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線虫の行動ルールの解明から、脳の仕組みを解き明かす〜飯野雄一・東京大学大学院理学系研究科教授

2018年8月7日 by Top Researchers

人間の脳を知るためには、脳を構成している細胞を研究することが必要である。しかしながら、脳全体の細胞の数は膨大なものになり、全体を一度に研究することは現実的に難しい。そこで必要になるのが、人間よりも細胞の数がすくない実験動物の観察である。
今回取材に伺った東京大学理学系研究科 生物科学専攻/生物化学科の飯野雄一教授が注目したのが、線虫である。
線虫は神経細胞の数が全部で302個しかなく、それらが作る神経回路の構造が完全にわかっており、実験に適しているとされている。
今回は飯野教授に、線虫研究の概要とそれがもたらす可能性について伺った。

研究しやすい線虫を対象に、全体理解を図る

Q:まずは、研究の概要についてお聞かせください。

一般的に、私たちの脳がどう働いているか、どのように物事を考えているか、そもそも自分とは何かなど様々な問題を解決するために、いろいろな方法があると思います。

人の脳の活動を観測する方法にはMRIなどがありますが、最近ではネズミやサルなど哺乳動物を使った研究も盛んに行なわれています。「全体的に見て脳のこの辺りが働いている」、ということや、一部分だけを見た時の局所的な関係性も解析されてきています。

一方、人の身体も脳もすべて細胞でできていて、「細胞は回路をつくって繋がりあっている」と教科書には書いてあります。しかもたくさんの神経から一つの神経に入力がきて、その一つがまたたくさんの神経に情報を送っています。「脳のこの辺りが活動している」ということは、活動の大まかな流れであって、その中を見てみると活動している細胞がある一方で、活動していない細胞もあるわけです。コンピューターで例えるなら「どんな計算原理で、素子と素子の間ではどんな情報を送り合っていて、どんなプログラムに従って動いているか」を最終的に知りたいわけです。

このような細胞レベルの解析も今ではすごく進んできています。しかし現時点では、電子顕微鏡などを使って、100ミクロン四方ほどのものを1年以上かけて調べています。このような脳のごく一部を見ただけでも1000個近い細胞がありますから、細胞レベルで理解したいと考えると、どうしても小さい生き物で研究をしたほうが有利ということになるのです。

そのため、人間よりも、まずは小さな生き物から研究していこうというのが我々の研究室の立場です。
そこで出てくるのが、線虫です。線虫にはおよそ300個の神経しかありません。その300の神経の間には、6000ほどの繋がりがあるとわかっています。300ほどの細胞であってもその全ての繋がりを考えるとかなり複雑ですから、そこに流れている情報はそう簡単にわかることではありません。筋肉に繋がっている神経細胞もあれば、匂いや温度、酸素や光を感じる神経など様々なものがあります。

もちろん人間のほうがさらに複雑で、線虫はそれを簡単にしたものともいえます。しかし意外なことに、線虫もいろいろなことができるのです。最近の研究であれば、三次元的に探し回って進んでいくことや、学習をすることなどがわかっています。また二つの情報を連合して行動を決めたり、行動のパターンもただ前に進んだり後ろに進んだりしているだけではなくて、身体の形を変えながら方向を変えるということもできます。

線虫は神経系だけに限らず、「一つの生き物を、すべて完璧に理解しよう」という目的のもとで研究がされている生き物であると言えます。私たちの研究室では、行動がどう達成されているか、それがどのように変わっていくかを研究しています。これはある意味「上から見たこと」でもありますね。

Q:研究にいたるまでの経緯についてお聞かせください。

私がもともと研究していたのが、バクテリオファージでした。バクテリオファージとは大腸菌に感染するとても小さなウイルスのことですが、それに卒業研究として取り組んでいたのです。

続いて研究したのが、酵母です。細胞分裂や減数分裂の仕組みについて調べていましたね。
どんな研究でもそうですが、仕組みを調べていくとわからないことはたくさんあります。特に、神経は当時未知の領域と言われていたこともあって、神経の研究をしたいと思うようになりました。

その後、大学院が終わってから、アメフラシという生き物の研究をしていたエリック=キャンデルのもとで研究しました。2000年にノーベル賞を取った人ですが、僕がポスドクから帰ってきた頃、彼が還暦くらいだったと思います。
アメフラシには学習能力があります。また、アメフラシは細胞の一つ一つが大きく、生化学的な研究がしやすい生き物です。

酵母の研究をしていた時の醍醐味は、遺伝学ができるという部分でした。神経の遺伝学はアメフラシではできません。ですから、当時線虫では神経系の研究で遺伝学ができて、全ての神経の回路がわかっていたということが魅力で、それを解明しようと酵母の研究室の片隅で線虫の研究を始めました。

Q:酵母の研究から線虫の研究に切り替わったきっかけは何でしょうか?

独立した時がきっかけですね。
線虫が学習するかどうか、僕についていた学生が研究してくれていたのですが、その結果、すごく綺麗に出る学習の形を見つけてくれました。神経の回路がわかっていることなど、線虫のメリットはたくさんありますが、ひとつのメリットがミュータントが取れるということでした。

そもそも研究では、学習できないミュータントを探していきます。「学習」というと難しくなってしまいますが、人間なら痴呆などは加齢によって生じるものですから、最初から学習できないというと、精神的な障害にあたります。ネズミなどでも学習できないミュータントをとることは非常に難しく、なぜかというと学習の能力は外から見てすぐにわかるものではないからです。ショウジョウバエなどではミュータントは昔からいろいろ見つけられていますが、それを探す場合には、一匹ずつ学習のテストをして、学習ができないものを取ってくるということをしています。これが線虫の場合だと、すごくやりやすいわけです。

当研究室で最近よくやっているのは、塩とエサがある場所に線虫を置くという実験です。一般的には砂糖は生命に関わってくるものともいえますが、特に線虫の場合、塩というものはほとんど意味がありません。

しかし塩がある場所にエサ(バクテリア)があったのを経験させると、「今周りには塩が好きなバクテリアが生えているらしい」と思うわけです。そうすると、塩があるところに行けばエサがあると考えるようになるわけです。そこで、線虫は塩があるところに近づいていくようになるのです。

逆に塩がないところでバクテリアを一緒にしておくと、塩がないところに近づいていきます。また、エサを置かずに塩だけを置いておくと、今度は塩のない場所を探すようになります。「塩の近くに行っても意味がない」と学習するのです。

昔から考えられていたのは、「線虫は塩が好きだ」ということ。これは教科書にも書かれていました。普通に飼っていたつもりの線虫を、塩が乗っているプレートに置くとそこに寄っていく、という説明です。それが先ほどお話ししたようなエサなしのテストをしてみると、逃げるようになったのです。「これはまさに、学習ではないか」ということで、ミュータントをとることによって、その仕組みを調べるようになったのです。薬剤で処理をすると突然変異が入ります。そうすると、ほとんどが塩から逃げていく中で逆に近づいてくるものもいます。そういうものを取ってくればミュータントが取れてきます。そう簡単にはいきませんが、これが基本的な考え方であると言えます。

研究を進めると、様々な遺伝子に変異が入っているものがたくさん取れてきます。教科書や過去の研究で「こんなタンパク質が学習に働いていますよ」と書いてあったりしますが、それ以外のもの、私たちが知らない遺伝子に変異がたまたま入って学習ができなくなった線虫がいた場合には、調べていけば新しいことが見つかることになります。

こういった方法が遺伝学の醍醐味の一つでもあります。理詰めというかストラテジーがはっきりしていて、そういったやり方をすれば新しい遺伝子、大事な遺伝子がわかるというのは、遺伝学の長い歴史の中で何度も我々が経験してきたことです。それを神経系とか行動に適用できたのがこの線虫という生き物だったというわけです。

さて、そうしていくうちに、研究室の人たちが色々調べていき、「塩がある時にエサがないと近寄らなくなる」ことを見つけましたが、実際は塩がないこともシグナルになっていると発見して、最終的には塩の濃度まで覚えていることまでわかってきました。その濃度のところまで、わざわざ行くわけです。記憶したものより高い濃度のところにいた線虫はより薄い方へ向かいますし、低い濃度の場所にいたものはより高い方へ進みます。ですから、本当に様々なことができるわけです。

そこで疑問なのは、「濃度をどのように記憶しているか」ということです。他の生物を使った行動の研究でよくあるのは、何か音がした時に、それと同時に電気ショックを与えるという経験をさせると、次第に、音が鳴ると恐怖反応を示すようになるということです。こういったことは、基本的には神経と神経の結合であるシナプスが、切れたり繋がったりすることで全て説明されているのですね。しかし、どのくらいの塩梅がちょうどいいかということについて、神経がどのように判断しているかはすごく大きな問題です。

ヒトもネズミもそうですが、高い音や低い音を聞き分けることができます。音に対応する神経が耳の中に並んでいるからです。いっぽう線虫は、塩を一つの神経で感じています。それならば、それをどのような分子が行なっているかなどを知るために、ミュータントを探したり関係しているものを調べたりしています。20年ほどこのような研究をしています。

Q:線虫の研究は、世界各国でも盛んなのでしょうか。

線虫の神経の研究は世界中で行なわれています。
私たちは行動まで見ていますので、例えば行動のパターンをコンピュータービジョンで見ていって、記録していきます。線虫はあちらこちらと様々な方向に進んで行くものの、最終的には目的の場所にきちんと辿りつきます。

線虫が何を考えているかまではわかりませんが、入力から出力までの計算や制御に不正確な部分がたくさんあるせいで、一直線にたどり着けないということが一つ考えられます。

もう一つは生物の適応戦略の中で、ある程度ランダムに動き回るほうが、多くの場合に有利であるという説があります。間違えることで正解に繋がる、ということですね。これは比較的多いと思います。線虫はわざとランダム性を作り出すような動きになっているという可能性もあるのではないかということです。

線虫は人間のように眼球があるわけではないですし、光は感じるものの「物を見る」ということはできません。塩の濃度や匂いを感じるという部分を人間に置き換えるなら、「目をつぶって、匂いだけを頼りにしてカレーを探すようなもの」というわけです。そう考えると、目をつぶっているわけですから、カレーまで一直線でたどり着くのは難しいことです。ですから線虫も探りながら進んでいることになります。

また、神経の活動を測定する研究も行なっています。神経の研究には、一般的に二つの方法があります。一つは電極を挿して電気的に測る方法です。もう一つ最近盛んになっているのは、カルシウムイメージングという、神経が活動すると光を発するようなものを使って測定するものです。

線虫は小さいため、主にこのカルシウムイメージングが使われています。線虫が塩の濃度を感じる時には、カルシウムでもほとんど見えないくらいのレベルの差を感じながら少しずつ正しい方向に進んでいることになります。

人間とカレーで例えるなら、カレーの匂いが急に濃くなれば「カレーに近づいている」とわかりますが、匂いの濃さにほとんど違いがない時にはそれを認識することは難しいわけです。線虫は検出が難しいものをギリギリのレベルで検出しつつ、濃度などの変化も認識しながら対象の場所やものに向かって進んでいるわけです。
このような線虫の行動についてのしくみが、世界中で見つかってきています。

個体ごとの「全細胞観察」を試みる

Q:今後の研究課題として、どんなことを解明していこうとお考えでしょうか?

全神経細胞の活動測定ですね。神経回路がどのようにして情報処理をしているかを知るためにミュータントを取っていくと遺伝子がわかるので、次にその遺伝子がどの神経で働いているかを調べる方法が遺伝学の標準的な方法です。神経回路の上で、「この神経でこれが働いて、この神経でこれが働いたら、行動を変化させる」ということがわかるわけです。そうすると、神経回路の中でその神経がどのように働いて情報が伝わっているのかを調べるために、一つずつの神経の活動を見て、どういう時に活動しているかに着目するわけです。

例えば方向転換をするときにどこが活動しているか、匂いを感じたときにはどこが活動しているか、などを調べていく研究を行ってきました。これが、私たちや世界中で行なわれてきた研究です。一方、線虫の細胞は全部見ても300個ほどですから、それらのうち大多数の活動をすべて見るべく、同時にすべて測定しましょうという研究を5年ほど前からやりはじめています。

全部測定するといっても、実際は顕微鏡で見ることになります。しかし顕微鏡ではピントが合っている部分しか見ることができません。上下にピントを動かしながら見るというシステムで、観察していきます。神経の活動は刻々と変化していきますから、できるだけ早く観測を進めていきます。

これを行うために、九州大の石原健先生と共同研究をずっと続けてきています。画像としての情報量がかなり多く、早く画像を取得するのでノイズもかなり入ってしまいます。

全身に散らばる300個すべての細胞を観測することは難しいため、頭の付近にある200個ぐらいを拡大して見ています。たくさんの神経同士が網目状に繋がっているため、その神経同士の因果関係を抽出するのが難しいですね。神経の回路からどのようにして情報を引き出すかについて研究しています。これには個体差があり、特に活動のパターンは個体によって様々です。また神経の並び順を書いたマップがありますが、それもあくまで一個体の例であってそれぞれの個体では結構入れ替わりがあります。たくさんの個体を取って、データベース化してコンピューターに機械学習をさせたりしています。

Q:研究室には、どんな学生がいらっしゃいますか?

研究室には4年生から配属になります。最近きた学生には「ある程度の時間をかけて取り組まなければ、結果は出ない」と伝えています。最近の学生さんは「打ち込む」ということをしない人が多くなってきている気がします。ちょっと失敗しただけでもう嫌だというような人が増えてますね。研究に多少の失敗はつきものですので、ある程度は根気を持って続けていかなければ、面白さや良い結果には繋がらないと思います。

理学部ですので、ドクターまでいかなければなかなかまとまった研究ができないので、研究をしっかりして研究者になりましょうと言い続けてきましたが、最近は研究者になることが難しいと思う人が多いようで、ドクターに進む人も減ってきています。

大学院にはほとんどの人が進学していますね。最近は神経の活動をたくさん取ったり行動解析などをしているので、数理やバイオインフォマティクスなどの工学に近い感じの学生さんに来てもらえると嬉しいですね。最近の傾向として数理的な生物学の必要性が増してきています。

Q:共同研究ができそうなアイデアなどはありますでしょうか。

一つのアイデアレベルの話ですが、私たちが塩味を感じる時というのは、ナトリウムイオンを感知しています。一方、線虫はナトリウムも塩化物イオンも別々に感じることができます。多くのイオンのセンサーを持っているのです。

しかし、このように多くのイオンに対する受容体をもつ生き物は他にはありません。珍しい生き物ですから、そのセンサーが何かに使えるのではないかと考えています。
こんなことに使えそうだという、だいたいの予想はできていますが最終的な特定には至っていないので、まずはうちの研究室でくわしく調べていきたいですね。(了)

飯野 雄一

いいの・ゆういち

東京大学大学院 理学系研究科 教授。

1987年に日本学術振興会特別研究員。1988年より2年間、コロンビア大学 博士研究員を経て、1990年東京大学理学部生物化学科助手となる。1993年より東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻講師、1998年より東京大学遺伝子実験施設助教授を経て、2007年8月より現職。

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