ヒトはどのように物事を記憶しているのか?という問いは、古来から研究されてきた永遠のテーマの一つであり、そのメカニズムは現在でも完全には解明されていない。記憶の仕組みを解明することは、脳を解明することにほかならず、認知症やPTSDといった症状を改善する治療法の開発につながることが期待されている。こうしたなか、幅広い記憶研究のなかでも「陳述的記憶」を中心に研究をおこなうのが、鹿児島大学大学院の奥野浩行教授。経験・学習に関連する遺伝子群や、それらが発現する神経回路の性質と機能を解明することで、記憶のメカズニムを明らかにする研究をおこなう奥野教授に、研究の基本的アプローチについて伺った。
「陳述的記憶」を中心に研究
Q:まず、脳研究の社会的ニーズとはどういったところにあるのでしょうか。
そもそも記憶というものは、「我々が人間として、人間らしく行動するために必要な能力」だと思います。プラトンやアリストテレスの時代から、「記憶とはなにか」という命題があったわけです。その頃から2000年以上経っていますが、未だになにが人間の知性なのか、そのためにどのように記憶が使われているのかはよくわかっていません。
記憶のメカニズムがわかるとなにがいいのかというと、まず一つに我々人間が本来持っている「知識欲」を満たすものだと思います。記憶能力は人間も動物も持っていますが、知識欲は生物界において人間がどのような立場なのかを位置づける、一つの指標とも言えるかもしれません。
脳がどう動いていて、ずっと忘れないのはどういうことか?スケールが少し違うかもしれませんが、例えば宇宙はどうなっているのか、星はどうやってできているかなどは、ロマンを掻き立てます。このように、まだ解明されていないことを明らかにするという意味で本質的であると言えますし、学術的な面で非常に意味があると考えています。
私自身はどちらかというと、このような基礎科学的な部分をモチベーションにして脳のことをもっと知りたいと思っています。一方でニーズとしては、認知症などの場合であれば頭の中でなにが起こっているか、そのメカニズムが理解できなければ正しい治療も困難ですし、予防法もわからないわけです。
また最近はニーズとして、認知症だけでなく精神疾患や発達障害などもあります。治療法や予防法に関して様々な研究が行なわれていますが、もしそういった疾患にかかってしまった場合どのようにして周りと共存していくか、うまく社会に溶け込んでいくかは、大きな意味で見れば脳科学の一つの目標でもあります。その中で認知能力などの向上をどのようにして助けていくかということも重要です。
自己と他人の関係は、記憶と大きく関わっています。例えば今日お話ししている内容を、次回会った時に「以前こんな話をしましたよね」ということを覚えていないと、対人的な関係はつくりにくいと思います。例をあげるなら、自閉症の人はあまり他人に興味がないことが症状の一つでもあります。社会的な面で見て、周りと違う行動をしてしまう人にも、その人なりの行動パターンがあるわけです。なぜ普通の人と違う行動をとってしまうのか、それが記憶とどう結びついているのか。
結局自分の行動は、今までの経験に基づいて判断しているものです。「この場合はこうしたらいいんじゃないか」「これはよくないんじゃないか」という考えには全て記憶が関わってきます。すなわち、多かれ少なかれ、経験や良識、コミュニケーションなどは全てに記憶が関係しているわけです。臨床的な脳研究では、どういった方向で治療していくか、その人を社会的にどう受け入れていくかという方針を提案することが大きなニーズになっていると考えています。
“記憶”という言葉は、一般的には日常に経験したことを覚えたり教科書に載っている内容を覚えたりすることを指しますが、実は脳科学においては非常に幅広い意味で使われています。
例えば、自転車に乗れるようになるとか、水泳ができるというのもそうですね。一見、脳とは関係がなく身体が覚えることのようですが、これにも脳の記憶メカニズムが関わっています。我々の研究の興味対象はこのような運動記憶とは少し違うものですが、それも含めて人間の記憶研究には非常に意味があると考えています。
残念ながら私たちの研究ではありませんが、「睡眠のサイクルと記憶の関係」や「1日の中でいつ学習すれば効率がいいか」などの研究テーマはとても面白いと注目しています。人間でやっていることもありますし、動物実験レベルのものもあります。単なる睡眠の充足・不足ではなく、いわゆる「体内時計」と記憶の関係も少しずつわかってきているので、より効率的に運動や学習を効率的に行うにはどうしたらいいか、ということを将来的には提示できるかもしれません。このような意味でも記憶研究はやりがいがあると感じています。
Q:そのなかで、こちらの研究室ではどのような研究を行なっていますか?
様々な研究が行なわれている中、私の研究室では主に狭い意味での記憶について研究しています。「狭い意味で」というのは、言葉で表すことのできる記憶で、専門用語ですと「陳述的記憶」といいます。
ちなみに、スポーツや運動の記憶は言葉で表しにくい記憶、「非陳述的記憶」と呼ばれています。陳述的記憶の中でも、教科書や本から得られる知識や事実に関する記憶ももちろん大事なのですが、もう一つ自分自身に起こった過去の出来事である「エピソード記憶」も重要です。その本質としては、「いつ」「どこで」「誰と」「どうしたか」という、5W1Hのような内容を伴った自分だけの経験が、我々の脳の中に入っています。
しかし、子供の頃の記憶など、すべてが残るわけでもありません。では、なにが残ってなにが残らないのか、どうすれば過去の記憶に新しい記憶を積み重ねることができるのか。初対面の人に会った時の記憶を、次に会う時に思い出して「以前はこんな話をしたな」「この人はあれが好きだといっていたな」というように、様々なことを連想・連合していくわけです。これがおそらく「陳述的記憶」の本質ではないかと考えています。「連合の記憶」が脳のどこにどのようなメカニズムで蓄えられるのかを知りたいと考えています。
人間の脳の研究は世界中で行なわれていて、最近は機能的MRI(fMRI)という方法などが多く使われています。この方法は脳のどの部分が記憶に使われているかということを理解するのに非常に有用です。一方、私たちは神経細胞レベル、もしくは神経細胞の中で働いているタンパク質や遺伝子といったレベルで、記憶のメカニズムを明らかにしたいと思っています。
Q:実際の研究体制はどうなっているのでしょうか。
まず、分子や細胞レベルの研究を人間で行なうことは、なかなか難しいことでもあります。そこで「還元方式」という、人と共通性はあるけれども、より単純なモデルや生物を使って細胞や遺伝子を調べるという方法を用いています。
還元方式ではマウスなどの小動物を使っていくのですが、動物の場合は喋れない上に「覚えた」ということが非常にわかりにくいわけです。そこで近年行なわれている研究では、ある場所に行けばエサをもらえるだとか、そこに行くとなにか嫌なことがあるというように、場所とイベントをセットで動物に覚えさせることをしています。もしくは「パブロフの犬」のように、チャイムが聞こえたらエサがもらえるという感じの、感覚刺激(音、光や匂い)とイベントのセットの記憶ですね。
このような刺激や場所と報酬や忌避すべきイベントとの連合記憶は、人間でない動物でも上手くつくられます。その際に脳の中ではどんなことが起きているかを調べるのが我々の研究です。
脳を細胞レベルで調べる研究には二つの大きな流れがあります。
一つ目が「生理学」、これは生きている脳の中でなにが起こっているのかを見ることです。観察が中心で、針のような細い小さな電極などを使って脳の中の電気シグナルを測定する方法です。脳波の測定などもこれらに含まれます。なにかを見たり聞いたりした時にどんな反応が起こるかを調べます。
二つ目は「生化学」、これは文字どおり「化学的な反応が生き物の中でどんなふうに起こっているのか」を見ます。例えば分子がどうなっているのかもそうですし、神経では「神経伝達」という現象が起こっていますので、神経伝達物質がどのように分泌されたり受け取られたりしているのか、「情報の受け渡しの実態」を分子的に知りたいというのが生化学です。
生きている機能や現象から生き物を理解するのが「生理学」、分子の立場から生き物を表すのが「生化学」というわけです。またこの他に「解剖学」も重要です。解剖学は、形や構造から生き物を推測していくことです。神経細胞の形や細胞間の繋がりを見ることで様々なことがわかります。実際の研究ではこの
三つは切り離すことができません。
また生化学から派生した「分子生物学」というものもあります。遺伝子の中にあるメッセンジャーRNAという物質がタンパク質になって細胞で働くわけですが、それがどんな時に変化するのかなどを調べていくのが分子生物学です。我々は、生化学・分子生物学分野の教室にいますので、それがメインの武器ではありますが、生理学や解剖学の知識や技術も取り入れて研究を進めています。必要な時に必要な手法を使って研究していくというスタイルですね。
Q:世界的に見て、各国ごとに盛んな研究はあるのでしょうか。
もちろんその国ごとの強みはありますが、昨今の記憶研究においてはアメリカが非常に進んでいる感じはします。それを他の国が追いかけているような状態ですね。脳は大脳や小脳など様々な部分に分かれていますが、例えば大脳が大事だということはもうだいぶ前からわかっていることです。大脳の中でも「視覚野」とか「聴覚野」など、場所によって機能が違うこともわかっています。
記憶については「海馬」などが大事だといわれており、これはみなさんもお聞きになったことがあるかもしれません。一方で最近の流れでは、海馬の全てが大事なのではないことがわかってきています。海馬の中の細胞には様々な種類がありますが、それらが全て同じ働きをしているわけではなく、ある時にはこれとこれ、というように細胞が別々に働いています。そしてその中のほんの数パーセントほどの細胞が、記憶に深く関わっているのです。
我々の研究では記憶と遺伝子の関係について調べています。安静にしているときには発現していない、すなわち機能していないのですが、学習したり、記憶をしなければならない際に神経細胞で発現するような遺伝子があることがわかってきました。逆にいいますと、ある遺伝子が働いている神経細胞は記憶にとても重要な働きをしていることになります。そのようなメカニズムを明らかにする研究をこの20年くらいずっと続けてきました。
私たちの研究ではありませんが、最近、アメリカの研究室が非常に面白い研究成果を発表しています。記憶をつくる際にある遺伝子が働いた細胞だけを、オプトジェネティクスという光を使った方法で人工的に興奮させると、強制的に記憶を思い出させることができるのです。例えばある場所について「ここに行ったら嫌なことがあったな」とネズミが記憶する時には、海馬ではいくつかの細胞が働き、ある特定の遺伝子を出します。この遺伝子を発現した細胞に遺伝子操作を施して、後日、光を当てて興奮させると、光を当てた時だけ “嫌な経験”をネズミに思い起こさせることができたのです。
要は「どんな場所にいても、嫌な場所にいる時のような気分にさせられる」というわけです。我々は神経細胞が活動した時に出てくる遺伝子について長年研究してきたわけですが、それが記憶について非常に大切な分子だということわかり、最近になって私たちの研究が改めて注目されるようになってきました。
現在、日本では小型サルの「マーモセット」を使った脳の研究が盛んです。私自身も昔サルを対象とした研究をしていたので、そのメリットもデメリットもわかります。サルはできることが多く、複雑な課題もできるため、記憶の研究にも適しているといえます。
一方で、マーモセットなどのサルではマウスなどの従来の実験動物に比べて脳の構造などでわかっていることが少ないという点があります。また、ゲノム情報に関してはヒトやマウスではすでに全ての染色体を読むことができていますが、サルはまだ完全には解読されていません。ヒトとネズミでは全ての遺伝子についてすでに対応関係がよくわかっていますので、マウスでわかる遺伝子の機能はある程度ヒトにも適用できると考えます。
現時点では私たちはサルの研究を行う予定はありませんが、今後、研究対象とする必要がでてくるかもしれませんね。
生化学・分子生物学をベースに、生理学や解剖学の知見を組み合わせる
Q:今後の研究の課題と感じていらっしゃることはありますか。
記憶研究に限りませんが、研究はやればやるだけわかることが多いという部分があります。物量勝負というか、脳の研究全体としてはアメリカやヨーロッパ、そして日本でも、まだ未解明の部分が多い「力を入れて研究していくべき臓器」として大きな研究予算がついた大型のプロジェクトが進んでいます。
たとえば、生理学的、生化学的、解剖学的という三つの柱がある中で、まずは脳の構造がわからなければなりません。脳にどのくらいの数の細胞があって、それがどう繋がっているのか、あるいは情報がどのように流れるのかを各国が調べようとしています。細胞を細かく分けて顕微鏡で見ていくわけですから、この部分はまさに物量勝負であるといえます。
この面で日本が真っ向から突っ込んでいくのは難しいので、もともと日本が強みとしているサル研究のプロジェクトが進められています。ただ、サルに限らず生き物を使うわけですから、いくらでも研究に使っていいというわけではありません。難しいのは、コンピューターを用いたシミュレーションではなく動物や人間を使わなければ記憶の研究をするのが難しいという部分ですね。がんや免疫の研究などであれば細胞一つでわかることがたくさんあります。もちろん、神経細胞でも培養皿で育てて観察することはできます。しかし、いくら神経細胞を調べても、記憶がどうなっているかということはわからないわけです。やはり、動物個体を使わなければならない、という部分が倫理的に難しいところだといえますね。
また、知りたいことに近づけば近づくほど、研究対象は動物から人間に近づいていきます。人間を使う実験は倫理審査も厳しくなかなかできることではありません。アメリカなどでは手術中の患者さんに対して、もちろん事前に同意を得たうえで、臨床的な実験が行われることもあります。
先ほどお話しした、光を当てて強制的に細胞を活動させる方法、「オプトジェネティクス」、「光遺伝学」とも言いますが、これは最近の脳研究ではとてもよく使われるようになってきました。この方法はアメリカの研究グループが開発したものとして知られますが、実は日本の研究グループも同時期に開発に成功していますし、その後の発展にもかなり貢献しています。この方法を使うと、動物レベルでは「偽の記憶」を植えつけたり、思い出す必要のないことを強制的に思い出させることもできてしまいます。さらには「嫌な記憶を消す」こともできるようになるかもしれませんし、PTSDなどの治療に使うこともできるかもしれません。
現在はまだ人間に対してこのような記憶操作はできませんが、SF映画のように、偽の記憶を植え付けることが不可能ではない時代がすぐそこまでやってきているのです。
このように科学技術の進歩でできることが多くなると、ここは人為的にしっかりとどこまではよくて、どこからがダメなのか、動物なら許されるのかなどの規範を、科学者・研究者自身が守っていかなければならないと感じています。この部分をきちんとしていかなければ、悪いことにも繋がってしまうかもしれません。
臓器であれば移植したことは見ればわかりますけれども、記憶というものは形がありませんので、“記憶を移植しました”といわれても実体を示すことは困難です。記憶研究においても将来的な問題点としては、倫理的な面での整備が必要だと思います。
Q:この研究分野にはどんな学生が向いていると思いますか?
私は今年の4月に鹿児島大学に赴任したばかりで、まだ教室には大学院生がおりません。ただ、研究に興味を持ってくれた医学部の学生が時々出入りするようになりました。研究を進めていくには若い力が必要ですので、是非、大学院生や学部学生の方々に教室見学に来てほしいと思っています。私達の研究は認知症や精神疾患の治療などにも繋がる分野ですので、やりがいはあると思います。
この研究分野は、わかっていないこともたくさんありますが、勉強になる部分も多いと思います。「生理学」や「解剖学」は非常に古くからあるものですし、「生化学」も100年以上の歴史があるものです。しかし、その三つが全部合わさって脳科学にアタックするようになってきたのは、この数十年くらいの話です。
かつては、動いている動物の頭の中を覗くことは技術的に難しいこととされていました。しかし、今では非常に小さな顕微鏡が開発され、マウスなどで「ここが好き」「ここは怖い」などというような、生きている動物の脳の動きをリアルタイムで観察できるようになってきています。装置の開発は工学部の専門範囲ですね。また動物の行動は心理学の専門範囲でもあるため、脳科学には大勢の動物心理学の人なども参入しています。
学生の方々に限らず、「脳科学は難しい」と思われている方は多いようです。もちろんそれは間違いではありませんが、今お話ししたように脳科学の研究は様々な分野の人が参入して進んでいる分野です。一線で脳研究をしている人でさえ、すべてをわかっている人はほんのごく一部です。ですので、脳の分野に興味はあるけれどちょっと難しそうと思っている人、もしくは同じ生物の分野にいるけれど扱っているものが違うから心配という人も、怖がらずに脳研究に入ってきてもらえたらなと思っています。
Q:企業との共同研究などは進めていますか?
現在、いくつかの企業との共同研究を進めようとしています。 また、私はこれまでの5年間、京都大学のメディカルイノベーションセンターのSKプロジェクトというところで研究を行っていました。これは産学連携プロジェクトとして、京都大学とシオノギ製薬が対等に組んで創薬医学研究を進めてきたもので、主に認知症の新しい薬になるタネを探索しましょうという取り組みでした。
まず一つ、このような産学連携の共同プロジェクトに参画させてもらい非常に良い経験ができたと思っています。この5年間では大学側としても企業側としても、ここが少し足りないなと感じる部分もたくさんあったことと思います。しかし、製薬会社の方々の”疾患で苦しむ人たちのために良く効く新薬を作りたい“という熱意は私にもよく響き、自分の研究でできる限り貢献したいという思いを持ちました。産学連携プロジェクトはいくつかの大学で試験的に行なわれていると思いますが、今後それをもっと広げていってほしいと思います。
産学連携の場があることだけでもかなりありがたいことですが、さらに製薬会社も含めた企業に期待することがあります。私も含めて多くの大学の研究者は日本の脳科学の将来に危機感を持っています。これはまず、若い方が研究室に入ってきても、例えば学位を取得した後、安定して研究を続けて生活をすることが難しいということがあります。学生さんたちに対して研究室にどんどん来てくださいというのは本心ですが、一緒に研究をしてくれる人たちを本当に将来的にハッピーにできるのかという点が悩むところでもあります。
研究は仕事だとしても、「楽しい」という情熱がなければ続けていくのは難しい職業だと思います。とはいっても生活ができなければ、楽しいなんていっていられないわけです。そのためには、生活していけるような収入が得られる環境が必要です。そのためにはまず、企業と大学とがきっちり分かれている今の構造ではなく、もう少し人材的な交流もしていけたらなと思いますね。
日本では大学のポスドクから企業に就職するという人はいますが、その逆はほとんどありません。例えば、企業で働いている研究員の方がしばらく大学でポスドクを行うとか、助教や准教授として採用される、などの人的流れがあまりないわけです。そういった自由さがまだ足りていない感じがします。
研究所長などの実績を積まれた企業の方が大学の教授として採用されるとか、逆に大学の教授が定年退職されて企業の顧問になるという例はあると思いますが、それよりも前の段階での人的交流ということですね。日本の脳科学の発展を考えると、将来的に企業と大学がうまく連携・融合して相互的な人材の流れが生まれればいいなと思います。
Q:最後に、今後の目標を教えてください。
私たちは記憶をするときに細胞や遺伝子レベルでどのようなことが起こるかを研究しています。分子的な変化も今ではだいぶわかってきていて、例えば記憶の形成に伴って発現が変化するような遺伝子は数百種類くらいあると考えています。
今後はこのように記憶形成とともに発現される遺伝子がそれぞれどんな機能をもつのか、それらの間でどのような相互作用があるのかなどを調べていきたいと考えています。また、脳の中の記憶の神経回路を探索することももちろん大事なのですが、その回路中で分子や遺伝子がどのように動くのかということを、今後明らかにしていきたいと思っています。(了)
奥野 浩行
おくの・ひろゆき
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科生体機能制御学講座 生化学・分子生物学分野 教授。
1990年、東京大学理学部・生物化学学科卒業。1992年、東京大学大学院理学系研究科・生物化学専攻修士課程修了。1995年、東京大学大学院医学系研究科・第一基礎医学専攻博士課程単位取得後退学。2000年に博士(医学)取得。
1995年より、東京大学医学部第一生理学教室(統合生理学教室)助手を務め、2000年から3年間は、ジョンズ・ホプキンス大学医学部神経科学講座ポスドク研究員となる。
その後、2003年から東京大学大学院医学系研究科神経生化学分野で助手、助教、講師をつとめたのち、2013年から京都大学大学院医学研究科メディカルイノベーションセンターSKプロジェクト特定准教授(グループリーダー)となる。2018年より現職。