エネルギー問題への関心が年々高まるなか、限られた天然資源を有効利用する技術が求められている。そんななか、「触媒」をキーワードに、水や二酸化炭素、あるいはメタンなど、豊富で環境負荷の低い「非在来型天然資源」を利活用するための材料・技術の開発に取り組んでいるのが、物質・材料研究機構の阿部英樹・主任研究員だ。「全く新しい触媒の組み合わせは、意図的な偶然によって発見される」と語る阿部氏に、触媒の基本的な役割、独自の研究手法について伺った。
効率的なエネルギー運搬のために必要な「触媒」を研究
Q:まずは、研究の概要についてお聞かせください。
「触媒」について研究をしています。触媒というものを広い意味でまとめると、「分子エネルギー変換材料」といえます。分子をいじる、分子の結合を組み換えたり、切ったり貼ったりを、その不必要な外部からのエネルギーの供与を経ずに、最もスムーズで賢い形で行なう、その過程で生まれるエネルギーの出入りをも操ってやるという技術領域というわけです。
私たちが日頃の生活で扱っているガソリンやディーゼルオイルなどは、少し硬い言い方をするなら「付加価値」が付いているものです。
天然ガスはそもそも、kgあたりで考えても非常に安いものですが、社会に出るときにはその分子を組み換え、少しでも価値を高いものに変えられているわけです。そのときに重要な位置を占めるのが、これからお話ししようとしている「触媒」というものです。
例えば、天然ガスを何か入れ物に入れて蓋をしたまま放っておくだけでは何もできません。たかだか圧力をかけると縮んで、緩めると伸びるくらいです。しかしガスというものは、私たちのような化学の分野側から見ると決して「ガス」という一言ではくくれないような内部の仕組みを持っています。簡単に言うなら「とても小さい原子と原子がくっついている、ミツバチかハエみたいなものの集合体」といったものです。
先ほど「天然ガスは安い」とお話ししたのでちょっと矛盾しているように感じるかもしれませんが、天然ガス自体は本当に安いものです。実際、サウジアラビアなどでは捨てているようなものです。では何が高いのかというと、ガスを運ぶための輸送費です。輸送においては、小さいミツバチのようなものを大きな袋に入れて持ち運ぶということを、私たちの言葉では「エネルギー密度が低い」といいます。一匹一匹の中にエネルギーが仕込まれてはいますが、ぶんぶん飛び回っているわけです。それらを集めて、ぐっと押しこめて液体や個体の状態(液化天然ガス)にすれば、kgいくらという売り方もできるわけです。
しかし、これはなかなか大変なことです。まず潰すのにエネルギーが必要ですし、潰したものを安全な鉄の缶に入れてトレーラーで運ぶのにもエネルギーが必要です。これをさらにタンカーに積み込んで運ぶとなると、結局は末端価格で十倍以上になります。米国ではkgあたり1~2円で使っているものが、こちらでは10~20円になってくるわけですが、その理由はほぼ輸送費というわけです。一体どこにお金をかけているのかわからない状態ですね。
しかし、少なくとも日本に鉱物資源はほとんどないといわれていますが、必ずしもそうではありません。日本海溝にはメタンハイドレートという鉱物資源がたくさん沈んでいます。海の底に眠っているお宝を掘ることは、将来的にも意味があるといえます。日本は狭い国だと思われがちですが、海も含めて考えると相当広い国です。ですから、底に眠っている鉱床マインズを利用していくにあたって、一番希望を持てるものはメタンハイドレートではないかと考えています。眠っている資源を利用するという観点からもそうですし、目の前に迫っている挑戦という意味でも、非合理ともいえる天然ガスの買い付けに対してただ燃やすことはもうやめたほうがいいと考えています。
ではどうすればいいかというと、買ってくる前の天然ガスを、ガソリンやディーゼルなどに変えてしまえばいいのです。例えば米国やサウジアラビアなどに日本の技術や材料を直接持ち込んで、天然ガスを付加価値の高い形態に変えてしまうのです。
ただし、単に潰すだけでは分子の形が変わっておらず「無理やり狭いところに閉じ込められているだけ」です。そのため、蓋を開ければ出ていってしまいます。
そこで、外に出ていかないよう、分子と分子のお互いの組み方を、長いひとつの列に変えてしまうのです。ミツバチのようなもののお互いの頭と尻尾を噛み合わせて、ムカデのようにしてしまうのですね。ムカデは地面を這いずるものですから、それをある箱の中に詰めておくことは比較的簡単なことです。
これを私たちの言葉で「エネルギー密度が高い」という言い方をしますが、ミツバチがブンブン飛ぶのをおさえるように、こちらがコントロールできない(熱運動と呼ばれる)、動きが少ない形態にしてしまうのです。これを「分子変化」といいます。分子の形、つまり化学結合を切り替えてやるということですね。
分子変化を起こすには、無理やりに外から、熱や光、電気というようなエネルギーを投入してあげる力技の方法も確かにあります。
例えば、メタンと酸素を入れて潰してやればポカンと火がついて、アルコールと二酸化炭素化ができるわけです。これももちろんひとつの方法ですが、そもそもそのような分子変化(メタンから別のものに分子が変わったわけですが)をしたことで、もう一つ大事な点であるエネルギーの出入りがあるわけです。
外から何かを入れてあげると、それに伴って何かが起きます。入れてあげるインプットと、出てくるアウトプットのバランスがうまくとれていればとれているだけ、好ましい分子変換だということになります。
さて、水が高いところから低いところに流れていくように、物事にはより低い方があります。安定化という言葉もありますが、そこに行くには必ず何かしらの「通りたくない山」を越えなければなりません。いくら温めたり潰したりしても何も起きないものが、一時的に非常に不安定な状況を経過してパンと落ちると、その差で物事は前に進みます。これは一般原理だと思います。
面白いのは、最初の状態と最後の状態の差が大きければ大きいほど、超えなければならないバリアも高いという経験則があることです。水とアルコールを混ぜると、それはそれで安定になりますが、この時に超えなければならない山というものはほとんどありません。いっぽう、ナトリウムと塩素をくっつけると、不安定化して爆発的熱が出て、塩になります。こうなるともう金輪際ナトリウムと塩素は別れずに、元々ナトリウムも塩素も猛毒なんですけども、毒性はゼロになるわけです。
大事なのはこの「山の高さ」を変えられるのか、という話です。水が高いところから低いところに流れていくように、山がないのであればこんなに楽な話はないわけですが、実際は必ずといっていいほど山があります。メタンの組み換えもそうですが、面白いといわれる反応のほとんどは極めて進みにくいといえます。
そこで、この山の高さを下げる力を持っているものが必要になります。それが触媒です。少し話が逸れますが、西洋の人たちは男と女の出会いや婚姻のことをケミストリーといったりします。お互いに同じものを持っていない雄と雌がくっつく時には面白からぬことが起こりがちですが、一度噛み合ってしまえば非常に安定したカップルになるという意味があるのです。例えるなら、触媒は仲人さんにあたります。男女を連れてきて同じ部屋に入れて、しばらくすれば自然に仲良くなる場合もあるかもしれませんよね。しかしそうでないカップルもいるわけです。そこに一人やり手の仲人さんを入れれば、なぜか男女が上手くいくといった感じですね。
仲介者を英語でメディエーターといいますが、メディエーティングマテリアル=仲介する材料が触媒と呼ばれる材料です。触媒と一言で言っても、大きなものから小さなものまで様々な触媒があります。くっつけたい相手が大きい場合もありますし、小さい場合もあります。私たちの場合は先ほどミツバチに例えたメタンなどを扱っていますが、メタンはこの世にあるものとしては最も小さい部類に属するといわれているものです。炭素1つと水素4つという5つの原子でできている、とても小さいものです。
一方でプラスチックも分子ですし、もっというなら私たち人間も分子です。つまり原子がくっついてできているものは全て分子なのです。その中でも、原子と原子がくっついて伸びてかたまりになっているプラスチックや鉄の塊などの分子の場合には、組み換えをする触媒はとても小さいものになります。
私たちの身体を作っているのは主にプロテイン、タンパク質です。それを組み換えるのは、DNA の指令に従って酵素と呼ばれる触媒が身体の中で働いていて、そしてあの長い鎖を切ったりまたつないだりして私たちの身体を日々新しくアップデートしてくれています。
一方で私たちが扱っているものは逆に、大きな分子に対しては表面を持っていて、そこに分子が落っこちてきて仲介されて出ていくというような感じです。
だいたいは大きな触媒で小さなものをいじるか、小さい触媒で大きなものをいじるかに分かれますが、私たちが主に扱っているのは小さな分子を伸ばしてあげたり、組み換えてあげたり、外から与えられるエネルギーをとにかく下げてあげるわけです。
もっというなら、ちょっとずるいことも考えています。二つ(またはそれ以上)の分子の組み換えに伴って、エネルギーが出てくる場合もあります。このエネルギーをいただいて、面白いことができないかと考えていたりもします。例えば燃料電池というものがありますが、これはこの二つの分子の組み換えを行なう際に出てくる電気のエネルギーを使って、パソコンや車など外部のものを動かす仕組みです。またこれとは逆の方法なら、エネルギーのかたまりである太陽の光を分子の組み換えの中に滑り込ませてあげると、太陽の光の入れ物のようになります。
光は非常に質のいいエネルギーですが、残念なことに貯めておくことができません。これほど摑みどころのないエネルギーはないといってもいいくらいです。光エネルギーの貯蓄という意味では、究極の技術ともいえます。私たちのやり方はもっと機械的で、生きているものに頼るのではなく、入ってきた光をある触媒反応を介して分子の中に封じ込めてしまうというものです。その封じ込めたエネルギーを、今度は組み換えの時に電気として取り出してあげれば、光を電気に変えるというパスを分子の形を介して行なうことができるのです。
Q:実際の研究体制はどのようになっていますか。
アシスタント1人と、それとその周りに各国から集めた学生、またポスドクの人を周囲に雇って今はプロジェクトを続けています。
JST CRESTというのが私たちの一番大きなサポーターです。JSTは一番大きな支出先ですけれども、例えば異なった企業からの献金といいますか、共同研究のための基金、あとは化学技術振興機構のいくつかのファンドをもらって、それを原資にして、研究をしてくださる方々の生活費などを捻出しています。
その余剰費で、装置のアップデートや必要な試薬の購入なども行なっています。あとは研究所へのタックスもありますね。ですから、もちろん自分自身の給料は研究所を介して税金から頂いていますけれども、プロジェクトオンリーでいうなら完全に独立でやっているといえます。
今回はこのJST CRESTでのチャレンジが大きいのと、あとは何よりも投資額が大きいこともあって、幾つかのプロジェクトを統合して今はほぼ高効率メタン転換のところに資本を投下するようにはしています。もちろんいくつか別に同時進行で走っているプロジェクトもあります。
あえて発見論法をとることで、新たな発見を生み出す
Q:さまざまな組み合わせを見つけるために、どのような研究手法を採っていますか?
研究の手法については、行き当たりばったりといえる部分もあるかもしれません。
周期表という、元素の性質と種類をコンパクトにまとめたものがありますが、この周期表がいつも私たちの出発地点となっています。異なった元素を組み合わせて、それによって排気ガスの正常化チャレンジやメタンの転換のチャレンジ、燃料電池など様々な面白い分子エネルギー変換がありまして、そのように異なった元素の組み合わせをとにかく探していくわけです。まさに行き当たりばったりに近いのですが、とにかく探す。
例えば排気ガスについていうと、白金やロジウムなどの貴金属と呼ばれるものは、およそほとんど全ての触媒反応に対して圧倒的な機能を持っています。もし世の中、つまりこの星が貴金属でできていたら、私たちの研究はいらないかもしれません。それくらい元素としての機能性が圧倒的に高い元素群というものが存在しています。
ちょっと専門的な話になりますが、メディエーター(仲人)にどのような意味があるのかというと、例えば仲人さんがカップルの間に入り込むのはよくないですよね。これから男女が仲良くなりそうなのに、割り込んでしまっては話になりません。つまりそれは触媒ではなく、単なる邪魔者ということになります。仲人はあくまでも両者を一時的に自分に引きつけて、それぞれの持っている好ましくない部分を抑え、反対に魅力的な部分でくっつけようとするのです。
中には別れさせ屋のパターンもあったりしますが、いずれにしても自分は常に一定の距離を置かなくてはならないのです。化学の言葉でいうなら、「自分自身は安定でいなくてはならない」のです。周りの反応に巻き込まれて燃えたり違うものになってしまうのは、触媒ではありません。
安定という部分で考えると、金はすごく面白い元素です。全ての元素の中で最も安定していて、仲人さんでいうなら「ただ見ているだけ」といった感じですね。全く溶けないし全く錆びない、いわば謎の元素です。
そもそも貴金属というものは金のみに与えられた称号で、Noble METAL(ノーブルメタル)と言いますが、実はノーブルというのは悪い意味です。貴族の貴という文字は、平民たちの日々の苦しみや喜びを上から見下ろして何もしないという意味です。金をノーブルメタルというのは、誰がつけたのかはわかりませんがすごくいいネーミングだと思います。金はとにかく何もしない、金は金でしかない。
一方で鉄やニッケルなど、いわば平民元素たちは、触媒としての機能を果たす前に自分自身が反応に取り込まれてしまうことが多いです。金は安定ではあるものの、触媒にはなりえないか、なったとしても条件が限られています。最近では金が活性を持っていると大きな話題になっていますが、それくらい何もしない金属なのです。
日本語ではちょっといい加減なんですけども、西洋ではプレシャスグループメタルズという呼び方を一群の元素に与えていて、白金、ロジウム、パラジウム、この辺はバランスが素晴らしいものです。安定でありながら、効率よく巧みに異なった分子の組み換えの反応に手を突っ込むことができます。
また、面白いことに、金もプレシャスグループメタルズも地表にはほとんどありません。理由は「重すぎる」からです。密度が高すぎて、地球の真ん中に沈んでいるのですね。イリジウムなどプレシャスグループの仲間は、隕石の中に入って降ってくるものが爆発して1 ミリほどの薄い層になって地表を覆っている、それが唯一の鉱床だそうです。
レアメタルという言葉が昔ありましたが、 まさにレアメタルの代表格というのがこの貴金属群というわけです。
まとめると、圧倒的な機能を持っていると、貴金属群の持つ触媒機能を、そうではない元素の組み合わせによってだいたい取り替え、もしくはそれを超えていきたいと考えています。
それが私たちのモチベーションの一番深いとこにありまして、名づけて”元素戦略”と呼んでいます。
これが私たちの旗印、普通の言い方をするなら錬金術だと思っています。何とかして元素を組み合わせてレアメタルの機能を真似したい、越えたいという欲望があって、これを昔の人は錬金術と呼んでいましたが、僕たちが行なっているのもある意味では錬金術だと思っています。
その意味で、方法論はあるといえばあるけれども、もちろん元素にはそれぞれ性質があるわけです。そういう漠然とした経験値は、僕も含めて多くの方々が2000年くらいに残している文献がそれを語っています。
しかし、実際どの元素を何対何で組み合わせれば何が起きるかというのは、考えないほうがいいと思っています。異なった反応がいくつかあって、その中でその反応に取り込まれてしまって、また戻るなんていうことを、周期表だけから予見することは多分今のスーパーコンピューターでもおそらく不可能だと思っています。そんな簡単ではないのですね。結局は地道に真摯に、人間の手で、ある日はこれとこれを組み合わせてやってみる。次の日はまた別の組み合わせでやってみる。そしてまた次の日・・・というように、時間と体力とモチベーションの許す限りトライアンドエラーを繰り返すのみです。
行き当たりばったりの面もあるかもしれません。しかし一方で、「当たっているからしょうがないだろう」という思いもあります。
良い組み合わせを見つけるにあたっては、むしろものを知らないほうがいいときがあります。例えばここに射的の的があったとして、「的に当ててみて」というと人は的を狙いますよね。しかし人は、狙いすぎるあまり外してしまうものです。これを目隠しをして、とりあえず打ち続けていると、必ずいつかは当たるのです。
いわゆる高度教育を経て、理論をたくさん見つけた人は、おそらく的に当てることはできません。それは、狙おうとしすぎているからです。 自分も含めてですが、的を狙って当てたという経験はお恥ずかしながらありません。 その横で、通りすがりの学生さんが(たまたま)ど真ん中に的中させて去っていくというのを、私は眺めるのみでした。
もちろん、ストーリーを作ってコンピューターを回して・・・、という研究手法もあるのでしょうが、二十数年私がこの業界で生きてきた結果は、まだまだやはり発見論法のほうが勝っています。ただし、単に当てずっぽうでも、目的はしっかり決めておく必要があります。この反応に対していいものを探そうとかですね。そうなると実は行き当たりばったりと言っても、選択肢が限られてきます。
オーソドックスな方法に遵守すると、白金をとりあえず持ってきて、それに別の元素を組み合わせて白金の持っているパワーを2倍にしたという話になりがちでした。でもそれはそれで大変なんですが、ストーリーのロジックを遵守してある流れに沿っていくとどうしても似たような王道の方法になりがちです。
しかし、私たちの場合は違います。王道の流れをあえてちょっと外している部分があるのです。オーソドックスに研究していらっしゃる多くの研究者たちから見ると、私たちの考えは「その話は、一体どこから出てきたんだ」、といったインパクトがあるものです。
本当にすごいものというのは、意外に人が日々行き交う路傍に落ちているというのが事実かもしれませんね。
Q:この研究分野を志す学生に伝えたいことはありますか?
ある一つの技術を、「これから効率を10から20に上げたいからやってくれ」と言われても、やらないと思うんですよね。それは、いずれ誰か他の人がやるじゃんと思うわけです。そういう記録を競うようなレースに参加しろとは僕は言いたくはないですね。むしろそこに、新しいサイエンスコンセプトを満たす。そのために若い時間を使っていただきたいです。
例えば 「iPhoneなんて、ただの既存の技術の寄せ集め」などと後から文句を言うのは簡単ですが、それならばそれなしではいられないようにしてみたまえということです。そこにあるのはやはりユーザーと呼ばれる人々が一体何を欲しがっているか(ニーズ)をつかむ感覚です。
そして、世の中のニーズに訴える一番いいダイレクトアクセスの方法は、材料を作ることです。なぜなら元素と元素、これ以上単純化された情報はありませんから。これ以上根源的なアプローチはないはずです。
常に組み上げられたものを組みあげて組み上げて・・・というのは、いずれ誰かがやります。せっかくあなたがやったことが、過去になってしまうかもしれないということです。しかし、元素と元素の組み合わせは、誰もそれ以上の形では上塗りできません。その意味では、周期表を通じて発見をすることが、もっとも成果の大きいことであることは間違いないのです。この分野を志す学生の方には、材料を作る面白さを知ってほしいですね。
Q:最後に、今後の目標についてお聞かせください。
いま扱っているメタンについてお話ししますと、メタンである小さいミツバチをムカデに変える技術はまだありません。それを私たちは追いかけている最中です。
まったくないわけではないのですが、結果としてエネルギー収支が非常に悪いものしかまだありません。別の分子に組み換え、そしてそれをさらにつなぐ技術ならあるんです。二段階の工程でやっているわけですが、その二段階の過程で多大なロスが生じています。何のロスかと言いますと、メタンを燃料として燃やすために起こるロスです。せっかく掘って潰して運んできたものをじつに10〜15パーセントもわざと燃やして、しかも大量の温室効果ガスが出るわけです。こんなに無駄なことをしてガソリンを作っても意味はありません。
現行のメタン燃料技術は、実は、かつてのナチスドイツが開発した技術です。二段階流通という技術なのですが、これは経済封鎖を食らった当時のドイツが死に物狂いで作り出した技術です。ドイツには石油がなかったため、メタンからガソリンを作っていたのですね。しかし軍用技術ですから、できるものは純度が高い良いものですが、採算度外視の面はいなめません。
こうした点から、二段階を一段階にすることによって、エネルギー収支を劇的に改善したいと考えています。JSTが私たちの研究に援助をいただいている理由でもありますが、現在日本が直面している諸外国との非常にアンフェアなトレーディング状況に解決を与えるために、研究を続けていきたいですね。
(了)
阿部 英樹
あべ・ひでき
独立行政法人物質・材料研究機構 主幹研究員。
東京大学理学部化学科を卒業後、同修士課程を経て、同博士課程の後期退学。その後、科学技術庁金属材料技術研究所(当時)に入所。
2007年より、独立行政法人物質・材料研究機構 半導体材料センター 主任研究員となる。2014年より、 独立行政法人物質・材料研究機構 環境再生材料ユニット 触媒機能材料グループ 主幹研究員となる。