シリコンでできた高価な半導体、そのイメージを覆す新素材が登場した。驚くことに塗って乾かすことによって作る有機半導体だ。物理や化学の基盤の上で、革新的な新素材を用いたデバイスの開発に取り組んでいるのは東京大学の竹谷純一教授。大量に安く作れる半導体は、我々の暮らしにどのようなインパクトをもたらすのだろうか。新素材の実装の先にある次の社会について、竹谷教授にお話を伺った。
IoT の真価を引き出す新素材を使った有機半導体の可能性とは
Q: 現在のご研究について教えてください。
半導体の研究を行なっています。
半導体は、コンピューターやスマートフォンなどで情報を電子的に扱うために必要となる重要な材料です。現在は半導体を作るのに「シリコン」と呼ばれる材料が使われていますが、シリコンは固いので曲げたりすることができません。それから作るのにはとても大掛かりな設備が必要です。そのため世界中でも本当に大きな有数の会社しかシリコンを使った半導体の生産はできないのです。日本だと東芝や日立が有名ですね。
我々は、そうした半導体の材料に有機物を使っています。有機物とは、私たちの体を作っている素材と似たようなものです。こうした有機物の分子を集めて半導体を作る研究に取り組んでいます。このような新しい材料がエレクトロニクスになるのは画期的なことなのです。
それによって、私たちが作った小さなベンチャー企業のような、あまり大きくはない会社でも、半導体の機能をもったデバイスを作ることができます。なぜならば、有機物の材料を使うとそれを塗って乾かすだけで、0や1 などの情報をコントロールするデバイスができてしまうからなのです。
どういうものかというと、液体の中に半導体の分子が溶けています。それを乾かすと最後に塩の結晶のようなものが出てきて、半導体の膜が出来上がります。もちろんその工程を上手に行なわないといけません。この方法を使えば、従来のものよりも大きな半導体を作ることが可能になります。そして大きなものが簡単にできることによって、普通の小さいサイズのものが現在よりもずっと安い値段で作ることができるようになるのです。この技術はかなり世の中を大きく変えるインパクトがあります。
例えば、コンサート会場や大きなイベントホールで使うような巨大なディスプレイを想像してください。それがテレビと同じような感覚で自分の手元から操作することも可能になるでしょう。さらに、周りを囲むようなドーム状にすると、シアターやホールのような大きな空間で3D 映像を再生するデバイスも作れるかもしれません。
色々なことができる便利な世の中になりましたが、材料がシリコンだけに限られている状況ではできないことがまだたくさんあります。そのため、現在よりも格段に安く簡単に作れる半導体を生み出すことによって新しい社会を実現するという夢を追いかけているのです。そして、大きいものが作れることと小さいものが安く作れることによって、もう一つの可能性があります。
最近は「IoT」が話題になってきていますよね。「Internet ofThings」の略ですが、色んなものをセンシングしたり、そのデータをどこかに送って管理する社会のことです。そのためにはセンサーが多ければ多いほど、便利になります。そこで我々が作っている簡単に塗って乾かすだけでできる半導体は大量に安くできますから、それによってIot の本当の魅力が発揮できるようになるでしょう。
その一つの例が、物流への活用です。現在ターゲットにしている物品は、温度を管理する必要があるような品物です。例えば、ワイン。生産地から消費者に届ける間で温度が変わってしまうと、品質が悪くなってしまいます。そうした品質管理にもセンサーが求められるのですが、これまでの技術を使って大きい工場で作ったシリコンの半導体だと、どうしても安くできないことが課題でした。
そうした色々な場面で、従来の10 分の1以下のコストで作れる半導体の需要があるのです。ですから、私たちが取り組んでいる研究は、一つがこうした半導体材料の研究。それから電子がどのように流れるかを調べる研究、そしてそれをどのような実デバイスにしていくかの工程を考える研究です。Q: そうした半導体に関わる工程を一通り扱っていらっしゃるのですか。そうですね、ほとんどの部分に携わっています。その他にも、「最初にどこの市場に持ち込むのが良いだろうか」といったことも検討しています。
Q:「低温電子物性」とはどのようなものでしょうか。
これは、どのように有機半導体のデバイスを魅力的にするかに関わっています。一つは、「速さ」です。例えば1 と0 の分離演算を一回行うのに1 ミリ秒(1000 分の1 秒)かかると、1 万回の演算をしたら10 秒かかることになります。その時間を縮めるためには、半導体の中を電子が流れるスピードを上げなければいけないので、新しい材料を開発するのです。そのとき、どのようなものにすればよいかといった、いわば設計の指針を与える必要があります。
そのために物理の研究が必要で、電子が柔らかい半導体の中をどのように流れるのかを知らなければなりません。そこで私たちは低温の電子物性と呼ばれる手法を使っているのです。
Q: なぜ「低温」の電子物性なのでしょうか。
実際、半導体は室温で使うので室温における姿や速さを研究していけばいいのですが、そればかりだとなぜ半導体が室温でそのスピードなのかを解明することができないのです。けれども、実は温度を下げていくと我々の開発しているデバイスは性能が良くなります。これはどういうことかというと、温度を下げると振動が止まるからです。つまり、温度とは実は振動なのです。例えば、木製の家具を触って「温かい」と感じたら、それは木の中の分子が忙しく動いていることを意味しています。
Q: 温度とは運動量の現れなのですね。
そうです。運動こそが熱なのです。だから温度を下げて性能が上がるならば、分子の動きを止める工夫をすればよいのですね。そこで、分子の動きを止めるような分子の「形」を作ります。例えば、棒状のものだったら、軸を中心にくるくると動きやすいですよね。けれども、その棒からひげのような突起が出ていたらひげが邪魔になって動きが止まります。そうした棒を複数接近させると互いにぶつかって動きにくくなるのです。
Q: 対称な形よりも少し複雑な形にすればよいのですね。
そうなのです。実際に、そのような分子に変えたら電子のスピードが上がったのです。このような研究により、室温のスピードがどのような理由でその値になっているかが分かるようになりました。このことが、次の材料を開発する際に非常に役に立つのです。そのため、低温における速さや、温度による変化を研究しています。その他にも、磁場をかけるなど様々な条件の下で性能研究を行なっています。
Q: これまで有機半導体の課題であった速さを克服しつつあるのですね。強度の面ではどうでしょうか。
壊れやすいといった課題はあります。化学的な研究で取り組んでいる課題です。光が当たると簡単に崩壊してしまうような脆さがあると、短い間は正常に扱えてもテレビを動かす部品として使うとすぐにだめになってしまうといった問題が考えられるのです。そのため、化学的に安定であることは非常に重要なポイントだと考えています。
このことから、我々の研究室では化学者が、光に当たっても壊れないような化学的安定性をもつ素材を研究しているのです。その点において、我々の作っている材料は非常に優れているのです。実際に測ってみるとその差は明確です。例えば、金はずっとおいていても劣化しない丈夫な素材として有名ですが、酸素に対する強さを測定すると我々の有機分子は金よりも安定なのです。そういった点においてはパーフェクトだといえます。
Q: 現時点で取り組んでいる課題は何でしょうか。
現在は、なるべく早い実用化に向けて、実際に使えるデバイスを作ることを目標に取り組んでいます。その際、最終的には1 万個以上の組織を作ることになるのですが、全部の組織がきちんと予想された通りの働きをしなくてはいけません。しかし1 万個も作ると中にはダメなものが出てくることもあるので、「この割合で欠陥が出る場合、ここをこのように改善しなければならない」と化学的に精査していく必要があるのです。それも、ひたすら作って、経験的に「こうしたら良くなったから今度はこうしてみよう」と進めていては、開発が全然間に合いません。そのため、問題のある状況に直面したらどこがいけないのかを徹底的に考えてから次のアプローチに進む必要があるのです。
Q: 局面に応じて、物理の研究が必要であったり、化学の研究が必要であったりするのですね。
そうなのです。だから新規材料のデバイスの開発には、そうした基礎に立ち戻った研究ができることが重要です。それが我々の研究室の強みだと考えています。
人間社会にインパクトをもたらす実用化を目指して
Q: 最初に物理学の道に進んだきっかけ何だったのでしょうか。
物理学は、現象をみる限りはとても難しくてよく分からないことがだんだんと分かってくる学問です。その魅力と同時に、分かったことが色んなことに適応できる真理であることも多いのです。
例えば、電子と電子が出会って、場合によっては反発したり引きつけ合ったりしていますよね。これも電子を人間に置き換えると似たようなことがよくあって、人間関係と類似している真理です。また早く進んでいると気がつかずにすれ違ってしまうけれども、何かの拍子に穴に落ちたりといった状態を共有すると互いに知り合うといったことが、電子の場合にも起こるのです。
逆に同じところにいるとむしろ反発してしまうこともあります。人間と同じですよね。だから電子のことを研究していると、人間社会のこともより分かったような気持ちになるのです。それは物理学の楽しいところだと思います。
Q: 万物の定理のようなものを感じられるのですね。
はい。そして電子で起こっていることが、例えば宇宙の法則に関連しているといったこともよくあります。そのような普遍性に魅力を感じて物理学を志しました。
Q: 大学ではどのような研究をされていましたか。
「高温超伝導体」と呼ばれる材料が以前とても流行っていたのです。普通の電動では、電線を通してエネルギーを送電しますよね。実はその間に必ずエネルギーのロスがあります。超伝導は、そのロスがなくなる驚くべき現象でした。その材料はやはり非常に役に立つものに違いないと考えて、その研究に取り組んでいたのです。残念ながら、我々が生活している室温では超伝導の状態になっているものはまだ開発されていません。
当時私が取り組んでいたのは、その中でも室温に近く比較的高温なものだったので、高温超伝導体と呼んでいました。その研究を進めていけば室温でも使えるようになるだろうと思っていたのですが、まだ時間がかかりそうです。ただ現象としては非常に面白いものです。だから超伝導体にはとても興味をもっていたのですが、「そんなにすぐには実用化に結びつかなさそうだ」と分かってきました。
一方で、その超伝導の研究では、どのように物質の機能を引き出すかといった点では理解が進み、方法を身につけたような手応えがありました。そしてそれを別の材料に適用したいと考えたのです。そこでたまたま目をつけたのが有機半導体でした。柔らかい半導体は、電子をもっているところとの距離が離れているから曲がりやすいのですが、そんなところに電気が流れるのはとても不思議なことです。その疑問は未だ謎として残されていたので、それを追究する実験に取り組もうと考えました。
Q: 有機体に電気が流れるのは最近になって分かったことだったのですか?
そうです。それで昔ノーベル賞を受賞した日本の研究があったのです。プラスチックにある処理をするとよく電気を通すようになったことを発見されました。それ以前は、有機物にはあまり電気が流れないのが常識だったのですが、それを覆したのです。
我々の間では有機物に電気が流れることは知られていましたが、なぜそこまで流れるのか、材料や条件を変えたらより電気が流れるようになるのかといったことは解明されていませんでした。それを実際に研究して、新しい材料を用いて作った有機半導体が、本当によく電気を通したのでとてもびっくりしましたね。想定していたよりも10 倍くらいよく流れました。このような新しい材料や新しい現象の発見がもたらすインパクトは非常に大きいのです。古くは人間が鉄を溶かして刀を作りはじめたときも、最初にそれを行なった民族は戦争で圧勝していました。そのくらい、新しい素材の影響は大きいといえます。
有機半導体ではこれまで、分子があまり整然と並んでいない状態で電気を流していましたが、それでもよく電気を通していたので「すごいなあ」と驚いていました。しかし私たちはさらに電気がよく流れるように、分子をきれいに並べたのです。その結果、10 倍以上流れるようになりました。もともと周期的に並んでいる組織は電気を流しやすいのです。
そしてそれを有機材料でも実現できたことは、非常に大きなことでした。物理的な発想に由来する現象の発見だったのです。それによって電子の流れるスピードが10 倍以上になると、その分デバイスも速くなるのですから、先述のような大きなディスプレイや分離演算のできる電子タグへの応用が期待できます。
Q: 社会にはどのような変化があるでしょうか。よりスムーズにテレビ電話ができるようになるといったイメージですか?
そうですね、そのようなインタラクティブなものにも変化があるかもしれません。例えばオリンピックの会場などで、大型のディスプレイと連動して、観客それぞれが手元で操作して情報をみるようなシステムを作ることも可能になると思います。それだけではなく、大きなディスプレイだと人が集まってきたときに情報を一度に共有できますよね。自分がみるだけなら手元の小さい画面で十分ですが、それを同時に多くの人がみられるような新しいメディアができるのではないでしょうか。
Q: これまで1 対1 だったコミュニケーションの幅が対複数も可能なほど広がりそうですね。
そうですね。ヴァーチャルリアリティも面白いと思うのですが、一体感をもっと出したいと思うのです。携帯電話と同じような操作を大きなディスプレイで行なうことができれば、そういう変化があるでしょう。これまではそのような大きなディスプレイを作るのは非常にお金がかかってしまっていましたが、今後は私たちの技術を使えば可能になると思います。
盤石なベースを生かして、実用化の軌道にのせる仕組みづくりを
Q: 大学をご卒業後は電気中央研究所やスイスでの研究を経験されたそうですが、感触はいかがでしたか?
電気中央研究所では引き続き高温超伝導体の研究に取り組んでいました。こちらも基礎的な物理の研究が主でした。有機材料の研究をはじめたのは、スイスに渡って研究をしていたときです。そこも物理の研究室でしたが、私と同じような考えで有機物の材料を使った半導体における電子の回り方を研究しているところでした。
日本と比べるとあまりあくせく働いている雰囲気ではありませんが、効率よく研究していました。そして人と会話をしながら進めていたのが印象的でした。当時スイスでのボスだった人は、人を気持ちよくさせる術をよく知っている人で、一言でいうと人たらしだったのです。研究でも会社でも、いい人を探して採用しなければいけませんから、そういう意味においてはコミュニケーション能力に優れていたのだと思います。
Q: 有機半導体の研究においては、日本と海外に進み具合の違いなどはありますか。
材料の開発の点では日本の方が進んでいます。我々の研究室の他、理研のグループでも最近開発が進んでいますから、新しい材料をどん欲に取り入れて半導体にしていくといった面は日本を中心にして進められてきたのだと思います。一方で、海外にも合成の研究室はありますが、我々のように物理の研究室とはそこまで強く結びついていないのでなかなか進展がありません。
しかし海外のグループは、ベンチャーの会社が多いこともあって実用を目指した研究などにおいては進んでいます。そうした、実用化研究へのお金のかけ方が桁違いに上手だと思いますね。日本にはそうした動きがほぼありませんから、歴然とした差があります。ただ、日本に比べベーシックな部分がいまいちなので、うまくいかない部分も出てきているのです。
Q: 海外のグループと互いに補いあって研究することはありますか。
そうですね、今後増えてくると思います。しかし、まずは国産の材料を私たち自身がデバイス作りに使って、ある程度は形にしていきたいですね。こちら側が材料を出すだけだとうまくいかないでしょう。というのも、そのあとどのように半導体のデバイスへと結晶化させるかが材料によってまちまちなのです。そのため、ある程度研究を進めておいてから海外と共同で研究するのがいいと思います。その方がベンチャーの会社も利益を上げやすいですからね。
Q: この分野では、日本の企業や政府にとっては実用化の部分に課題があるでしょうか。
そうですね。日本でもかなりそういった面でのサポートは進んできているとは思いますが、エンジェル・ファンドさんなど海外の民間が出している資金の量とは全く比べ物になりません。特に材料やデバイスなど、ものづくりの研究はお金がかかるので、資金をあまり必要としないIT 系ベンチャーと比べると非常にコストがかかるのです。そうした点における仕組みを、大学その他の実用化研究が中心となって作っていく必要があります。そして大企業もそれを求めていると思いますから、その両者を結ぶベンチャーの会社を交えて三つ巴になって開発を進めていくのが理想です。そうすれば日本にとっても、次の産業の源になるようなものが生まれてくるのではないでしょうか。
Q: 産学連携の形で進めていくのが理想なのですね。
はい、現在この柏の葉キャンパスでもそうしたことに取り組んでいます。東大もかなり熱心に進めようとしてくれているので、我々も協力して、新しい体制の良い例を見せていけたらいいですね。実用化に向けて大事なポイントだと考えています。
Q: 現在はどのようなベンチャーを考えていらっしゃるのですか?
「パイクリスタル」という会社を作ろうとしています。その名前は、有機分子の中を流れるパイ電子に由来しています。そして、それによって結晶を作るので、二つを合わせて「パイクリスタル」と名付けました。現在はディスプレイの開発などを行なっています。それと同時に、1cm くらいの小さい場所に1 万個くらいのデバイスを並べて演算をさせる回路も作っています。これは先述の電子タグに使うような製品です。
Q: 多くの企業から関心を寄せられているのではないでしょうか。
そうですね、開発段階から企業と一緒に行なっているものもあります。先述の物流用タグがそうです。現在は10 倍くらい高いシリコンのデバイスが一部のコンテナに実装されています。それを扱っている会社さんと一緒に、有機半導体の電子タグの開発に取り組んでいるのです。あと3 年くらい経てば、大手の物流会社にも使っていただけるようになるのではないでしょうか。
Q: 世界展開も視野に入れていますか。
そうですね。市場は世界的にある方がいいと考えています。日本では、映像などにおいてはかなりクオリティが重視されますよね。綺麗な写真や映像が撮れるかどうかがまず評価されます。それに対して、アジアの国々ではクオリティなどよりも、まずは新しさが注目を集めるのです。だから商品化するなら、海外にアプローチすることになるのではないでしょうか。そういった日本と海外の違いは結構大きいです。例えば電気自動車も、日本では安全の基準が厳しく、普及させるのは大変ですよね。海外はそれほど厳しくないので既に道路を走っているところもあります。
あえて困難な課題に挑み、社会に変革をもたらす技術の確立を目指す
Q: 今後の研究を担う学生や若い研究者の方々には何を期待されますか。
みていると、学生さん達は驚くほど色々なことを速いスピードで吸収しています。だから私たちがすべきことは、大事なことを伝えることだと思います。是非ここで学んでほしいのは、材料の開発などのベーシックな研究においてはよくよく頭を使う必要があるということなのです。
そして注意深く取り組まなければ、一つ間違うだけで大変なことになります。そうしたことを学んでほしいと思いますが、同時にその研究のインパクトは社会的に非常に大きい可能性があるのです。だから自分が取り組む研究の重要性を体感してほしいですね。彼らはこれまで良い教育を受けて能力の高い人材になってきたのだと思いますが、それを実際に使うことをここでは教えたいと考えているのです。
私たちの研究室も、実際にそうしたことを行なっています。だから若いうちにそれを理解してほしいですね。「他の人がやらないことをやる」と聞くと、なんだか難しそうに聞こえると思いますが、それでもチャレンジしていってもらわなければいけないと思います。
Q: 人が取り組んでいないことにあえて飛び込んでみることが大事なのですね。
はい、人がすでに手をつけている分野では、後から入ってきた人にはほとんどチャンスがありません。それよりも、他の人が取り組んで大失敗しているような分野はチャンスが非常にたくさんあります。そこで、我々が物理学の研究を行なってきたように、根本の部分に立ち戻って考えるのです。その中で「こうしたらうまくいった」といったような成功体験をたくさん積んでほしいと思います。
Q: 最後に今後一番力を入れていきたいことについて教えてください。
私たちの研究は材料から始まり、物理の現象を理解し、そして現在はまさに実用まで押し進めようとしています。その中で非常に重要なのはやはり、社会のサイクルの中で実際に収益を上げられるような形で実装することです。また、そうした取り組みを行っているうちに、さらにその次に必要なもの・ほしいものがみえてきました。
そのため、また新たにベーシックな材料開発や基礎研究に立ち戻って、研究のサイクルをもう一周させたいと考えています。そのように研究のサイクルが二周すると、もはや世界でも誰も追随できない技術になると思うのです。(了)
竹谷 純一
たけや・じゅんいち
東京大学大学院新領域創生科学研究科物質系専攻 教授。1989 年東京大学理学部物理科卒業、1991 年東京大学理学系研究科物理学専攻修士課程修了、2001 年東京大学理学系研究科物理学専攻博士( 理学) 取得。電力中央研究所 主任研究員、スイス連邦工科大学固体物理研究所 客員研究員、理化学研究所 客員研究員、大阪大学産業科学研究所 教授などを経て現職。有機半導体の電子輸送、電子半導体デバイスなど有機エレクトロニクス研究を牽引している。