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放線菌の研究で、新物質を見つける、生み出す〜大西 康夫 ・東京大学大学院農学生命科学研究科 教授

2020年4月10日 by Top Researchers編集部

天然の抗生物質の3分の2程度を生産するのが、複雑な形態分化と二次代謝産物の多様性に特徴づけられる細菌「放線菌」である。「発酵学」すなわち「応用微生物学」の分野で、この放線菌に関わる研究に力を入れているのが、東京大学大学院農学生命科学研究科の大西 康夫教授だ。放線菌の複雑な形態分化のしくみを明らかにするとともに、二次代謝産物の生合成経路の解明に取り組むことで、抗生物質の増産や新たな有用化合物の生産に役立てることを目指す大西教授に話を伺った。

抗生物質を生み出す放線菌を研究

Q:まずは、研究分野について教えてください。

最初に、研究室の名前と関連のある発酵についてお話しします。
広い意味での発酵とは、微生物の力がはたらくことで人にとってよいものが生み出される現象のことを言います。悪いものが生み出される場合は腐敗と呼んでいますが、発酵と腐敗は生化学的には同じ現象です。

例えば納豆は有名な発酵食品ですよね。日本人にとっては豆が発酵したものですが、納豆を知らない外国人には豆が腐っているとしか見えないでしょう。納豆を美味しくて体にいい食品と捉えると、腐敗した豆ではなく発酵食品になるわけです。“発酵”と“腐敗”は人目線で決まっていることがおわかりいただけると思います。人の役に立つ微生物のはたらきが“発酵”というわけです。

私の研究室は、醗酵学研究室という名前です。発酵の「発」は酉(さけのとり、とりへん)がついた古い字体を使っています。

この研究室は1900年に東京帝国大学農科大学に創設された農産製造学講座に源を発しており、1924年に農芸化学・化学第五講座(醗酵生理学及び醸造を担当)として発足しています。1954年に醗酵学講座と改称され、その名前が今に引き継がれていますが、研究室としては100年近い歴史があります。古い字体をあえて使っているのは、研究室の歴史に対する敬意とプライドの表れです。名前は古めかしく感じるかもしれませんが、やっていることは最先端だという自信の裏付けでもあります。

研究室発足当時は日本酒などのお酒づくりに関わる微生物を中心に研究していましたが、徐々に研究対象の微生物は広がり、また、その時々の最新の研究手法を積極的に取り入れて時代をリードする研究が行われてきました。研究室名を言うと、「発酵食品の研究をやっているのですね。」と言われることが多いのですが、今は発酵食品にダイレクトに関わる研究は行っていません。そのような時には、「発酵とは人類の役に立つ微生物の働きのことであり、発酵学とは人類に役立つ微生物に関する学問なのですよ。」と説明しているわけです。

少し誤解があるといけないので、もう一言加えます。微生物に関する学問には2つの大きな流れがあります。ひとつは微生物をよいもの、人類の味方と考える流れで、私の研究室はこの本流と言えます。もう一つは病原菌などをイメージしていただければ簡単ですが、微生物を悪いもの、人類の敵として考える流れで、主として医学系の研究室で行われて来ました。医学系の微生物研究では“細菌学”という言葉がよく使われますが、微生物をよいものとして扱う分野では、この言葉はほとんど使われず、“微生物学”や“応用微生物学”という言葉が好まれます。細菌学も感染症の予防や治療になくてはならない学問領域であり、もちろん、人の役に立つ学問です。

発酵学といえば発酵食品の研究を、微生物学といえば病原菌の研究をイメージされる方が多いと思いますが、そのどちらでもない微生物研究も世界中でたくさん行われているのです。

Q:研究の中心となるテーマは何でしょうか。

微生物の中でも特に注目しているのが「放線菌」です。放線菌はバクテリア(細菌)の仲間です。バクテリアというと単細胞で、1個の細胞が2個になって、2個が4個になってと、分裂を繰り返して倍々に増殖していくようなイメージがあるかもしれませんが、中にはカビのように糸状に伸びることで増殖していく菌がいて、放線菌がまさにそれです。菌が増えていく様子が放射状に広がるように見えることから、この名前がつきました。

放線菌は休眠細胞である胞子を作ることができます。多くの放線菌は菌糸が分化して数珠状に連なった胞子鎖(ほうしさ)を作りますが、中には胞子が詰まった胞子嚢(ほうしのう)という袋状の構造体を作るものもいます。さらには、その中の胞子がべん毛をもっており、袋が破けて外に出た時、遊走子となって水中を泳ぎまわって好ましい環境に辿り着き、そこで発芽して菌糸生育を始めるというような複雑な生活環をもつものもいます。

生物進化の方向性が単純から複雑だと仮定した場合、このような運動性放線菌は最も高度に進化したバクテリアと考えることができ、生物学的に極めて興味深い存在です。
私の研究室のメインテーマの1つが、このような複雑な生活環をもつ運動性放線菌を対象とした研究です。
胞子嚢は通常単細胞であるバクテリアが作る“多細胞器官”であり、その構成成分にはこれまでに全く知られていない生体高分子が含まれていることなど、大変面白いことがどんどんわかってきています。また、特殊なバクテリアだからこそ見えて来る“普遍的な生命現象”もいくつか掴んでおりますが、これらについては別の機会に紹介するとして、今回はもう1つのメインテーマについてお話しします。

放線菌はその特徴的な形態分化で基礎的に興味深いのですが、抗生物質などをつくる産業微生物でもあります。薬の開発というと、化学合成や薬用植物からの抽出をイメージする人が多いと思いますが、実は微生物からつくられている薬がとてもたくさんあります。薬をつくる微生物の主役の1つが放線菌というわけです。

はじめて実用化された抗生物質はペニシリンで、1942年のことです。第二次世界大戦中に多くの負傷兵の命を感染症から救ったと言われています。ペニシリンは1928年にフレミングにより発見されていますが、放線菌ではなくカビ由来です。見つかったときは抗生物質(antibiotics)という言葉はありませんでしたが、その後、アメリカのワクスマンが病原菌を殺すことができる放線菌由来の化合物を多数見出し、抗生物質という名前をつけました。結核の特効薬として多くの人命を救ったストレプトマイシンはワクスマンらによって1943年に発見されています。

抗生物質という言葉は、最初、「微生物が作る、他の微生物の生育を阻害する低分子化合物」を指していましたが、その後、より広い意味で使われるようになりました。微生物の生育を阻害するのではなく、他の生物に何らかの影響を及ぼす(生理活性をもつ)化合物にも用いられることもあります。こういう広い意味での抗生物質には、抗寄生虫剤、抗がん剤、免疫抑制剤なども含まれますが、その多くが放線菌が生産する化合物から作られています。まさに、放線菌は薬をつくる微生物なのです。

この放線菌の細胞の中で、どのようにして抗生物質が作られているかを明らかにしようというのが私の研究室のもう1つのメインテーマです。

Q:なぜ放線菌はそんなにたくさんの薬を作れるのでしょうか。

まず、二次代謝について説明させてください。細胞の中で物質が違うものに変えられていくプロセスや反応を代謝といいますが、代謝には一次代謝と二次代謝の2つがあります。

一次代謝は、その生物が生きて行くために必須な代謝であり、例えば、アミノ酸や核酸、タンパク質など細胞内で必要なものをつくるための代謝だったり、解糖系やTCA回路などエネルギーを生み出すための代謝だったりがこれにあたります。これに対して、基本的に生育に必須でない代謝、つまり細胞の直接の生死に関係ないものをつくる代謝を二次代謝といいます。生物が作る色素は代表的な二次代謝産物です。花びらの色は昆虫を集めて受粉の効率をよくするために重要ですが、花びらの色素が作れなくても、その植物自身の生育には全く影響はありません。

実は抗生物質も代表的な二次代謝産物なのです。抗生物質を作れなくなっても、その微生物は(少なくとも実験室環境では)全く平気なのです。

さて、一般に一次代謝は多くの生物で共通であるのに対して、二次代謝はそれぞれの生物、さらにいえばそれぞれの種(しゅ)に特異的で、非常に多くのバラエティーがあります。放線菌においては、同じ種(しゅ)であっても分離源が異なるそれぞれの菌株で生産する抗生物質が違うということもよくあります。

ここまで話せばおわかりの方も多いと思いますが、放線菌が多種多様な抗生物質を作れるのは、たくさんの種の放線菌が地球上に存在し、それぞれが独自の二次代謝産物として抗生物質を生産しているからなのです。放線菌は一般の細菌と比べて抜群に二次代謝の能力が高く、まさに薬になるような化合物の宝庫と言えるのです。

Q:放線菌の細胞の中でどのようにして抗生物質は作られているのですか。

すでにお話したように、抗生物質は放線菌の二次代謝によって作られています。二次代謝では細胞内に普遍的に存在する化合物(一次代謝で作られる化合物)を出発材料にして、それを段階的に別の化合物に変えていくことで目的の化合物が作られていきます。この過程を生合成といいますが、例えばAという化合物が、A→B→C→D→E→Fと順番に変わっていき、最後に最終中間体であるFから目的の抗生物質になるわけです。この化合物の変換反応はすべて生合成酵素によって触媒されます。また、この化合物変換の道すじを生合成経路といいます。

生合成酵素は、ある特定の化学反応を触媒するタンパク質で、細胞の中で働きます。放線菌の細胞を抗生物質という“製品”を作る“工場”だと考えた場合、生合成酵素は部品の一部分を作り変えたり、別の部品とくっつけたりする“機械”に相当します。部品がベルトコンベアで運ばれ、いくつかの機械で加工されて、最終的な製品になるというイメージで考えるとわかりやすいと思います。この“生産ライン”が生合成経路に相当します。

私の研究室で明らかにしたいのは、抗生物質がどのような“生産ライン”にのって、また、どのような“機械”によって、作られているかということです。

さらに、新しい“機械” つまりこれまでにない反応を触媒する生合成酵素を見つけた場合には、その詳細な反応機構を明らかにすることも行っています。これは“機械”の仕掛けを部品レベルで調べることに相当します。

二次代謝の生合成酵素には、これまでの常識では考えられないような化学反応を触媒するような酵素がたくさんあり、とても興味深いです。

Q:実際、どのようなアプローチで研究を進めているのでしょうか。

私の研究室で現在行なっている生合成研究のアプローチは大まかに言って2つあります。化合物からのアプローチとゲノム配列からのアプローチです。少し難しいところがあるかもしれませんが、以下、順に説明します。

土からさまざまな種類の放線菌を採取して、新しい薬になる可能性を秘めた化合物を探そうという研究があります。私の研究室では、このような研究、実はこれから少し始めたいと考えているのですが、これまでは行ってきませんでした。そこで、他の研究グループが見つけた抗生物質のうち、興味深い部分構造をもつ抗生物質の生合成研究を、その抗生物質と生産菌を発見したグループとの共同研究として行っています。すなわち、化合物ありきで、その“生産ライン”と“機械”を調べるという方向です。

具体的には生産菌のゲノム配列を決定し、生合成酵素群をコードする遺伝子領域すなわち生合成遺伝子クラスターを見つけ、個々の生合成酵素の機能を解析していきます。“生産ライン”を作る酵素群は通常、染色体DNA上の一箇所にまとまってコードされており、それが生合成遺伝子クラスターなのですが、このことは生合成研究にはとても都合がいいです。

もう1つのゲノム配列からのアプローチでは、出発点は化合物ではありません。次世代シーケンサーという言葉を聞いたことがある人も多いと思いますが、DNAの塩基配列解読技術は近年めざましく発展し、膨大な数の微生物のゲノムすなわち全DNA配列情報がデータベースに登録されています。“機械”である生合成酵素も染色体DNAにコードされているため、興味深い“機械”を有した“生産ライン”の存在をゲノム情報から知ることができます。

このようにしてゲノム配列上で見つけた興味深い生合成酵素遺伝子を含む生合成遺伝子クラスターを出発点として、それが生産する化合物を同定し、その生合成経路を解明していくのがもう1つのアプローチになります。この手法はゲノムマイニングと呼ばれています。マイニング(mining)とは採鉱という意味で、ゲノム配列という“山”から新規酵素という“金脈”を掘り当てるというようなイメージです。

興味深い“機械”と述べましたが、それは新しく見つけた新規な反応を触媒できる生合成酵素のことが多いです。その酵素とアミノ酸配列レベルで似ている(相同性がある)酵素をゲノムデータベースから検索してくるのですが、見出された酵素は元の酵素と全く同じ反応を触媒するものもあれば、少しだけ違う反応(例えば修飾する位置が違うとか基質として用いる化合物が違うとか)を触媒する場合もあります。その酵素が関わって最終的に合成される抗生物質は元の酵素が関わって作られるものとは違うケースがほとんどですので、新たな化合物の生合成研究の中から、新しい反応を触媒する酵素が見出される可能性も高いです。

Q:生合成の研究にはどのような応用がありますか。

抗生物質の生合成経路(“生産ライン”)や生合成酵素群(種々の“機械”)がわかると、その生産量をあげることが容易になるだけでなく、元の抗生物質とは少しだけ違う構造をもった化合物(これをアナログと呼びます)を作れるようになります。

“生産ライン”にある“機械”を少し違う“機械”に取り換えたり、元の“機械”の部品をいじったりすることによって、違った製品ができるというイメージです。

抗生物質の構造は薬としての活性に大きく関わっていますので、いろいろなアナログを作ってその生理活性を調べることには大きな意味があります。
一方、近年では薬に限らず、例えばプラスチック原料などの有用化合物を微生物に作らせる研究が注目されていますが、その際にも生合成研究は大いに役に立ちます。なかでも、これまでに知られていない反応を触媒する酵素の取得は、“微生物工場”に設置できる“新しい性能をもった機械”を開発するという意味からも極めて重要になります。

私の研究室でも、以前、たった2つの酵素でベンゼン環を簡単に合成できる生合成経路を発見しましたが、全く新しい反応を触媒するこれら2つの酵素を利用して、超高耐熱性バイオプラスチックの原料となる化合物を微生物に生産させる研究を現在も行っています。

長期スパンで、基礎研究に取り組む

Q:今後の課題としてどんなことがありますか。

先ほど述べたバイオプラスチックの研究は、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)という内閣府主導の大きな取り組みの1つの研究領域において、課題の1つを構成するコンソーシアムの中で、高分子化学や電気科学の専門家との共同研究として行っています。この研究プログラムでは“社会実装”が最終目標ですが、このバイオプラスチックを用いて作った製品が社会に出るとしても、かなり先になると思います。本研究などを通して、大学で行っている基礎研究から社会実装までには大きな隔たりがあるように感じています。大学発ベンチャーを作るというのが社会実装のための1つの方策であるという話はよく聞きますが、社会実装を目指すような研究では、常日頃から企業の方と一緒に研究を進めるほうが効率的であるように思います。

SIPのことはさておき、本来、大学でやるべき研究というのは、あまり社会実装を意識しすぎないもののほうがいいのではないかという気持ちは以前からあります。

どう考えても社会実装を目指す研究は企業のほうが得意であり、そこは企業にまかせて、大学では企業ではなかなかできない、新しいシーズ(実用化につながる研究のタネ)を生み出すような研究が主体であったほうがいいのではないかという考えです。

利益に直結する研究成果が10年先になっても出るかどうかわからないというような研究は、なかなか企業ではできないのではないかと思います。一方、大学では、利益を考えないでサイエンスとしての成果を目指すことができますので、そのような大学の強みをもっと大切にしてもよいのではないかと思うわけです。
言葉を変えると、大学ではより長期的な視点での研究をもっと行うべきであるように思います。
もちろん、そうは言っても大学でも、特に若手研究者は将来のキャリアパスのために、研究成果をあげることが求められていますので、短期、中期、長期、それぞれの視点でバランスよく研究を考える必要があるとあらためて思います。これは今後の大きな課題と言えるかもしれません。

Q:研究室にはどんな学生がいますか。

学生は学部4年生から、大学院博士課程3年までいます。学部は農学部の生命化学・工学専修、大学院は応用生命工学専攻です。私の研究室は学生の間では忙しいラボという噂のようで、基本的に一生懸命研究に取り組むぞという意気込みのある学生の割合が高いと思います。

研究にはこれまで誰もが知らなかったことを知りたいという気持ちが大事だと思います。学生のうちは言われたことだけをやってもある程度研究は進むかもしれませんが、その先、いざ一人で何かをやろうとした時に、好奇心を持って取り組んでいけなければ、なかなかその研究は発展していかないと思います。

私の研究室には「醗酵の捨て育ち」という言葉が昔からありまして、基本的に本人任せの部分も大きいように思います。もちろん、新人には手取り足取り丁寧に教えますし、実験結果のdiscussionにもたくさん時間を使っています。しかしながら、学生各自がやる気をもって研究に取り組んでくれるのが基本であり、そうでないと研究者としての本当の成長は全く期待できないと思っています。

そのような意味で私が学生によく言っているのは、「自分の研究テーマの周辺については、世界中の誰よりも詳しくなってください」ということです。今の時代、自分が知りたいと思えば情報はいくらでも集められます。ちょっとネットで調べれるだけで、ネットがなかった時代には到底手に入れることができなかったいろいろな情報に即座に辿りつくことができるんです。英語の論文にしても、簡単に検索できるうえ、東大ならほとんどのジャーナルの論文が全文タダで読めます。(大学が高額なお金を払って出版社と契約しているからなのですが…。)

文献検索も昔に比べてものすごく進んでいるので、新しく論文を読んでそこに引用されている論文にリンクがあるのは当り前で、その論文のあとに出版され、その論文を引用している論文さえも簡単に探すことができます。これは昔から思うと本当に画期的です。1つの論文から、その研究の周辺の研究を、過去だけでなく最新のものまで、あっと言う間に知ることができるのですから。

もちろん、英語の原著論文を読んで、その内容をしっかり理解できるようになるには、それなりの勉強が必要だと思いますが、研究のプロを目指すのであれば、それはできるだけ早い段階で身につけてほしい能力です。誰もが知らないことを明らかにするには、これまでに知られていることをしっかり認識していないといけないからです。

私や日々多くの学生の指導に直接あたっている研究室の准教授、助教の先生より、学生一人一人のほうが自分自身の研究テーマおよびその周辺のことを考える(あるいは文献等で勉強する)時間はたくさんあります。だからこそ、世界中の誰よりも自分の研究テーマの周辺について詳しくなることが可能であり、そういう意識を持って研究に取り組んで欲しいわけです。

Q:企業との取り組みはどのように進めていきたいですか。

昔からのお付き合いがある企業様や、近年、新しく共同研究などで繋がりができた企業様がいくつかあります。
大学と企業の関係で一番大事なのは、お互いを尊敬できること(mutual respect)であるというのが、京都大学の山田秀明名誉教授のお言葉であり、私の研究室でもこの言葉を大事にしたいと思っています。すでにお話ししましたが、大学と企業では得意とする研究が違いますので、どんな取り組みであれ、お互いのよいところが活きるような関係でいられるといいと考えています。

企業では、短期的なスパンと長期的なスパンで研究開発を分けて考えておられるはずですので、どちらかというと長期的な研究の方が大学との相性はいいと思います。大学での研究の一番の強みは長期的な視点での基礎研究であり、そのような研究から見出されるシーズだと思いますので、長い目でお付き合いさせていただけると大変ありがたいです。もちろん、短期的な課題解決型の共同研究も十分に可能であり、すぐにお役に立てることができれば、それはそれで大変嬉しいですが。

Q:今後の目標を教えてください。

よく学生にも言っているのですが、研究室のプロダクトは2つあると考えています。1つは論文をはじめとした研究成果です。そしてもう1つは研究室から卒業していく人そのものです。たとえその学生が研究ではいい成果をあげられなかったとしても、卒業後、その経験を活かして活躍してくれたなら、それがどんな分野であったとしても、研究室の大きな成果であると考えています。

今後の目標としては、これまで通りしっかりした研究を続けていくことは当然です。
さらに、卒業生がどんな分野であっても活躍してほしいと言ったばかりですが、少し欲をいえば、基礎研究やアカデミアに興味をもち、この研究領域の次世代を担っていってくれるような学生をもっとたくさん研究室から輩出していきたいですね。これがもうひとつの目標です。

近年、日本全体で博士課程に進学する日本人学生がすごく減ってきていると思います。少なくとも私の身の回りではそうです。最近の学生の目には、アカデミアの研究職が魅力的でない世界に映っているようです。若手ポジションの不安定性など確かに頷けるところもありますが、大学人として、そういった環境を少しでも変えていくことも今後の目標にしたいと思っています。

ありきたりに聞こえるかもしれませんが、要するに、真の意味でレベルの高い研究・教育を実践すること、また、それを可能にする場やシステムをさまざまなところ(研究室、専攻、大学、学会・財団法人、国のプロジェクトなど)で作っていくことが私の今後の目標です。(了)

大西 康夫

おおにし・やすお

東京大学大学院農学生命科学研究科 教授。

1991年、東京大学農学部農芸化学科 卒業。

1993年、東京大学大学院農学系研究科応用生命工学専攻 修士課程 修了。

1996年、東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻 博士課程 修了。博士(農学)。

東京大学にて日本学術振興会特別研究員を務めたのち、1997年より東京大学大学院農学生命科学研究科 助手。

2002年、同助教授(2007年より准教授)。

2010年、同教授(現職)。

2020年、東京大学微生物科学イノベーション連携研究機構 機構長。JBA(日本バイオインダストリー協会)発酵と代謝研究会 会長。

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