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ダイヤモンドで、次世代量子通信の普及をめざす〜小坂英男・横浜国立大学教授

2017年11月9日 by Top Researchers

次世代の通信ネットワークを実現するために、量子通信の可能性に期待が高まっている。盗聴や不正アクセスを未然にブロックするというニーズが高まっているのに対し、中継技術的には100キロをこえる中距離であれば一度中継しなければならないという制約がある。こうした課題とニーズをとらえ、ブレイクスルーを目指しているのが小坂教授だ。今回は通信技術の近年の進歩と今後の研究課題について伺った。

小坂 英男・横浜国立大学教授

長距離かつ中継不要の量子通信を可能にする

Q:まずは、研究内容をお話しください。

量子通信について研究しています。
量子情報の中には、量子コンピュータという、昨今騒がれているものがありまして、その一方で量子通信というものがあります。量子コンピュータと量子通信は全然違うように見えますが、いわゆる盾と矛の関係になっていて、量子通信をしようとするという目的は元々盗聴を避けたいという目的がありますが、量子コンピュータができてしまうとそれが盗聴されてしまうかもしれないのです。反対に、量子コンピュータができてもさらに高度な量子通信があるとそれも守れるという、「いたちごっこ」の関係にあります。

これらは技術的にもかなり近いものがあり、研究者側からみるとあまり区別もありません。アプリケーションとしては計算と通信に分かれていますが、本来ならばあまり変わらないものだという認識なのです。

その中で私たちが研究しているのは、量子通信です。
何故かというと、最初のとっつきがいいからですね。例えば量子暗号を送ろうと思ったときに短距離であれば、100キロメートルまでを短距離と言いますけども、すでに実用化されているレベルに来ています。簡単といえば簡単なレベルで、だけどそこから距離をさらに300キロ400キロと伸ばしていくと、途端に難しくなるという側面があります。そうなると量子中継器というものが必要になってきて、この技術が量子コンピュータとかなり近い状況になってきています。

ただ量子通信は、量子コンピュータほどたくさんの集積化を必要としません。そのためとっつきが良いという話になるのですね。量子中継器というものを目指してまずはごく簡単なデバイスを作ろうというところで進めてきています。

一方で、あまりに難しいため、「量子中継は不要だ」という考え方もあります。100キロごとに接続をしていけば途中のところはすごく守られた古典的な方法の中継、すなわち1回光を電気に直して電気をまた光にする手法でいいじゃないか、いう考え方もあります。

しかし、それだと元々の量子通信に誰にも盗聴されないという利点があるのに、中継部に人が介在してしまうため、そこで情報が漏れる可能性が残るわけですね。そのため、量子中継器を必ず100キロごとに入れる必要があると考えています。これが、研究のモチベーションになっています。

Q:情報の漏れがない情報通信のニーズはずっと高まっているのでしょうか?

日本は世界で最も先にこれを始めたほうですね。もう20年ほど前から量子通信の研究を始めていて、当時私はNECにいましたが、NEC、東芝、三菱の3社が委託を受けました。総務省系のNICT(情報通信研究機構)という機関がありまして、そこから量子通信をしましょうということについて研究委託を受けました。

一方で量子中継というのは全然どういう形になるかも分からなかったため、受託を主にNECが受けて、そこで私が一緒になりました。そこからずっと民間で研究を続けていたというわけです。

Q:現在は民間ではなく大学にいらっしゃいます。大学に移られたのは何かきっかけはありましたか?

大学に移った理由には様々なものがありますが、当時光のバブルが崩壊したことが大きいです。バブル崩壊で、なかなか会社で研究を続けるのが難しくなった面があります。
そこで大学に移り、現在まで大学主体で進めています。全体的にはNECでも一時期続けていたことはありましたが、量子中継について現在は私と、山本喜久先生、当時スタンフォード大学とNII(国立情報学研究所)に所属されていた方ですが、その山本先生と私とが受託を受けて研究してきたというところですね。そのため、企業から大学に受託が移ってきたというものです。

Q:研究というのは実際にはまずは理論を考えて、次に実験に移るという流れですか?

そうですね。理論があってこその実験です。元々私はナノテクノロジーの分野で、半導体を使った量子中継について研究していました。

その途中から、半導体では難しいと感じ、ダイヤモンドに方向転換しました。ダイヤモンドが出てきたのはつい5年ほど前で、それまでは半導体しかないという時代でした。

それが急にダイヤモンドになった途端にとても筋が良くなりました。ダイヤモンドの特性は、メモリ時間の長さです。半導体を使うと長くてもマイクロ秒というメモリ時間しかありません。このメモリというのは量子メモリですけども、そのメモリ時間が長くないと距離を飛ばせません。

例えば100キロメートルといえば、光で飛ばすととても短い時間だと思うかもしれませんが、実際には1ミリ秒かかるのです。1ミリ秒というのはとても長い時間で、マイクロ秒のメモリ時間ではとても無理なのです。少なくとも距離に応じたメモリ時間がないといけなくて、そのためには最低ミリ秒が、実際には秒程度のメモリ時間が必要です。この点で半導体には限界を感じ、ダイヤモンドに乗り換えました。

ダイヤモンドは当時から1秒というオーダーでメモリできましたので、これでやるしかないと思いました。半導体というのは企業ではさんざん研究されていたデバイス・材料系ですが、ダイヤモンドについては歴史が浅く、材料についての基礎研究から始めていく必要があります。

その意味では大学でしかできない研究なのかもしれません。基本的なところでは十分揃っていますが、付随する性能としてまだ足りないものはあります。例えば光を出したり受けたりする、その発光吸収という効率はまだまだ低い。効率を良くしていく必要があります。

Q:効率は、何によって決まりますか?

材料の問題も多少ありますけど、構造上の問題があります。企業と違って大学だと、あまりもの作りに力を入れられないため、構造のほうを良くしていく必要があります。

鏡で覆う共振器というものを作る際、鏡を2枚組み合わせてその間で発振させる構造を作ると、発光をよく取り出したり吸収させたりということができます。こういう効率の良い構造をこれから作っていかないといけません。共振器によって効率は何倍にも高められ、100倍、1000倍にすることもできます。

また、集積度を上げることも必要です。半導体は集積度を上げるという意味では得意な面がありますが、ダイヤモンドはまだまだこれからです。1個だけデバイスを作ることはできても、それをたくさん並べるということは難しいかもしれない。私たちは材料の技術で、この集積度を上げてこうと思っています。

詳しい中身の話をします。メモリというのはダイヤモンドの中にあるNV中心という欠陥を使います。ダイヤモンドは炭素でできていますけども、その炭素が1個抜けているところに穴が開きますよね。その穴に電子が1個捕獲され、穴に入ります。そしてそこの周りにメモリとなる炭素があります。炭素の同位体です。普通ダイヤモンドは炭素12というものでできていますけども、ところどころに同位体炭素13というのがあって、それがスピンというものを持っています。そのスピンに量子状態をメモリするのですけど、炭素13がNV中心の周りにたくさんあります。そこで、たくさんある炭素13を使って一応ある程度の集積化ができます。

しかし実際にはこれは天然ですから、バラバラにあってどう使うかが難しい。それを全て理解してどこにどのようにあるかというのをまずは解析しないといけません。人工的に特定の位置に置くことはできず、天然に存在するランダムな配置を使って集積化していくというのは知識ベースの作業です。
そのために、ダイヤモンドの学習をしないといけません。

当研究室では、機械学習でダイヤモンドの欠陥の周りの炭素構造を調べるということをしています。一回調べてしまうとそれはもう自由に使えるため、自然に作ったものでメモリの集合体ができます。この手法で、集積度を上げていこうとしています。

Q:ダイヤモンド自体への理解が深まれば、量が稼げて実際の通信に大規模に長距離での実現ができるということでしょうか?

その通りで、理解が深まり正確に操れるようになります。メモリを操作するということが必要になりますけども、そういった操作も正確にできるということになります。

量子情報において大事なことは正確さです。効率やスピードなどがよく言われる性能ですが、量子情報の場合には正確さというのはとても重要になります。特に量子通信というのは、量子通信と量子暗号通信と同じことですが、暗号を送る上で間違ってはなりません。まずは正確にやる必要があります。それを忠実度と言いますけども、それを高めつつも一応一方で効率も高めていく必要もあります。

ただ効率のほうは、もし低くても低いなりのアプリケーションは必ずあるのです。例えば1000キロメートルの暗号通信をしようとしても、130億年に1ビットしか送れないため、とても長い時間が必要です。これでは、とても使い物になりません。

これを私たちの技術を使うと、1秒間に少なくとも1ビットは送れるようになります。すごく遅く感じるかもしれませんが、130億年に1ビットに比べたら、はるかに速いですよね。1秒間に1ビットだとなんとなく使い物にならないという人もいますが、それでも使えるところはあります。

例えば、銀行のパスワード。日本銀行から各銀行とやりとりをする際にはパスワードが使われていますが、パスワードは1日に1回やりとりできればいいもの。これをパスワードではなくて量子暗号通信で送るアプリケーションであれば、1秒間に1ビットで十分なビット数です。このように必ずしもメガやギガビットレートというのを必要としない場面もあります。

もちろん開発を進めるうちに徐々にビットレートも上がってきますから、1秒に1ビットというのは最初の技術です。中継区間は現在、100キロだといわれていますが、それをもっと縮めて10キロ、1キロにできれば格段に早くなります。

ただしこれにはコストの問題があり、100キロに1個ならば少々高くてもいいけども、1キロごとに置けといわれるとコストをかなり下げなくてはいけません。価格競争になってきます。

また、現在は極低温でしか動かないという部分があり、それを室温化する必要があります。ダイヤモンドでは、10ケルビン以下が必要だとされています。10ケルビンというのは絶対零度からプラス10℃したものですから、一般的には極低温です。

しかし、私たちの研究においては、10ケルビンだとまだまだ高い温度です。例えば量子コンピュータのなかで現在注目されている超電導デバイスは10ミリケルビン程度以下でしか動きません。10ケルビンと10ミリケルビンでは3桁も違って、この差はすごく大きい。そう考えると、10ケルビンというのは簡単な温度です。

とはいえ低コスト化するにはネックで、これから室温化していく必要があります。そのため、低コスト化はまだまだ先にはなると思います。ただ、チャレンジしていかないと先はないです。何しろ原子の中の1個1個を操作しているわけですから、非常に難しいのです。

これまでの電子デバイスは、電子を操作していました。しかし、量子デバイスは電子だけではなく、原子核の中をも操作しています。炭素13であればその中の中性子の1個1個のスピンを使っています。電子だけだとどうしてもメモリ時間が稼げません。したがって原子核の中まで使っていく必要があり、そこが現在のデバイスの技術からするととても大きな変化になります。

量子テレポーテーション技術を実現

Q:これまでの経歴をお願いします。

修士を卒業してNECに入りまして、NECで半導体の集積デバイスの研究をしていました。そこで面発光レーザーというレーザーの研究をして、その後フォトニック結晶の研究をしました。

その後アメリカに2年間留学し、量子情報についての研究を始めました。その後1度NECに帰ってきて、1年後にNECから東北大学に職があったため東北大に行き、それから11年間ずっと東北大で准教授をしたのち、3年前に横浜国大に教授として移ってきました。

東北大によく知っている先生がいて、そこで量子情報を研究していたことで一緒にやろうということになりました。
そこから横浜国大に行ったのは、あるきっかけがあります。横浜国大でまた知っている先生がいらっしゃいまして、横浜国大に是非ということで、ちょうどそこで教授のポストがあり、こちらに来たということです。

とにかく横浜国大は学生が素晴らしく良く、真面目です。部屋もすごくいい場所を頂き、良い環境で研究と教育をさせてもらっています。

Q:研究は、当初の予定通り進んでいますか?

そうですね。ゆっくりですけどね。何しろ時間がかかることはもうわかっていますから、この5年間でもちろんある程度急ぎながらも淡々と進めてきたというところですね。

最初に量子テレポーテーションで光の状態を原子核に移すことを推し進め、それ自体は成功しました。3年ほどかかりましたが、大きなブレイクスルーでした。まずは飛んでくる光の状態をメモリに入れないといけないのですが、そのメモリに入れるという動作が今までできませんでした。そこで私たちが初めて、量子テレポーテーション転写という技術を実現させました。

ここでいうテレポーテーションでは、原子核に飛んでくる光の光子、光の粒を光子といいますが、その光子をとらえ、それで保存する必要があります。しかし、従来は飛んでくる光子を確実に捉える方法はありませんでした。なんとなく吸収させることはできたかもしれないけども、絶対に100パーセントで情報が移ったと確証できるデバイスがありませんでした。

私たちの量子テレポーテーションという技術は、「いま、捉えた」となれば100パーセントの確率でその状態が移っていることがわかるものです。100パーセントの、忠実度の高い転写という技術ですね。これができたのが一昨年の暮れですけども、それが一つのブレイクスルーですね。

それから先は、集積化を進めようとしています。さきほど話したように、炭素を使って集積化するわけです。構造を良くして吸収効率を上げる共振器を作ろうとしています。

このように次から次へと課題があり、それを1個1個クリアしていく必要があります。1個1個がとても大きな障壁ですから、超えるのに時間がかかります。

Q:他の研究の違いはどこにありますか?

量子中継という意味で言うとデルフト大学のハンソンというとても有名なグループがいて、最先端を走っています。いつもそこと戦っている感じですね。戦っているというかもちろんとても彼らは強力で、非常に前に進んでいるとも言えます。

ただ我々は、彼らとは全く別の方針で進めています。おそらく現状では彼らの方が先に進んでいますが、将来はおそらくうちのほうがより確実な中継ができると考えています。

その違いはとても説明するのが難しいのですが、大きな違いとして、彼らはとても強い磁場を使いますが、私たちは磁場をむしろなくしてゼロにするという点に違いがあります。そのことによって先ほど言いました忠実度が極めて高くなると考えています。

ただスピンについて言えば、本来は磁場をかけないでスピンを制御するというのは不可能です。スピンを制御するというのは磁気共鳴という技術を使いますけども、普通は磁場をかけてやらなければ磁気共鳴はできません。ところがテレポーテーションをするには、磁場をかけないでやらなければ忠実度が上がりません。そのため、私たちの目指す量子テレポーテーションをやる上では、磁場をゼロにするという必要がありました。

こうして、「磁場ゼロの中で磁気共鳴をする」ということに、多大な時間がかかりました。3年かけてそれを克服できたことで、これから追い上げてデルフト大学のハンソンを追い越していこうという状況です。

Q:基礎研究をなさっているというところでなかなか実用化の問題とはまた違うと思いますが、産業的に課題感があるところはありますか?

室温化、集積化、共振器を作るという技術的な課題はたくさんあります。これらの課題を克服していかなければ、産業界では使えません。でも一方で大事なのは、産業界でちゃんとしたニーズが形成されることです。ニーズができるまでは、そんなに急いでも仕方ないと私は考えています。

近年盛んにサイバーテロが報道されていますが、本当に将来危ないと思っている人はそれほど多くないと思うのです。しかし、おそらくこれからの社会では、パスワードが次々に破られるようになるでしょう。あまりにもたくさんのパスワードを覚えなくてはならず、紙に書いてデスクに放置するなど、とんでもない脆弱な環境になりつつありますよね。いまのパスワード社会が全部崩壊したときに、これまでの形式を辞めなければいけない時があるわけです。その時に出てくるのが、この量子暗号だと思っています。

Q:パスワード社会から脱却し、量子暗号の社会になるということですか?

その通りです。量子暗号というのはイメージとして、神がサイコロを振ってくれてそれに従って暗号通信をするものですから、人間がパスワードを入れる必要がないのですね。そのぶん、ある程度の最初のコストはかかるので、そのコストを認めて頂いて製品開発できるようにならないと厳しいと思います。その後は段々コストも下がってきますので、さらに普及も早くなっていくはずです。

ニーズがなければ、技術も上がっていきません。何もニーズがない中でビットレートが高い、遅いと言われても、逆にニーズがあったらそれが良くなってくるということなので、そこが上手く回り始めるまでにおそらく10年や20年の時間がかかると思います。それはおそらくそれまでの光技術全般に言えることです。民間にいた時からずっと光を研究してきましたが、その経験からいえます。

NECには平成元年に入社しましたが、平成元年の頃にはもう現在の光通信の技術はほぼありました。それから皆さんが使うまでに、20年ほどかかったわけです。それぐらい時間がかかるということですね。

こうした観点からも、研究にあまり急いで成果を求めるべきではないと考えています。研究しては中々世の中に普及しないから撤退、を繰り返していると、成果はでません。ニーズがついてくるのは長い時間がかかるのです。長年の経験から、ニーズを待ちながらやるべきなのかなと考えています。

Q:学生はどのように指導していますか?

現在19名いますね。学部だけだと7名、それ以外は全部院生です。ここは物理工学専攻ですので、基本的には物理希望で来られていますが、内容は工学に近いところにいます。「物理半分、工学半分」ですかね。基礎研究もしながら応用研究もしっかりしましょうということです。

そういう意味では理学部の物理だけじゃ少し足りない部分、とはいえ工学部でも足りない部分を、物理工学では両方ともやるのでちょうどいいわけですね。ですから学生は両方に興味を持っていると思います。

「役に立ってこその物理だ」と日々学生たちに言い聞かせていますが、現在の社会は物理のかなり奥深くまで理解してないと工学もできない。だから両方ちゃんとやりましょう、と言っています。そういう意味ではうちの学生はとても有望だと思いますね。

学生には、量子力学をちゃんとやりましょうと言っています。その量子力学の上で自分である程度の理論を構成して、実験も難しいのでまずは理論でちゃんと計算できるようになってそれで実験を合わせていきましょうという感じですね。

よくある流れの実験してそれで理論を考えるというものとは逆で、理論先行でその後実験するという流れです。うちの学生はよく勉強しますし、よく研究します。朝から晩までずっと実験していますね。

Q:企業と何か提携などはありますか?

企業との提携はこれから、この1年でそういう話が徐々に増えてきたところです。これまでは企業があんまり見向きもしてくれなかった時代ですね。去年まではあまり量子情報の風向きは良くありませんでした。

2017年になって急に世間が騒がしくなりまして、特に欧米で量子コンピュータができたという報道が出てきたわけですね。他にもイギリス、オランダ、オーストラリア、中国、アメリカ、カナダ、各国で量子情報技術にかなり特化したという報道がされてきました。

もう国策で、何百億もの巨大な資金を投じて国の中心技術にしましょうというのが報道され、それで文部科学省が日本でも重点化しますということで、量子技術に少なくともこの10年間で数百億円投じることを表明しました。

このような動きが私たちの耳に入ってきたのは2016年の暮れからで、この1年ほどで量子情報を日本の中心的テーマにしましょうという機運が高まっています。NEC、東芝、三菱3社の、今まで一緒に量子通信に取り組んできた企業以外にも、新たに始めたいというようなことをおっしゃっている企業はいます。これから増えてくると思いますね。

Q:最後に、次の数年で実現したい目標をお聞かせください。

数年後には、集積化ができてないといけません。たった1個のメモリがあるだけではなく、その周りに10個あるというレベルでメモリを増やしていく必要があります。

また共振器を作って、発光受光効率を上げていく必要があります。その後は室温化の課題が残りますが、これはおそらく3年では難しいのかなと思います。ただその芽がでてくるのは3年後で、そこからニーズに応じて進め方を考えていく必要があると思います。

なにより大事なのは、人口です。研究者人口がとても重要で、現在の日本ではこの量子情報の分野で人口があまりにも少ないといわざるをえません。欧米に比べてもはるかに少ない人口です。おそらくグループで言うともう10個もなく、本当に量子情報を支えているグループは片手で数えられる程度かもしれません。特にもの作りをしているグループはほとんどいません。

確かに理論グループは多くいますけど、もの作りをしているグループは少なく、その中で育ってきた若い人達が本当に少ないです。こういう人たちを育てていく必要がありますね。

これから10年、ではなく、20年・30年という技術ですが、私たちは30年ずっとはいられませんから、20年たった頃に世の中に量子情報を使った製品が出てくる時期にちゃんと人材がいることが重要です。その観点からも、教育はとても重要な課題です。

私たちは研究をしていますが、ある意味で教育に半分は割いていて、若い学生たちが20年後に活躍できるようにすることが重要な課題です。研究者として自信をもって社会に送り出せる学生が、うちの研究室から3年以内に10人規模で出てくる。それが目指すところですね。(了)

 

小坂 英男

こさか・ひでお

横浜国立大学 工学研究院 物理情報工学専攻 教授 (量子情報物理学)
京都大学理学部、同大学院理学研究科 物理学第一専攻 修士課程修了後、日本電気株式会社 光エレクトロニクス研究所 光基礎研究部に入社。同社光エレクトロニクス研究所 光基礎研究部、同社基礎研究所ナノテクノロジーグループを経て、京都大学 大学院工学研究科 電子物性工学専攻 論文博士修了。

米国カリフォルニア州立大学ロサンジェルス校(UCLA)工学部電子工学科 客員研究員となり、日本電気株式会社基礎研究所 量子情報テクノロジーグループを経て、東北大学 電気通信研究所 准教授となる。その後、名古屋大学工学部/ 大学院工学研究科 非常勤講師や、国立情報学研究所 客員教授も務めたのち、現職。

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