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熱電変換の研究で、熱エネルギーの有効利用を実現する~野村政宏・東京大学生産技術研究所准教授

2019年6月14日 by Top Researchers

エネルギーの有効利用が社会で求められるなか、近年再度注目を集めているのが「熱」エネルギーである。従来、熱エネルギーはコントロールが難しい面があったが、近年この熱エネルギーをナノテク領域からアプローチすることで、新たな発見と技術が生み出されつつある。こうした中、「フォノンエンジニアリング」と「エネルギーハーベスティング」といったキーワードを軸に研究を進めているのが、東京大学生産技術研究所の野村 政宏 准教授だ。今回は熱を電気エネルギーに変換する研究の概要や可能性について野村准教授に伺った。

ナノテクで「熱電変換」の分野を再活性化させる

Q:まずは、研究の概要について教えてください。

熱電変換技術の使い道には大きく2つの方向性があります。
一つ目は、何かに使われて排出された熱を使い勝手の良い電気エネルギーにする、社会全体のエネルギー効率をあげるという方向性です。

もう一つは、どこにでもある熱を少しずつかき集めて、使える電気エネルギーにして半永久的に動くデバイスを実現するという方向性です。

化石燃料を燃やしたり電力投入したりしてエネルギーを消費すると、どうしても熱が発生します。そこで、その熱を電気に変換して使えないかというリサイクル的な考え方がまず出てきました。

そして90年代に入ってもう一つ。熱はどこにでもあるものですから、もし熱を電気に変えられたら、逆にどこに置いても使えるデバイスができるのではないか、という考え方があります。その分散性の高さを生かして、世の中に大量のセンサーをばらまく「トリリオンセンサー社会」を実現するにあたり、物理空間と情報空間を結びつけるセンサーを駆動するエネルギーソースとして熱を使うという考え方があります。

そもそも「熱とは何か」というところから考えると、学校の授業などでは、物を温めると材料を構成している原子や分子がぶるぶるとより激しく震えると教わりますよね。

イメージとしては、震え方が激しい時ほど熱いということになります。震えているため振動が伝わっていくのですが、量子力学ではその振動のことを「フォノン」と呼んでいます。光の粒は「フォトン」と呼ばれていますが、熱の場合がフォノン、そしてフォノンの伝導が「熱伝導」というわけです。

熱を制御することはフォノンの輸送を制御することを意味します。
例えば材料にナノレベルの小ささで少し手を加えて、フォノンの流れ方を変えるとか、伝わる速度を変える。
こういったテクノロジーのことを「フォノンエンジニアリング」と呼んでいます。

環境から発電をする「エネルギーハーべスティング」が最近はやっています。「ハーベスト」という言葉には「収穫」という意味があります。エネルギーがふわふわと漂っているところをかき集めて、使えるようにしていく。これがエネルギーハーべスティングです。

様々なエネルギーハーベスティング技術がある中で、最も発電量が多く効率もよいのが太陽光発電です。一方で、日が当たらないところにこそ腐食などの問題が発生しやすく点検も困難なので、そういったところでエネルギーを取得してセンサーなどのデバイスを駆動したいというニーズはかなりあります。
例えば建築物の中やインフラだったらトンネルの中とか橋の裏側です。したがって、まだ発電量は少ないけれども、「熱」や「振動」がよいエネルギーソースになります。

以上のように、ナノテクに基づいたフォノンエンジニアリングによって、熱エネルギーの有効利用を可能にする研究が、私の研究です。

Q:研究アプローチには、どのような独自性があるのでしょうか。

熱エネルギーを、使い勝手の良い電気エネルギーに変える、「熱電変換」という分野がずっと昔からあったのですが、その分野に光学分野で培った自分の知識と経験を投入して、独自性の高い研究を行っています。

発熱を抑えることは、ほぼすべてのアクティブデバイスの性能をあげることに繋がります。パソコンも小さく作ることで性能を上げてきましたが、その性能が頭打ちになっているのは過度の温度上昇を避けるため、投入できるエネルギーに制限がかかっています。

もしそこにもっとエネルギーを投入できれば、さらに性能を上げられるはずですから、放熱を効率よく行うことが非常に重要になってくるのです。

熱伝導を決定する物理は、マクロの世界とナノの世界で違ってきます。
アクティブデバイスは、ナノ構造を多く含んでいます。ナノの世界の熱伝導はマクロの世界と異なるので、マクロな材料の物性値を用いてシミュレーションを行っても、全然違ってきてしまうのです。

そのため、きちんとした熱伝導解析を行うためには、ナノの世界特有の物理を解明する必要があります。フォノンエンジニアリングという分野を掘り下げていくことで、実用的な熱マネジメントの問題解決に役立つと考えています。

私の研究の独自性は、私のバックグラウンドが生み出しています。2005年に博士号をとったのですが、その前後の10年ほどはずっと光の研究を行なっていました。光の分野の知識と経験を持って違う分野にいけば、新しいブレイクスルーをもたらせるのではないかと考えて、熱の分野にやってきました。

実は光の分野には、熱が嫌いという研究者が多くいます。というのも、美しい光物性を観測しようとすると、熱はノイズにしかならないので、温度を下げる必要があります。熱は邪魔者というわけです。光の分野から熱の分野に行く人はほとんどいませんので、自然と、独自性の高い研究を行うことができています。

一度研究の分野を定めると、10年くらいはその分野で研究を続けることになります。研究室を持つ前は、自分ひとりで数年間の研究のボリュームを考えればよかったところが、研究室を持つと10年間、10人を受け持つことになりますから、かなりのボリュームになってきます。そのため、未開拓で面白く、かつボリュームのある分野を探すのはすごく大変で、1年ぐらいかけてテーマを探していました。

その間に震災が起き、研究テーマ選びに影響を与えました。以前からもっていた、電子と光の次は熱がくるという大局観に基づいて熱を研究対象とすることは揺らぎませんでしたが、ナノスケール熱伝導の物理がすごく面白という学者としての好奇心を満たすという視点に加えて、「人類の役に立つ研究をすべきだ」という使命感をより強く感じました。

Q:10年間の研究成果として、どんなものがありましたか。

光学と伝熱工学のアナロジーという視点で、伝熱工学分野に新しい概念を持ち込んで、高度な熱伝導制御をするための新しい概念、手法および測定法を確立しました。

ある理想的な環境下では、熱が光のような挙動をするのですが、その性質を用いて斬新な熱制御法を提案・実証しました。熱は、コップの水にインクを垂らしたときのように四方八方に広がっていってしまうように、言うことを聞きません。それが、ナノ構造をうまく使うと、ある一定の距離ではあるものの熱流が方向性を保ってまっすぐ進んでくれるわけです。この特徴をうまく使いこなすことができれば、より高度な熱伝導制御が可能になりますが、実証されていませんでした。

そこで、幾何光学においてレーザー光線が鏡で反射していくような、構造でデザインされる美しい熱伝導が実現できたら面白いよねと思い付き、ナノ構造をデザインすることで熱を固体中で一点に集めることに世界で初めて成功しました。

何が衝撃的だったのかというと、熱は方向性なく拡散していくものですから、通常であれば集まってくることは考えられないわけです。これは熱力学の第2法則に反するような、自然界では絶対に起こらないことですが、熱レンズ構造を作り、熱を流し込むことによって、熱が一点に集まってくることを実現することができ、多くの研究者を驚かせました。

Q:現在、研究室の体制はどうなっていますか。

現在17人で、研究所のため学部生はおらず、大学院生以上の国際色豊かなメンバーがそろっています。生産技術研究所にはLIMMS(リムス)というフランス国立科学研究センター(CNRS)のラボがあり、常時30人くらいのフランス人が在籍していて、そこのディレクターの先生がいます。

あともう1人もCNRSの技術者で、ポスドクが5人、学術支援職員が1人、博士課程の学生が4人、修士の学生さんが4人です。特徴としては国内に限らず優秀な外国人研究者を積極的に採用していて、特にフランスからが多く、ロシアや中国のメンバーなど様々な国籍を持つ人たちと楽しく研究をしています。違う文化を体験できることは、学生たちに大きな刺激になっています。

ナノ構造を用いて、デバイス性能を高める

Q:今後の研究課題としてどんなものがありますか。

熱電変換を用いたエネルギーハーべスティングの最重要課題は、変換効率を高めることです。
アプローチとしては「新材料を探す」と「ナノ構造を使って性能を上げる」という2つの視点です。現在は「ナノ構造を使って性能を上げる」アプローチのほうに取り組んでいます。

昨今の低消費電力技術の発展はめざましく、デバイスを動作させるために必要な電力がどんどん下がってきています。我々は下から効率を上げていっていますから、うまくいけばどこかで手を結ぶはずです。そのときはすぐそこまでやってきていると思っています。我々はシリコンという環境に優しい材料を使って、そのデバイスを実現しようとしていますが、使って頂けるような発電量になるためには、もう少し研究開発の時間が必要です。

現在の最高性能を示す材料を使えば、すぐにでも使えるものはできますが、量産性や経済性、環境負荷の高さに難があります。10年、20年先を見越したときに、高価で高環境負荷な材料は、安価で環境に優しい材料にどんどんリプレイスされていくと思います。そのため、本研究室では、今すぐとか5年後に使える材料は扱わず、最後の最後で使われるだろうという、王道の電子材料であるシリコンを使った研究をしているわけです。

エネルギーハーベスターは、電池と違って環境からエネルギーを集めて動作するので、一度設置すればほとんどメンテナンスの必要がありません。腐食などがあって初めて壊れるもので、電池切れで使えなくなるということはありません。

ご存知のように、高度経済成長期の建設ラッシュから約50年が近く経ち、インフラや建築物の要点検箇所が急激に増えてきています。現在は人が目視点検を行っていますが、コスト高と人手不足のため、センサーで代替したいという要請がたくさんあるのです。

建設会社やデバイスメーカーさんなど企業6社と共同研究体制を組んで、エネルギー自立型センサーノードを使ったモニタリングシステムを開発しています。

センサーノードには、エネルギーを獲得するエネルギーハーベスターに加えて、パワーマネジメント回路とカメラ、データ送受信機が搭載されます。1日に1回カメラで要点検箇所の写真を取って、それを送ってくる。元々の状態と比べて差異があった時だけ、点検要請が出る、という仕組みです。

すべての場所を人が点検するのではなく、機械が異常を検知したところに点検に行く。それだけでもコストがかなり削減できるということで、非常に興味を持っていただいています。今後1、2年の間には実現できるようにしていきたいですね。

別の応用としては、電子デバイスの局所冷却に興味を持っています。電子デバイスには局所的にすごく熱くなる「ホットスポット」があり、熱暴走を避けるため放熱は非常に重要です。熱電変換が「温度差を電気に変える」ということは、言い換えれば「電気で温度差をつくれる」ということです。つまり、クーリングデバイスをつくることが可能です。

現在はそれを使ってホットスポットを強制的に冷却する取り組みも始めています。つまり、「電気から熱」と「熱から電気」という両方を研究していることになります。
高度な熱伝導制御を可能にするフォノンエンジニアリングは、まだまだ新しい技術の宝庫ですから、どんどん開拓していこうと考えています。

産業界も熱マネジメント技術の進展に期待しています。例えば熱を貯められる蓄熱材や断熱材、異方性熱伝導材料、材料の熱伝導率を制御性良く大きく変化させられる機構など、高度な熱伝導制御技術のニーズは高いといえます。制御しにくい熱をいかにうまく制御する技術を生み出すかが、課題であると思います。

Q:この分野を志す学生には、どんな意識が必要ですか。

自分が思いついたアイデアが世界初になるとか、世界最高性能のものができるという興奮を味わってもらいたいです。研究テーマに限らず何かを決めるときは、自分の能力で何ができるかではなく、あくまでも、自分が何をやりたいかという視点で選んでほしいです。

“世界初”という肩書きは誰にも塗り替えられないですし、自分の名前が後世に残るわけですから、そういう興奮を味わってもらいたいです。

研究の分野に飛び込んでくる人が最近は少なくなっていて、残念に思っています。ただ、自分が良い仕事をした時に権威のある国際学会から招待講演をお願いされたり、面識のない研究者が学会に来て「あなたの論文を全部読みました」などと言ってもらえたりするのは、すごく嬉しいことで、モチベーションが上がります。
そういったところに喜びを感じてくれる学生さんが増えたらいいなと思っています。

Q:最後に、今後の目標について教えてください。

本当に社会で使っていけるようなシステムをつくるということはもちろんですが、アカデミックには研究分野をもっと大きくしていきたいと考えています。

フォノンエンジニアリング分野は流行り始めてからまだ日が浅く、研究者の数も多くはありません。しかし、重要な分野だということは間違いないので、思いを同じくする研究者と一緒に省庁などに重要性を伝え、支援を拡充してもらうはたらきかけが重要です。

2017年に立ち上げた研究会を活用して、学生と研究者の交流を促進しています。ここで面白いことをやっている人がいるよということをもっと見えやすくして、ネットワーキングを促すことで分野の発展に貢献していきたいと思います。

あとは人材育成です。研究者だけでなく学生さんにも参加していただいて年に一度、泊まり込みで研究会をしています。そうすると10年、15年後にはその学生さんが大学の先生になって、分野をより大きくしてくれたら嬉しいです。大局観をもって長期的な視点で活動していきたいです。(了)

野村 政宏

のむら・まさひろ

東京大学生産技術研究所 准教授。

2000年、東京大学 工学部物理工学科 卒業。2005年、東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻 博士課程を修了、博士号取得。

2005年より東京大学ナノエレクトロニクス連携研究センター 特任助手を経て、2007年には東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構 特任助教となる。

2010年より現職。

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