧米では日本よりも使われているというイメージがあります。日本でももっと利用してもらえればと思っています。
もう一つはやはり若い世代が気候研究の世界にどんどん入ってきてほしいと考えていますが、将来食いっぱぐれるのではないかと心配する人が多いようです。研究からドロップアウトした人たちを受け入れられる社会でないとそういうチャレンジもできませんので、このあたりもよくなっていくように期待しています。(了)

小坂 優
こさか・ゆう
東京大学先端科学技術研究センター准教授。2007 年、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。同年より東京大学大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻特任研究員となる。2009 年よりハワイ大学国際太平洋研究センター ポストドクトラル・フェロー、2012 年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校スクリプス海洋研究所 プロジェクト・サイエンティストとなる。
2014 年より現職。