現在、人類は窒素肥料で育てられた植物、若しくは植物を食べた動物を食料源としている。それら窒素肥料して使われているのがアンモニアである。この状況を考えると、アンモニアは間接的に人類のエネルギー源となっているといえる。さて、こうしたアンモニアの人工生成を行なう生産方法はハーバー・ボッシュ法と呼ばれるものであるが、これは約100年前に開発された手法で、化石燃料の使用と二酸化炭素の排出から問題視されている。 こうしたなか、化石燃料も水素ガスも使わず、窒素ガスからアンモニアを合成することをめざしているのが、東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻の西林仁昭教授だ。「エネルギーキャリアとしてのアンモニアの有用性を示す」べく、新しいアンモニア合成法を開発する西林教授に、アンモニアの可能性について伺った。 現代人は、アンモニア生産に依存している Q: … [もっと読む...] about 化石燃料を使わず、次世代型アンモニア合成法を実現する〜西林仁昭・東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻 教授
AMPA受容体からシナプスを研究し、神経の病気を解明する〜高橋 琢哉・横浜市立大学大学院医学研究科教授
鬱や統合失調症といった精神神経疾患は、その病気のメカニズムや要因がまだはっきりと特定できていない。原因を特定するためには、シナプスで何が起こっているのかを明らかにする必要がある。そのシナプス伝達を調べるのにキーワードとなるのが「AMPA受容体」だ。これはシナプスの伝達物質であるグルタミン酸の受容体のひとつで、神経機能において中心的な役割を果たすものであるが、このAMPA受容体を可視化することで、AMPA受容体の役割が変化した場合にどんな変化が起こるかを明らかにすることができる。そこで、AMPA受容体を標識できるPETプローブの開発を行なっているのが、横浜市立大学大学院医学研究科の高橋琢哉教授だ。基礎研究を元にして、臨床やリハビリテーション効果促進薬の開発までを見据える高橋教授に、AMPA受容体やPETプローブの概要について伺った。 シナプス研究 … [もっと読む...] about AMPA受容体からシナプスを研究し、神経の病気を解明する〜高橋 琢哉・横浜市立大学大学院医学研究科教授
バイオベースを実現するために、AIとITを活用する〜近藤 昭彦・神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科長
地球温暖化の原因とされる化石燃料の使用が年々制限されるなか、欧米を中心に注目が高まっているのがバイオプロダクションだ。バイオプロダクションとは燃料に限らず、生活で必要なあらゆるものをバイオ由来のものにすることを目指す大きな潮流であるが、この流れのなか「将来、バイオベース以外のものが禁止される時代が来るかもしれない」と予想するのが、神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科の近藤 昭彦 … [もっと読む...] about バイオベースを実現するために、AIとITを活用する〜近藤 昭彦・神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科長
認知ロボティクスで、多用途で活躍できるロボットを開発する〜尾形哲也・早稲田大学基幹理工学部教授
人間の言葉を正確に理解し、自由自在に動かせるロボットは、人類の長年の夢だ。近年注目されているディープラーニングの技術をロボットに利用することで、そうした「汎用ロボット」の開発に取り組むのが、早稲田大学基幹理工学部の尾形教授。「本来、ロボットは多くの用途に使えるべき」だとする尾形教授に、汎用ロボットの開発と実用化について、現時点での見立てを伺った。 ディープラーニング技術をロボットに適用 Q:現在の研究の概要についてお話しください。 専門は「認知ロボティクス」です。ロボットを使って人間の知能をモデル化したり理解したりしようというところからスタートしています。その研究からさらに発展させて、近年人工知能の分野の中で中心になっているディープラーニングという技術をロボットに利用しようと考えています。 今までロボット単体では難しかった、仕事をさせることや、 … [もっと読む...] about 認知ロボティクスで、多用途で活躍できるロボットを開発する〜尾形哲也・早稲田大学基幹理工学部教授
工作機械向けソフトウェア開発で、産業の基盤を強化する〜中本圭一・東京農工大学准教授
素材を削り、必要な形状・寸法に加工する工作機械は、長年我が国が世界のトップレベルに君臨しつづける分野だ。こうした技術や知見は日々複雑化・高精度化が進んでおり、職人技などの属人的なものから、加工支援ソフトウェアの開発・普及を通じて一般化されることが求められている。「基盤となる工作機械とそれを使いこなす加工技術、その両方があわさることが必要だ」とし、その両面から実用的な研究を進めるのが東京農工大学の中本准教授だ。今回は世界における日本の製造業の立ち位置やその特殊性、ソフトウェアの必要性についてお伺いした。 工作機械を使いこなすノウハウをソフトウェア化 Q:まず、研究の概要やニーズからお聞かせください。 研究内容をお話しする前に、まず工作機械についてご紹介します。穴を開けるためのドリル加工が最も分かりやすい例だと思いますが、何かの素材を削って必要な形 … [もっと読む...] about 工作機械向けソフトウェア開発で、産業の基盤を強化する〜中本圭一・東京農工大学准教授
視覚障がいの社会課題に、基礎研究と実践の両面から取り組む〜髙橋政代・理化学研究所プロジェクトリーダー
近年注目が高まっている再生医療において、臨床への応用が特に期待されているものの一つが網膜再生だ。ラボヘッドとして、網膜色素上皮細胞移植、次の再生医療である視細胞移植、そして基礎研究という3つのチームを束ねているのが、髙橋政代・理化学研究所プロジェクトリーダーだ。自身を「研究者でなく社会活動家」だと紹介するように、現在はプロジェクトリーダーにとどまらず、病院の非常勤医師、公益法人理事、そしてソーシャルベンチャー立ち上げなど多岐にわたる分野で活躍している髙橋氏に、これからの再生医療、網膜治療の向かうべき方向性について伺った。 研究・臨床・社会実験の3チームを統括 Q:研究の概要についてお話しください。 研究内容をお話しする前に、iPS細胞を初めて人間に利用して手術を行なったことは、様々なメディアで取り上げていただいていますが、あくまでもこれは我々が … [もっと読む...] about 視覚障がいの社会課題に、基礎研究と実践の両面から取り組む〜髙橋政代・理化学研究所プロジェクトリーダー
疫学データの解析で、感染症予防にマクロ視点から取り組む〜西浦博・北海道大学教授
海外で疫病が発生し、空港で入国制限がなされた、などのニュースは頻繁に目にするが、じつは一口に感染症といってもその流行地域、時期にはさまざまな違いがある。世界中のさまざまな感染症に対し、数理モデルを利用した流行データの分析手法をとっているのが、北海道大学の西浦教授だ。「感染症は、シンプルに数式化できる」ことが研究の道を決めるきっかけになったという西浦教授に、感染症に対する現時点でのベストなアプローチを伺った。 感染の仕組みを数式で記述する Q:「理論疫学」という言葉について、研究概要をお聞かせください。 感染症の理論疫学というのは、感染症が流行してヒトや動物に感染したときに、どれくらいの期間が経ってどのようなメカニズムで発症し、また重症化するのか、あるいは、ヒトが感染してから二次感染するまでにどのくらいの時間を要するのかといった感染の仕組みや、感 … [もっと読む...] about 疫学データの解析で、感染症予防にマクロ視点から取り組む〜西浦博・北海道大学教授
数理モデル解析で、脳の学習理論を発見する〜豊泉太郎・理化学研究所神経適応理論研究チームチームリーダー
「人はどのようにして学習するのか?」という根本的な問いはこれまで、基本的な原理がなかなか解明されてこなかった。人間の学習の仕組みを解明すべく、数理モデルの解析を通して、脳の情報処理機構および神経回路が環境に対して適応・学習するメカニズムの研究を進めているのが、理化学研究所の豊泉太郎チームリーダーだ。今回は人間の学習の基本となる理論をもとにしながら、脳科学におけるコンピュータシミュレーションの有効性について伺った。 理論的手法により脳を研究 Q:まずは、研究についてお聞かせください。 脳科学を研究しています。脳科学といっても、普通のお医者さんや生物学的なものなどとは違って、基本的に数学や物理のような理論的な手法を使って脳の計算機構を理解する研究をしています。 そのため、アプローチの仕方が他と大きく違っています。実験設備を一切使わない点が特徴です。 … [もっと読む...] about 数理モデル解析で、脳の学習理論を発見する〜豊泉太郎・理化学研究所神経適応理論研究チームチームリーダー
脳の血液関門の研究で、薬のあり方を根本から変える〜寺崎哲也・東北大学教授
創薬治療のためには、人間の血管の性質についての研究が不可欠である。かつて脳の血管は壁のように隙間がない為に異物(薬)から脳を守っているものだとされていたが、実はそうではなく、汲み出す仕組みを持つポンプのようなものであるとわかったのは、つい25年前のことである。その発見をもとに、脳の血管の役割を明らかにし、「脳に最も効く薬のかたち」を追求するのが、東北大学の寺崎教授だ。今回は脳血管の基本的な役割についての説明から、創薬研究全体の展望について伺った。 血管の新たな働きの発見で、薬の作り方が変わった Q:研究の概要についてお聞かせください。 脳の血液関門の研究をしています。血液脳関門とは、血液が流れる血管のことです。なぜ血管なのかというと、脳の血管とそれ以外の血管とでは構造が違っていて、脳の血管はつなぎ目のない筒状の細胞、もしくはつなぎ目に隙間がない … [もっと読む...] about 脳の血液関門の研究で、薬のあり方を根本から変える〜寺崎哲也・東北大学教授
金属を使わない、有機化合物のみの触媒をつくる〜秋山隆彦・学習院大学理学部教授
現在、触媒として使われている主流は金属錯体であり、パラジウムやロジウムなどの金属に有機物がついたものが用いられるのが一般的だ。しかし、こうした金属の使用を前提としていると、資源を持たない日本では他国との貿易関係に産業が依存してしまうことになり、また微量でも毒性が残るという課題もある。こうした問題を乗り越え、安全度を高めるべく、有機分子だけで触媒作用を示す研究を行なっているのが、学習院大学の秋山教授だ。今回は、金属を使わない有機化合物だけの触媒作用の研究の概要について伺った。 金属錯体の課題を乗り越える Q:研究の概要からお聞かせください。そもそも有機触媒とはどのようなものなのでしょうか? 触媒とは、何かと何かを混ぜる時にその化学反応を促進させるもののことをいいます。触媒は、ノーベル化学賞授与の対象として注目されることが頻繁にあります。例えば、2 … [もっと読む...] about 金属を使わない、有機化合物のみの触媒をつくる〜秋山隆彦・学習院大学理学部教授