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活性汚泥のメカニズムを最新技術で解明する〜佐藤由也・産業技術総合研究所環境管理研究部門 主任研究員

2019年10月29日 by Top Researchers

日本の下水処理場では、「活性汚泥」と呼ばれる微生物の集団を用いた下水の分解処理がなされている。この活性汚泥は長年使われているが、その正確なメカニズムが解明されないまま今日に至っている。こうしたなか、近年目覚ましい発達を遂げている次世代シーケンサーを用いて、「微生物生態学」の観点から活性汚泥のメカニズム解明に取り組んでいるのが、産業技術総合研究所環境管理研究部門の佐藤由也主任研究員だ。数千種類の微生物の集合体を観察する手法と研究アプローチについて、佐藤研究員に話を伺った。

微生物生態学の観点から活性汚泥を研究

Q:まずは研究の概要について教えてください。

我々の家庭やオフィスなど、人がいるところでは必ずと言っていいほど水を使います。使った水は必ず処理をしてからでないと、川などに流すことはできません。
我々が行っているのは、処理場に集められた下水を川に流すことができるように奇麗な状態にする作業についての研究です。

日本中の下水処理場では「活性汚泥」と呼ばれる微生物集団が使われています。活性汚泥は数千種類以上の微生物が混ざったもので、実用化されてからは100年くらい経っていますが、まだまだわかっていない部分が多く、少し環境を変えただけで調子を崩してしまうことも少なくありません。
都心や山間部、海浜地区などさまざまな場所に処理場がありますが、活性汚泥による水処理システム自体は日本中のどこでもほぼ同じです。

これまでは活性汚泥に含まれている多種多様の微生物全てを解析することができなかったため、詳細がわからないまま使われてきたという背景があります。

つい最近になって「次世代シーケンサー」が出てきたことで、微生物に限らず生き物のDNA配列を大量かつ高精度に調べられるようになりました。活性汚泥について詳しく調べるための準備が整ったというわけです。
微生物のDNA配列を調べることは古くから行われてきましたが、現在はその効率が数百倍になったという感じですね。以前は一つひとつ採っては調べてを繰り返すような形でしたが、現在では1サンプルあたり数千〜数万種類の微生物を、同時に調べることができるようになっています。

さて、この分野は「微生物生態学」という学問にあたります。微生物の研究は、基本的に1種類を対象にして調べていきますが、自然界では何種類もの微生物が混在していることがほとんどです。それをそのまま見ていくのがこの分野の特徴です。

なかでも排水処理の研究については、微生物の種類も多く非常にバラエティーが豊かな分野だと思います。社会のニーズにも近いと言えますね。

私たちの研究室では、特に1点にこだわっているわけではなく、広く全体的に研究をしています。あとは、企業の方にどんなところで困っているかなどのインタビューを行い、それをもとに共同研究を進めていくことも多いです。
よくある問題について例を挙げると、排水に重油が入ってきたときに微生物がダメージを受けて全体的な機能が低下してしまうこと、などがあります。他にも、気温の変化などによって処理ができなくなってしまうこともあり、環境の変化に弱いところがあります。

なかでも一番大きな問題なのは、微生物のゴミ化です。微生物にとって排水に含まれているものは栄養分で、それを食べることで微生物はどんどん数を増やしていきます。しかし、その数が増えすぎると、余剰としてゴミになってしまう微生物が出てきます。

実はこの微生物のゴミこそが、日本の産業廃棄物の約2割を占めているのです。
見た目は泥のようなもので、乾かしてから燃やし埋め立てていきます。そこにかかっている大きなコストを減らしていくことが注目トピックになっています。

研究のアプローチ方法としては、微生物が化学反応レベルで何をしているかを観察できる「遺伝子発現解析」と言うものを使っています。微生物は、ゲノム情報に保存されている多数の遺伝子の中から、環境に応じて必要なものを必要な量だけつくり、必要な反応だけ進めています。そのため、つくられた遺伝子の量を測って種類を調べることで、どんな反応が起きているかを知ることができます。

これまでにも1種類の微生物を対象にしたものは行われてきましたが、何千種類というケースはほとんど行われてきませんでした。そこであえて今までにない手法でやってみようと考えたわけです。

Q:研究室の体制はどうなっていますか。

近隣の処理場から活性汚泥をわけていただいて、だいたい200リットルくらいの排水処理装置を自分たちでつくります。そこに活性汚泥を溜めて、油の入った排水を実際に入れます。その状態でどこまで処理ができるか、どうするとうまく処理できなくなってしまうのかを試して、その原因を遺伝子発現解析で調べているという感じです。
サンプル自体は1ミリリットル程度あれば十分なので、使っているシーケンサー自体も小型のデスクトップタイプです。

今回の研究では、数千種類ある微生物のなかから、油を分解している微生物を特定できたことに加え、それをサポートしている微生物が特に重要だということがわかりました。まず、主役である重油を分解する微生物がいますが、その微生物のエネルギー源になるのが「硝酸」です。しかしこの硝酸は、もともとの排水の成分には含まれていないものです。

そこで硝酸はどこからきているのかを調べたところ、別の微生物によって供給されていたことがわかったのです。供給源である微生物が排水中のアンモニアを使って硝酸をつくりだし、油を分解する微生物のエネルギー源になっていたというわけです。

もともと、油を分解する微生物には酸素がなければいけないと思われていたので、油はたいてい酸素がある状態で分解されていくものだと言われていました。しかし、今回は酸素濃度が非常に低い状態だったことから、微生物が酸素を使わずに油を分解しているということがわかったのです。酸素の代わりに硝酸が必要だったということです。
例えば、油が分解できない時に、普通ならもっと酸素を増やせばいいと考えがちですが、酸素以外のエネルギー源の供給が必要なパターンもあるということがわかったのです。

ただし、サポート役の微生物がほとんどいない場合はアンモニアを増やしてもあまり効果がありません。
この微生物は、全体の0.25パーセントほどしかいないため、かなり希少なものになります。うまく誘導してあげなければ力を発揮してくれないので、今回はいい状態のときをとらえることができたと思っています。
ただ、うまく誘導するというのは非常に難しいことでもありました。

実は、実験でわかったことがもう一つありました。重油の分解菌は、サポート役の微生物の毒になるものも一緒に分解してくれていた、ということです。もともとこれらの微生物が重要な働きをすることは知られていましたが、酸素がないところでも活発に油を分解できると明らかにできたこと、さらに複雑な微生物群に対して遺伝子発現解析を適用して、個々の微生物の働きや微生物同士の関係性を明確に示すことができたというところも大きなポイントだと思っています。

情報解析の技術が必須に

Q:ご自身のご経歴を教えてください。

学部時代は食品産業に関するような微生物の研究をしていました。大学院からは、進化的起源の古い好熱性の微生物の解析をしていました。その微生物が持っている新しい酵素とか、遺伝子などについてどういう機能を持っているのか、またそれがどう役立つのかを調べていまして、ずっと1種類の微生物を対象にした研究をしてきました。
産総研に入ってからは、複数の微生物を同時に対象にするような研究分野(微生物生態学)になりました。もともと同じ研究室の先輩がいたので、それもあって産総研に応募しました。

あと微生物の分野だと産総研は優秀な研究者が多いこともあって、よく知っていました。それからはずっと同じことをやってきました。留学については、ずっと行きたいと思っていましたが、産総研の研究をいったんストップすることになるので、グループのみなさんと調整をしながらやっとその時期を設定できたという感じですね。

Q:今後解決すべき課題として、どんなことがありますか。

今後は、企業の方との共同研究を通して、困りごとを解決していくのがメインになるかなと思います。その年によってテーマも変わっていきますし、あとは水処理だけでなく土壌の浄化にも微生物が使われています。これからは、水だけでなくさまざまなものを対象にしていくことも増えてくるだろうと考えています。
技術的な課題として、微生物生態学という分野に言えることとしては、対象とする微生物が数千〜数万種類なので、全ての微生物の役割を調べることは難しいと考えています。

見落としているところもまだまだあるだろうなというのが、全体的な課題だと言えます。
それを解決するための有効な手段としては、自分が使っているような遺伝子発現解析(メタトランスクリプトーム解析)やメタゲノム解析はよく使われている手法で、そういったアプローチが重要になってきています。
たくさんいる微生物からDNAの配列を取得してくるのですが、そのデータがあまりにも膨大でプログラムなどを使わなければ解析が難しい状況があります。

それを踏まえると、情報解析の技術が必要になってきていると思います。インフォマティクスの技能を持っている人が不足している状況で、おそらく生物学の分野全体でそうだと思いますし、さまざまな企業がデータアナリストを高い給料で雇うという風潮も似た状況だと感じます。

膨大なデータを整理して有用な情報をとってくることは非常に重要なポイントで、そういった人材をはじめ、どんな人でも使えるようなツールがまだ生まれていないという部分も課題かなと思います。
産業的な課題としては、企業の方はお客様ですので言いづらい部分でもあるのですが、どちらかというと廃棄物の処理にはできるだけお金をかけたくないという企業が多いように感じています。

ゴミにお金をかけることにネガティブな印象があって、投資されにくいところがあると思います。国から配られる予算もこれと同じで、病気や創薬の研究などにはすごく大きなお金がかけられているのに比べ、環境問題などにかけられるお金がやや少ない気がします。

従来の技術では、活性汚泥などの複雑な微生物を対象としても、わかることや成果が少なかったわけです。研究をしても本当に当たるのかわからない部分もあったと思うので、技術が進歩してきた時代にコツコツと成果を上げて、少しずつでも企業の方から環境問題に投資してもいいかなと思ってもらえるようになっていけたらと考えています。

Q:この分野を志す学生にはどんなことが必要でしょうか。

自分はまだまだそういったことを言える立場ではない気もするのですが、この分野を目指す学生さんには、これという分野に決めてしまわず、さまざまな分野を見て判断していただきたいと思います。
技術的なことでは、先ほどもお話ししたように膨大な情報を処理できる人材が不足している問題もありますので、そういったところの技術を今のうちに習得しておくと、生物学の分野では大体どこでも役に立つのではないかと思います。

Q:企業とは今後どのように関わっていきますか。

産総研の場合では、一般的な問い合わせを受けている窓口もあります。それ以外だと、学会などで知り合った方から後日連絡をいただいて、直接来ていただくということもありますね。

今後は、例えば化学プラントなどは排水にも重要な情報が含まれているそうで(何をどうつくっているかなど)、そういった事情があるために排水処理の方法に関する公開された情報が不足し、確立されたものがないのが現状だそうです。

産総研はちょうど中立的な立場で研究ができる機関でもあるので、何か皆さんの役に立つものがあればできる限り発信していって、ニーズの大きさに比べて情報が少ない化学プラントのようなところにも貢献していけたらと思っています。

Q:今後の目標を教えてください。

ここ1年くらいの目標としてはしっかり留学先で成果を上げることがまず一つあります。
水処理に関しては、冒頭でもお話しした微生物のゴミの問題にすでに取り組んでいます。微生物の中には、他の微生物を食べる捕食性のものがいまして、そこに着目すればうまくゴミを減らせるのではないかと考えています。

メカニズムの面でもわかっていないことが多いので、微生物の関係性を明らかにすることも含め、自分たちの成果をもっとアピールしていけたらと思っています。(了)

佐藤 由也

さとう・ゆうや

産業技術総合研究所 環境管理研究部門 主任研究員。

2008年、東京工業大学生命理工学部卒業。2010年、東京大学農学生命科学研究科修士課程修了。2013年、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了(農学博士)。

2013年より、産業技術総合研究所 環境管理技術研究部門 研究員となり、2015年からは同環境管理研究部門 研究員となる。

2017年より現職。

2019年より米国マサチューセッツ工科大学に訪問研究員として1年間滞在予定。

2013年に日本学術振興会 育志賞を受賞。

    Filed Under: Bio/Life Science

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